『公爵令嬢には、見えざるものが見える。話せる。殴れる。 話が通じないなら、へなへなぱーんち!』

しおしお

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第23話 嘲笑と祈り

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第23話 嘲笑と祈り

教会へ戻る道すがら、
神官の足取りは、
明らかに軽かった。

「……やはり、
祈りは通じるものだな」

自分に言い聞かせるように、
そう呟く。

アヴァンシアは、
馬車の窓から外を眺め、
何も言わなかった。

(……違いますわ)

そう、
思っただけ。

『……完全に、
勘違いしてるね』

「……ええ」

否定するつもりは、
なかった。

教会に戻ると、
すぐに報告の場が設けられた。

神官は、
胸を張って語る。

「悪魔は、
強力でした」

「ですが、
祈りを強めたところ――
逃げ去りました」

周囲の神官たちが、
感嘆の声を上げる。

「さすがだ」

「神の加護が、
確かに――」

ヴィオスは、
黙って聞いていた。

その視線が、
一瞬だけ、
アヴァンシアに向く。

――何も言わない。

それが、
何よりも重かった。

(……やはり)

(分かっていて、
黙っておられる)

その事実が、
胸に沈む。

報告が終わると、
神官は満足そうに
息を吐いた。

「今日の件で、
確信が持てた」

「祈りは、
決して無力ではない」

その言葉に、
誰も異を唱えない。

唱えられない。

アヴァンシアは、
小さく目を伏せた。

(……本物の悪魔は)

(祈りを、
笑っていましたのに)

あの嘲笑。

「そんな言葉遊びが
効くとでも?」

確かに、
そう言っていた。

だが。

それを知っているのは、
自分だけ。

夜。

自室で、
灯りを落とす。

『……ねえ』

『また、
同じことになるよね』

「……ええ」

『次に本物が出ても、
あの人は
祈り続ける』

「……そうでしょうね」

そして。

本物がいなければ、
何も起きない。

本物がいれば、
自分が――
殴る。

それでも、
功績は
祈りのものになる。

(……私は)

(何をしているのでしょう)

問いは、
胸に残る。

だが、
答えは出さない。

今、
声を上げれば。

「奇妙な娘」
「神を疑う者」
そう呼ばれるだけだ。

(……ならば)

アヴァンシアは、
静かに決める。

黙っていよう。

自分は、
見習い。

神官ではない。

教会を正す立場でも、
暴く立場でもない。

ただ――
“いる時だけ、
仕事をする”。

それでいい。

翌朝。

また、
同行の指示が出る。

神官は、
自信に満ちていた。

「次も、
問題ないだろう」

その背中を見ながら、
アヴァンシアは思う。

(……嘲笑は、
まだ消えていませんわ)

悪魔のものではない。

人の側に残った、
見えない嘲笑。

それが、
いつか――
教会そのものを
蝕むことになる。

だが、
その時は、
まだ先だ。

今は、
祈りが響き、
人が信じ、
結果が“出てしまう”
その循環の中で。

アヴァンシアは、
ただ静かに、
次の同行を待っていた。


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