『公爵令嬢には、見えざるものが見える。話せる。殴れる。 話が通じないなら、へなへなぱーんち!』

しおしお

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第19話 廃墟の家

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第19話 悪魔祓いの実態

その日の依頼先は、
王都から少し離れた町だった。

「最近、夜になると
物音がしてな……」

依頼主の男は、
不安そうにそう語る。

「悪魔に違いない」

そう断言する声に、
神官は大きく頷いた。

「ご安心を。
神の御名において、
必ずや祓ってみせましょう」

アヴァンシアは、
そのやり取りを
一歩下がった位置から見ていた。

(……断定が、早い)

『……いないよ』

見えざる者が、
即座に言う。

「……ええ」

屋敷に入る前から、
悪意の気配は、
まったくない。

それでも――
儀式は始まる。

香を焚き、
聖水を撒き、
長い祈りを唱える。

(……意味、
あるのでしょうか)

疑問は、
胸の奥で膨らむ。

祈りの最中、
アヴァンシアは
周囲を静かに観察した。

壁。
天井。
床。

どこにも、
“妖しいもの”はない。

『……ただの、
古い家』

「……そうですわね」

それでも。

神官は、
声を張り上げる。

「――去れ!
この家から、
悪しき者よ!」

沈黙。

当然だ。

いるはずが、
ない。

だが。

「……おお!」

神官は、
満足そうに息を吐いた。

「神の御加護により、
悪魔は去った」

依頼主は、
涙ぐみながら頭を下げる。

「ありがとうございます……!」

その様子を見て、
アヴァンシアは
言葉を失った。

(……“去った”)

最初から、
いなかった。

それだけのことなのに。

帰り道。

神官は、
上機嫌だった。

「今日も、
無事に終わったな」

「信仰とは、
こうして人を救うものだ」

その言葉に、
アヴァンシアは
何も答えられなかった。

(……救っている?)

確かに、
依頼主の不安は
和らいだだろう。

だが――
それは、
真実によってではない。

『……お金、
受け取ったね』

「……ええ」

金貨が、
袋に収められる音が
耳に残る。

(これは……)

帰りの馬車で、
アヴァンシアは
そっと目を閉じた。

思い返す。

これまでの同行。
これまでの依頼。

――ほとんどが、
同じ。

最初から、
“悪魔がいる前提”。

確かめることは、
ない。

確信するのは、
祈りの前。

祈りは、
結論の確認でしかない。

(……つまり)

教会は――
悪魔祓いを、
必要としているのではない。

“悪魔がいる”と
信じたい人を、
必要としている。

その事実に、
胸が冷える。

『……ねえ』

『怒らないの?』

「……怒る、
というより」

アヴァンシアは、
小さく息を吐いた。

「……呆れましたわ」

悪意があるわけではない。

だが、
正義でもない。

ただ――
慣れてしまっただけ。

祈れば解決する、
という形に。

夜。

教会に戻り、
簡素な部屋で
一人になる。

(私は……
何を、
期待していたのでしょう)

奇跡?
聖なる力?

そんなものが
最初からないことは、
分かっていたはずだ。

それでも。

(……ここまでとは)

アヴァンシアは、
静かに理解する。

――教会は、
“本物”を
必要としていない。

だからこそ。

(……だから、
私を同行させる)

理由は、
まだはっきりしない。

けれど。

胸の奥で、
小さな違和感が、
確信へと変わり始めていた。


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