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第22話 本物の悪魔
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第22話 本物の悪魔
その依頼は、
夜明け前に舞い込んだ。
「……急ぎだ」
神官の声は、
いつもより硬い。
「家人が怯えている。
笑い声が止まらぬそうだ」
(……笑い声?)
その言葉だけで、
胸の奥がざわついた。
馬車が走り出す。
空気が、
明らかに重い。
『……ねえ』
見えざる者が、
珍しく真剣な声を出す。
『これ、
“いないふり”してるやつじゃない』
「……そうですの?」
屋敷が見えた瞬間、
確信に変わる。
冷気。
歪み。
遠慮のない存在感。
(……あら)
(これは……)
屋敷に入るなり、
依頼主が縋りつく。
「昨夜から……
ずっと、笑い声が……!」
神官は、
深く頷いた。
「恐れることはありません。
神の御名において――」
祈りが始まる。
その直後。
『……いる』
見えざる者が、
はっきり言った。
アヴァンシアは、
思わず口を開く。
「あら、いやだ。
本物がいらしましたわ。」
声は、
落ち着いていて、
どこか上品だった。
次の瞬間。
「――は?」
悪魔が、
目の前で姿を現す。
人の形に近いが、
影が歪み、
顔には下品な笑み。
「なんだ、
見えてるじゃないか」
「人間にしちゃ、
珍しいな?」
神官の祈りは、
止まらない。
聞こえていない。
悪魔は、
肩をすくめた。
「おいおい、
まだやってるのか?」
「そんな言葉遊びで、
俺がどうにかなると
本気で思ってるのか?」
そう言って――
神官の額を、
指で ぺちっ。
「……っ!?」
神官がよろめく。
「な、何をする!
悪魔め……!」
祈りが、
さらに必死になる。
悪魔は、
腹を抱えて笑った。
「傑作だな!
その眉唾なおまじない!」
「人間って、
本当に可愛いよなぁ!」
アヴァンシアの眉が、
ぴくりと動いた。
「……人が真面目に
やっているところを、
笑うのはどうかと思いますわ」
一歩、前へ。
「まあ……
気持ちは分かりますけれど」
(エセ祈りですものね)
――心の中で付け足す。
そして。
拳を、
軽く振る。
――ぺちっ。
乾いた音。
「ぎゃああああっ!?」
悪魔が、
頭を抱えて跳ねる。
「な、何だこれは!
おい、やめろ!」
もう一度。
――ぺちっ。
「やめろ!
やめてくれ!」
三度目は、
必要なかった。
悪魔は、
半泣きになりながら
叫ぶ。
「覚えてろよ、人間!
こんなのおかしいだろ!」
そのまま、
霧のように消えた。
――静寂。
空気が、
一気に軽くなる。
「……お?」
神官が、
ゆっくり顔を上げる。
「……神の祈りが、
通じた……?」
満足そうに、
深く頷く。
アヴァンシアは、
黙って手を下ろした。
(……祈りより、
物理ですわね)
依頼主は、
涙を浮かべて感謝する。
「ありがとうございます……!」
神官は、
誇らしげだった。
帰りの馬車。
アヴァンシアは、
自分の拳を見つめる。
『……上品に殴ったね』
「……嗜みですわ」
その一言に、
小さく息を吐く。
本物がいた時だけ、
確かに効く。
それが、
自分の役割。
そして。
今日もまた――
結果だけは、
出てしまった。
---
その依頼は、
夜明け前に舞い込んだ。
「……急ぎだ」
神官の声は、
いつもより硬い。
「家人が怯えている。
笑い声が止まらぬそうだ」
(……笑い声?)
その言葉だけで、
胸の奥がざわついた。
馬車が走り出す。
空気が、
明らかに重い。
『……ねえ』
見えざる者が、
珍しく真剣な声を出す。
『これ、
“いないふり”してるやつじゃない』
「……そうですの?」
屋敷が見えた瞬間、
確信に変わる。
冷気。
歪み。
遠慮のない存在感。
(……あら)
(これは……)
屋敷に入るなり、
依頼主が縋りつく。
「昨夜から……
ずっと、笑い声が……!」
神官は、
深く頷いた。
「恐れることはありません。
神の御名において――」
祈りが始まる。
その直後。
『……いる』
見えざる者が、
はっきり言った。
アヴァンシアは、
思わず口を開く。
「あら、いやだ。
本物がいらしましたわ。」
声は、
落ち着いていて、
どこか上品だった。
次の瞬間。
「――は?」
悪魔が、
目の前で姿を現す。
人の形に近いが、
影が歪み、
顔には下品な笑み。
「なんだ、
見えてるじゃないか」
「人間にしちゃ、
珍しいな?」
神官の祈りは、
止まらない。
聞こえていない。
悪魔は、
肩をすくめた。
「おいおい、
まだやってるのか?」
「そんな言葉遊びで、
俺がどうにかなると
本気で思ってるのか?」
そう言って――
神官の額を、
指で ぺちっ。
「……っ!?」
神官がよろめく。
「な、何をする!
悪魔め……!」
祈りが、
さらに必死になる。
悪魔は、
腹を抱えて笑った。
「傑作だな!
その眉唾なおまじない!」
「人間って、
本当に可愛いよなぁ!」
アヴァンシアの眉が、
ぴくりと動いた。
「……人が真面目に
やっているところを、
笑うのはどうかと思いますわ」
一歩、前へ。
「まあ……
気持ちは分かりますけれど」
(エセ祈りですものね)
――心の中で付け足す。
そして。
拳を、
軽く振る。
――ぺちっ。
乾いた音。
「ぎゃああああっ!?」
悪魔が、
頭を抱えて跳ねる。
「な、何だこれは!
おい、やめろ!」
もう一度。
――ぺちっ。
「やめろ!
やめてくれ!」
三度目は、
必要なかった。
悪魔は、
半泣きになりながら
叫ぶ。
「覚えてろよ、人間!
こんなのおかしいだろ!」
そのまま、
霧のように消えた。
――静寂。
空気が、
一気に軽くなる。
「……お?」
神官が、
ゆっくり顔を上げる。
「……神の祈りが、
通じた……?」
満足そうに、
深く頷く。
アヴァンシアは、
黙って手を下ろした。
(……祈りより、
物理ですわね)
依頼主は、
涙を浮かべて感謝する。
「ありがとうございます……!」
神官は、
誇らしげだった。
帰りの馬車。
アヴァンシアは、
自分の拳を見つめる。
『……上品に殴ったね』
「……嗜みですわ」
その一言に、
小さく息を吐く。
本物がいた時だけ、
確かに効く。
それが、
自分の役割。
そして。
今日もまた――
結果だけは、
出てしまった。
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