19 / 48
第19話 廃墟の家
しおりを挟む
第19話 悪魔祓いの実態
その日の依頼先は、
王都から少し離れた町だった。
「最近、夜になると
物音がしてな……」
依頼主の男は、
不安そうにそう語る。
「悪魔に違いない」
そう断言する声に、
神官は大きく頷いた。
「ご安心を。
神の御名において、
必ずや祓ってみせましょう」
アヴァンシアは、
そのやり取りを
一歩下がった位置から見ていた。
(……断定が、早い)
『……いないよ』
見えざる者が、
即座に言う。
「……ええ」
屋敷に入る前から、
悪意の気配は、
まったくない。
それでも――
儀式は始まる。
香を焚き、
聖水を撒き、
長い祈りを唱える。
(……意味、
あるのでしょうか)
疑問は、
胸の奥で膨らむ。
祈りの最中、
アヴァンシアは
周囲を静かに観察した。
壁。
天井。
床。
どこにも、
“妖しいもの”はない。
『……ただの、
古い家』
「……そうですわね」
それでも。
神官は、
声を張り上げる。
「――去れ!
この家から、
悪しき者よ!」
沈黙。
当然だ。
いるはずが、
ない。
だが。
「……おお!」
神官は、
満足そうに息を吐いた。
「神の御加護により、
悪魔は去った」
依頼主は、
涙ぐみながら頭を下げる。
「ありがとうございます……!」
その様子を見て、
アヴァンシアは
言葉を失った。
(……“去った”)
最初から、
いなかった。
それだけのことなのに。
帰り道。
神官は、
上機嫌だった。
「今日も、
無事に終わったな」
「信仰とは、
こうして人を救うものだ」
その言葉に、
アヴァンシアは
何も答えられなかった。
(……救っている?)
確かに、
依頼主の不安は
和らいだだろう。
だが――
それは、
真実によってではない。
『……お金、
受け取ったね』
「……ええ」
金貨が、
袋に収められる音が
耳に残る。
(これは……)
帰りの馬車で、
アヴァンシアは
そっと目を閉じた。
思い返す。
これまでの同行。
これまでの依頼。
――ほとんどが、
同じ。
最初から、
“悪魔がいる前提”。
確かめることは、
ない。
確信するのは、
祈りの前。
祈りは、
結論の確認でしかない。
(……つまり)
教会は――
悪魔祓いを、
必要としているのではない。
“悪魔がいる”と
信じたい人を、
必要としている。
その事実に、
胸が冷える。
『……ねえ』
『怒らないの?』
「……怒る、
というより」
アヴァンシアは、
小さく息を吐いた。
「……呆れましたわ」
悪意があるわけではない。
だが、
正義でもない。
ただ――
慣れてしまっただけ。
祈れば解決する、
という形に。
夜。
教会に戻り、
簡素な部屋で
一人になる。
(私は……
何を、
期待していたのでしょう)
奇跡?
聖なる力?
そんなものが
最初からないことは、
分かっていたはずだ。
それでも。
(……ここまでとは)
アヴァンシアは、
静かに理解する。
――教会は、
“本物”を
必要としていない。
だからこそ。
(……だから、
私を同行させる)
理由は、
まだはっきりしない。
けれど。
胸の奥で、
小さな違和感が、
確信へと変わり始めていた。
---
その日の依頼先は、
王都から少し離れた町だった。
「最近、夜になると
物音がしてな……」
依頼主の男は、
不安そうにそう語る。
「悪魔に違いない」
そう断言する声に、
神官は大きく頷いた。
「ご安心を。
神の御名において、
必ずや祓ってみせましょう」
アヴァンシアは、
そのやり取りを
一歩下がった位置から見ていた。
(……断定が、早い)
『……いないよ』
見えざる者が、
即座に言う。
「……ええ」
屋敷に入る前から、
悪意の気配は、
まったくない。
それでも――
儀式は始まる。
香を焚き、
聖水を撒き、
長い祈りを唱える。
(……意味、
あるのでしょうか)
疑問は、
胸の奥で膨らむ。
祈りの最中、
アヴァンシアは
周囲を静かに観察した。
壁。
天井。
床。
どこにも、
“妖しいもの”はない。
『……ただの、
古い家』
「……そうですわね」
それでも。
神官は、
声を張り上げる。
「――去れ!
この家から、
悪しき者よ!」
沈黙。
当然だ。
いるはずが、
ない。
だが。
「……おお!」
神官は、
満足そうに息を吐いた。
「神の御加護により、
悪魔は去った」
依頼主は、
涙ぐみながら頭を下げる。
「ありがとうございます……!」
その様子を見て、
アヴァンシアは
言葉を失った。
(……“去った”)
最初から、
いなかった。
それだけのことなのに。
帰り道。
神官は、
上機嫌だった。
「今日も、
無事に終わったな」
「信仰とは、
こうして人を救うものだ」
その言葉に、
アヴァンシアは
何も答えられなかった。
(……救っている?)
確かに、
依頼主の不安は
和らいだだろう。
だが――
それは、
真実によってではない。
『……お金、
受け取ったね』
「……ええ」
金貨が、
袋に収められる音が
耳に残る。
(これは……)
帰りの馬車で、
アヴァンシアは
そっと目を閉じた。
思い返す。
これまでの同行。
これまでの依頼。
――ほとんどが、
同じ。
最初から、
“悪魔がいる前提”。
確かめることは、
ない。
確信するのは、
祈りの前。
祈りは、
結論の確認でしかない。
(……つまり)
教会は――
悪魔祓いを、
必要としているのではない。
“悪魔がいる”と
信じたい人を、
必要としている。
その事実に、
胸が冷える。
『……ねえ』
『怒らないの?』
「……怒る、
というより」
アヴァンシアは、
小さく息を吐いた。
「……呆れましたわ」
悪意があるわけではない。
だが、
正義でもない。
ただ――
慣れてしまっただけ。
祈れば解決する、
という形に。
夜。
教会に戻り、
簡素な部屋で
一人になる。
(私は……
何を、
期待していたのでしょう)
奇跡?
聖なる力?
そんなものが
最初からないことは、
分かっていたはずだ。
それでも。
(……ここまでとは)
アヴァンシアは、
静かに理解する。
――教会は、
“本物”を
必要としていない。
だからこそ。
(……だから、
私を同行させる)
理由は、
まだはっきりしない。
けれど。
胸の奥で、
小さな違和感が、
確信へと変わり始めていた。
---
7
あなたにおすすめの小説
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
王弟が愛した娘 —音に響く運命—
Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、
ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。
互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。
だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、
知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。
人の生まれは変えられない。
それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。
セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも――
キャラ設定・世界観などはこちら
↓
https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578
【完結】能力が無くても聖女ですか?
天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。
十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に…
無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。
周囲は国王の命令だと我慢する日々。
だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に…
行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる…
「おぉー聖女様ぁ」
眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた…
タイトル変更しました
召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する
青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。
両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。
母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。
リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。
マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。
すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。
修道院で聖女様に覚醒して……
大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが
マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない
完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく
今回も短編です
誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡
落ちこぼれ村娘、拾った王子に溺愛される。
いっぺいちゃん
恋愛
辺境の村で育った元気娘 ミレイ。
ある日、森で倒れていた金髪の青年を助けるが、
実は彼は国一の人気者 完璧王子レオン だった。
だがレオンは外に出ると人格がゆるみ、
王宮で見せる完璧さは作ったキャラだった。
ミレイにだけ本音を見せるようになり、
彼は彼女に依存気味に溺愛してくる。
しかしレオンの完璧さには、
王宫の闇に関わる秘密があって——
ミレイはレオンの仮面を剥がしながら、
彼を救う本当の王子に導いていく。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
※この作品は「小説家になろう」でも同時投稿しています。
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる