『公爵令嬢には、見えざるものが見える。話せる。殴れる。 話が通じないなら、へなへなぱーんち!』

しおしお

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第20話 聖なる力はない

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第20話 聖なる力はない

その日は、
祈りの時間が長かった。

大聖堂に集まる神官たち。
揃えられた声。
規則正しい動作。

荘厳で、
美しい。

――だからこそ、
違和感が際立つ。

(……感じませんわね)

アヴァンシアは、
祈りの列の後ろで、
静かに周囲を見渡した。

聖具。
祭壇。
祈りの言葉。

どこにも――
力の“流れ”がない。

『……空っぽ』

見えざる者が、
率直に言う。

「……ええ」

19話までで、
薄々感じていたこと。

それが、
はっきりと形を持つ。

(ここには……
“何もない”)

祈りが終わり、
神官たちは満足そうに頷き合う。

「今日も、
良い祈りだった」

「神は、
確かにおられる」

その言葉を、
否定する者はいない。

否定できる者も、
いない。

昼。

別の神官に付き添い、
小さな祈祷の準備をする。

香を焚き、
聖水を用意する。

その手順は、
正確で、
無駄がない。

(……慣れていますわね)

手慣れている。

それは、
“力がある”からではなく、
作業として完成しているから。

祈祷が始まる。

祝詞。
身振り。
決められた間。

すべて、
型どおり。

『……これ、
誰がやっても同じだね』

「……ええ」

言葉を選ばず言えば、
誰でもできる。

力がなくても。

終わった後、
依頼主が礼を述べる。

「これで、
安心できます」

その表情は、
穏やかだった。

(……救われては、
いますのね)

事実として。

だが。

それは、
神の力によってではない。

『……ねえ』

『ここに、
本物の神官って
いるの?』

その問いに、
すぐ答えは出なかった。

だが――
探してみても、
見当たらない。

少なくとも、
この教会には。

夕刻。

書庫で経典を
写していると、
ヴィオスが現れた。

「……どうだね」

「教会の生活は」

突然の問い。

(……試されていますわね)

「……皆様、
真面目に祈っておられます」

事実。

「……ですが」

言葉を、
選ぶ。

「“力”を
感じることは、
ありませんでした」

一瞬。

ヴィオスの目が、
わずかに細くなる。

だが、
怒りはない。

「……そうか」

それだけだった。

否定もしない。
肯定もしない。

それが――
答えだった。

『……否定しなかった』

「……ええ」

夜。

部屋で一人、
灯りを落とす。

(聖なる力は、
ない)

それは、
断罪ではない。

失望でもない。

ただの――
確認。

教会は、
信仰の場であり、
秩序の場であり、
人を安心させる場だ。

だが。

悪魔を祓う力は、
ここにはない。

(……だから)

アヴァンシアは、
静かに理解する。

(だから、
私は“同行”なのですね)

神官が祈る。
人が信じる。

その裏で――
“何かが起きた時”のために。

理由は、
まだ聞かされていない。

だが。

もう、
分かってしまった。

ここに、
本物の力はない。

そして――
本物が必要な時だけ、
自分が呼ばれる。

それが、
この場所での役割。

逃げる理由も、
告発する理由も、
今はない。

ただ。

この理解を、
胸にしまったまま。

アヴァンシアは、
静かに灯りを消した。


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