『公爵令嬢には、見えざるものが見える。話せる。殴れる。 話が通じないなら、へなへなぱーんち!』

しおしお

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第25話 差出人は実家

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第25話 差出人は実家

その依頼書は、
朝の祈りが終わった直後に届いた。

分厚い封蝋。
見慣れた紋章。

アヴァンシアは、
それを見た瞬間――
指先が、わずかに止まった。

(……実家)

胸が、
きゅっと縮む。

『……懐かしい匂い』

見えざる者が、
小さく呟いた。

「……ええ」

懐かしい。
けれど――
温かくはない。

ヴィオスが、
書状を手に取り、
眉をひそめる。

「……ほう」

「公爵家からの正式な依頼だ」

「“屋敷に妖しきものが巣食い、
人が近づけぬ”――か」

神官たちが、
ざわつく。

「名門だぞ」

「失敗は許されん」

アヴァンシアは、
黙って立っていた。

(……人が近づけない)

その言葉に、
覚えがある。

屋敷が、
静かすぎた日々。

家を守っていた、
あの存在たち。

『……荒れてるね』

「……ええ」

ヴィオスが、
こちらを見る。

その視線には、
いつもの値踏みがあった。

「……同行は、
当然だな」

疑問形ではない。

命令でもない。

前提だ。

「……はい」

声は、
驚くほど
落ち着いていた。

(私は……
仕事として、
帰るのですね)

馬車の準備が進む。

神官が、
いつも通りの口調で言う。

「私情は、
挟むなよ」

その言葉に、
小さく頷く。

(……挟めるほど、
残っていれば良いのですけれど)

馬車に乗り込む。

王都を離れ、
懐かしい道を進む。

景色が、
少しずつ変わっていく。

『……ねえ』

『帰るの?』

「……“帰る”というより」

アヴァンシアは、
窓の外を見つめた。

「……呼ばれただけ、ですわ」

遠くに見える、
かつての屋敷。

その姿は――
明らかに、
異様だった。

壁は黒ずみ、
庭は荒れ、
空気が澱んでいる。

『……ひどい』

「……ええ」

胸の奥で、
何かが
ゆっくりと沈む。

(私は……
出ていっただけ)

(壊したのは、
私ではない)

それでも。

この屋敷が、
こうなったことに――
無関係では、
いられない。

馬車が止まる。

出迎えたのは、
執事だった。

深く、
深く、
頭を下げる。

「……お嬢様」

その一言で、
胸の奥が
小さく鳴った。

神官が、
前に出る。

「教会の者だ」

「状況を、
説明してもらおう」

執事は、
疲れ切った顔で答える。

「……屋敷は、
数日前から」

「“何か”が、
暴れ始めました」

「旦那様と奥様は――」

言葉が、
途切れる。

アヴァンシアは、
静かに息を吐いた。

(……逃げた、のですね)

問いただす気は、
なかった。

『……守る人、
いなくなった』

「……ええ」

その瞬間、
はっきりと理解する。

――家を守っていた
“あの子”が、
いない。

それが、
最大の異変。

アヴァンシアは、
拳を握らなかった。

怒りもしなかった。

ただ――
静かに、
前を見た。

(……仕事ですわ)

(けれど)

この依頼だけは、
ただの“同行”ではない。

そう、
はっきりと分かっていた。


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