『公爵令嬢には、見えざるものが見える。話せる。殴れる。 話が通じないなら、へなへなぱーんち!』

しおしお

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第24話 ペチッ

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第24話 ペチッ

次の依頼は、
特別なものではなかった。

いつも通り。
いつもの町。
いつもの屋敷。

神官は、
自信に満ちていた。

「前回の件で、
確信が持てた」

「祈りは、
決して裏切らない」

アヴァンシアは、
一歩後ろを歩きながら、
静かに息を吐いた。

(……ええ、
“結果”は出ますものね)

『……今日は、
いるかな?』

「……さあ」

屋敷に入る。

一瞬。

『……いる』

「……ええ」

小さく、
頷く。

それだけで、
十分だった。

依頼主は、
不安そうに訴える。

「夜中に、
声がして……」

神官は、
頷く。

「いつも通りだ。
祈りを始める」

祝詞が、
流れる。

香が焚かれる。

悪魔は――
部屋の隅で、
腕を組んで見ていた。

「……またかよ」

小さな声。

聞こえるのは、
アヴァンシアだけ。

「懲りませんのね」

そう言うと、
悪魔が肩をすくめる。

「だってよ、
効かねぇし」

「祈りでどうにかなるなら、
俺も苦労しねぇ」

神官の声が、
高まる。

「――去れ!」

その瞬間。

悪魔が、
神官の背後に回り、
にやりと笑った。

「おい、
見えてるか?」

「見えてないだろ?」

その態度に、
アヴァンシアは
小さく眉を寄せた。

(……調子に乗りすぎですわ)

一歩、
前に出る。

誰にも、
気づかれない程度に。

拳を、
軽く――

――ペチッ。

「ぎゃっ!?」

悪魔が、
情けない声を上げる。

「な、何だよそれ!
反則だろ!」

もう一度。

――ペチッ。

「痛っ!
だからやめろって!」

三度目の前に、
悪魔は後ずさる。

「分かった!
分かったから!」

「もう来ねぇ!
来ねぇから!」

そう叫んで、
消えた。

空気が、
軽くなる。

神官が、
満足そうに頷いた。

「……やはりな」

「祈りは、
段階が重要なのだ」

アヴァンシアは、
何も言わなかった。

依頼主は、
深く頭を下げる。

「助かりました……!」

帰り道。

神官が、
ぽつりと呟く。

「……不思議だな」

「君が同行してから、
“効き”がいい」

その言葉に、
アヴァンシアは
一瞬だけ、
視線を上げた。

(……やはり)

『……役割、
決まったね』

「……ええ」

教会に戻ると、
次の同行予定が
当然のように組まれていた。

内勤の話は、
一切出ない。

祈りを教わることも、
ない。

ただ――
同行。

夜。

部屋で、
手を見つめる。

(殴るほど、
私は必要とされる)

(殴らなければ、
ただの見習い)

それが、
今の立場。

『……嫌?』

「……嫌では、
ありませんわ」

少なくとも、
ここでは――
追い出されない。

役に立つ限りは。

アヴァンシアは、
静かに灯りを消す。

“ペチッ”は、
奇跡ではない。

信仰でもない。

ただの――
作業。

そうして今日もまた、
教会は
「祈りが通じた」と
満足する。

その裏で。

見えないところで。

彼女の小さな拳だけが、
確かに――
仕事をしていた。


---

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