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第17話 教会のスカウト
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第17話 教会のスカウト
屋敷を出る馬車は、
驚くほど静かだった。
見送りはない。
別れの言葉もない。
ただ、
「手配しましたから」
その一言だけが、
丁寧に告げられた。
(……これで、終わり)
アヴァンシアは、
膝の上で手を重ね、
揺れる車内で目を伏せていた。
怒りはない。
悲しみも、
もう薄い。
残っているのは、
空白だけだった。
『……ねえ』
見えざる者が、
そっと声をかける。
『次は、
どこに行くの?』
「……分かりませんわ」
それが、
本当の答えだった。
行き先を決める者は、
もう――
自分ではない。
馬車は、
王都の外れで止まった。
「こちらです」
御者に導かれ、
小さな礼拝堂の前に立つ。
古い石造り。
飾り気はない。
だが――
人の出入りは、
多い。
(……教会?)
戸惑っていると、
扉の前で、
一人の老人が立ち上がった。
白い法衣。
背は低いが、
背筋は伸びている。
「……君が、
アヴァンシア嬢だね」
低く、
落ち着いた声。
「私は、
神官ヴィオス」
名を名乗ると同時に、
視線が、
彼女を貫いた。
――見られている。
『……この人』
『気づいてる』
見えざる者が、
警戒する。
(……何を?)
「……突然で、
驚かせてしまったかな」
ヴィオスは、
穏やかに微笑む。
「だが、
噂は耳にしていてね」
「……噂、ですか?」
「“誰もいない場所に
語りかける令嬢”」
胸が、
ひくりと鳴る。
否定すべきか。
黙るべきか。
迷っている間に、
ヴィオスは続けた。
「安心したまえ。
ここでは、
奇異の目で見る者はいない」
その言葉は、
優しい。
だが――
断定的だった。
(……見ている)
理解している。
それを、
疑う余地はなかった。
「君には、
居場所が必要だろう」
「教会は、
それを与えられる」
条件の提示。
選択肢は、
示されない。
『……逃げ場、
ないね』
「……ええ」
アヴァンシアは、
小さく息を吐いた。
「……私に、
何をお望みですの?」
その問いに、
ヴィオスは即答しない。
一拍置いて、
静かに言った。
「――見習いとして、
働いてもらう」
「難しいことはない。
神官に同行し、
祈りを学ぶだけだ」
祈り。
その言葉に、
違和感が走る。
(……私が?)
だが、
拒む理由も、
ない。
拒めば――
行き場は、
完全に消える。
「……分かりました」
声は、
思ったよりも、
落ち着いていた。
それを見て、
ヴィオスは満足そうに
頷いた。
「良い判断だ」
その言葉が、
なぜか――
胸に残る。
教会の中へ案内されながら、
アヴァンシアは
小さく思った。
(私は、
救われたのでしょうか)
それとも。
(……拾われただけ?)
答えは、
まだ――
出なかった。
---
屋敷を出る馬車は、
驚くほど静かだった。
見送りはない。
別れの言葉もない。
ただ、
「手配しましたから」
その一言だけが、
丁寧に告げられた。
(……これで、終わり)
アヴァンシアは、
膝の上で手を重ね、
揺れる車内で目を伏せていた。
怒りはない。
悲しみも、
もう薄い。
残っているのは、
空白だけだった。
『……ねえ』
見えざる者が、
そっと声をかける。
『次は、
どこに行くの?』
「……分かりませんわ」
それが、
本当の答えだった。
行き先を決める者は、
もう――
自分ではない。
馬車は、
王都の外れで止まった。
「こちらです」
御者に導かれ、
小さな礼拝堂の前に立つ。
古い石造り。
飾り気はない。
だが――
人の出入りは、
多い。
(……教会?)
戸惑っていると、
扉の前で、
一人の老人が立ち上がった。
白い法衣。
背は低いが、
背筋は伸びている。
「……君が、
アヴァンシア嬢だね」
低く、
落ち着いた声。
「私は、
神官ヴィオス」
名を名乗ると同時に、
視線が、
彼女を貫いた。
――見られている。
『……この人』
『気づいてる』
見えざる者が、
警戒する。
(……何を?)
「……突然で、
驚かせてしまったかな」
ヴィオスは、
穏やかに微笑む。
「だが、
噂は耳にしていてね」
「……噂、ですか?」
「“誰もいない場所に
語りかける令嬢”」
胸が、
ひくりと鳴る。
否定すべきか。
黙るべきか。
迷っている間に、
ヴィオスは続けた。
「安心したまえ。
ここでは、
奇異の目で見る者はいない」
その言葉は、
優しい。
だが――
断定的だった。
(……見ている)
理解している。
それを、
疑う余地はなかった。
「君には、
居場所が必要だろう」
「教会は、
それを与えられる」
条件の提示。
選択肢は、
示されない。
『……逃げ場、
ないね』
「……ええ」
アヴァンシアは、
小さく息を吐いた。
「……私に、
何をお望みですの?」
その問いに、
ヴィオスは即答しない。
一拍置いて、
静かに言った。
「――見習いとして、
働いてもらう」
「難しいことはない。
神官に同行し、
祈りを学ぶだけだ」
祈り。
その言葉に、
違和感が走る。
(……私が?)
だが、
拒む理由も、
ない。
拒めば――
行き場は、
完全に消える。
「……分かりました」
声は、
思ったよりも、
落ち着いていた。
それを見て、
ヴィオスは満足そうに
頷いた。
「良い判断だ」
その言葉が、
なぜか――
胸に残る。
教会の中へ案内されながら、
アヴァンシアは
小さく思った。
(私は、
救われたのでしょうか)
それとも。
(……拾われただけ?)
答えは、
まだ――
出なかった。
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