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第31話 ヴィオスの怒り
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第31話 ヴィオスの怒り
その夜。
祈祷堂の奥、
普段は立ち入りが制限されている会議室に、
アヴァンシアは呼び出された。
灯りは、
最小限。
長机の向こうに立つのは――
ヴィオス、ただ一人。
「……来たか」
声は低く、
抑えられている。
だが、
それがかえって
危うさを帯びていた。
アヴァンシアは、
一礼する。
「お呼びでしょうか」
「白々しい」
ヴィオスは、
机を指で叩いた。
――コン、コン。
乾いた音。
「今日一日で、
何が起きたか
分かっているか」
「……存じません」
嘘ではない。
起きたのは、
彼の中の変化だ。
「貴族からの書簡が、
三通」
「“教会の祈りは
本当に効いているのか”」
「“最近、失敗が多い”」
ヴィオスの声が、
徐々に荒くなる。
「誰のせいだと思う」
アヴァンシアは、
答えなかった。
答える必要が、
ないからだ。
「……お前だ」
ヴィオスは、
吐き捨てる。
「余計な疑問を口にし、
神官たちの心を
揺らがせた」
「“祈りより物理”などと
噂が立ち始めている」
『……事実なのに』
「……ええ」
アヴァンシアは、
小さく頷いた。
それが、
火に油を注いだ。
「――認めるのか!」
ヴィオスの声が、
跳ね上がる。
「教会の権威は、
“信じさせること”で
成り立っている!」
「結果など、
二の次だ!」
沈黙。
言ってしまった。
ヴィオス自身が、
最も口にしてはならない
本音を。
アヴァンシアは、
静かに見つめた。
(……やはり)
彼は、
信仰者ではない。
『……言っちゃったね』
「……ええ」
ヴィオスは、
自分が何を言ったか
理解したのか。
一瞬、
表情を歪めた。
だが、
引き返さない。
「お前は、
見えないものが
“見える”」
「それを、
私は最初から
知っていた」
その告白に、
空気が張り詰める。
「……なぜ、
同行させていたか
分かるか」
アヴァンシアは、
黙っていた。
「結果が出るからだ」
「お前がいる時だけ、
“祓えた”ことになる」
「神官が評価され、
教会の威光が
保たれる」
『……利用してた』
「……ええ」
否定は、
しなかった。
「だがな」
ヴィオスは、
机越しに
身を乗り出す。
「お前が
考え始めた瞬間」
「その力は、
危険になった」
「教会の枠から
はみ出す存在は――
不要だ」
それが、
結論。
アヴァンシアは、
静かに問い返す。
「……では、
私はどうすれば」
ヴィオスは、
冷たく言い放つ。
「黙っていろ」
「祈りの影に立ち、
殴るなら殴れ」
「だが、
“考えるな”」
沈黙。
その要求が、
どれほど歪んでいるか。
誰の目にも、
明らかだった。
アヴァンシアは、
ゆっくりと
頭を下げた。
「……それは、
できません」
その瞬間。
ヴィオスの顔が、
完全に歪んだ。
「――出ていけ」
声は、
怒鳴り声ではない。
だが、
それ以上に
重い。
「教会を出ろ」
「今すぐではないが、
処分は決定だ」
「明日までに、
荷をまとめろ」
それが、
最終宣告だった。
アヴァンシアは、
深く一礼する。
「……お世話に
なりました」
その言葉に、
皮肉も恨みも
含まれていない。
ヴィオスは、
それが
気に入らなかった。
「……後悔するぞ」
「居場所を
失うということが
何か、
分かっているのか」
アヴァンシアは、
扉に手をかけ、
振り返る。
「……はい」
「ですから――」
小さく、
しかしはっきりと。
「自分で選びます」
扉が、
閉まる。
――ゴン。
その音は、
追放の音だった。
だが。
見えざる者たちは、
彼女の周囲で
静かに笑っていた。
『……やっと、
縛りが切れたね』
「……ええ」
アヴァンシアは、
夜の廊下を
歩き出す。
居場所を、
奪われたのではない。
取り戻しに行くのだ。
次は――
自分の家へ。
---
その夜。
祈祷堂の奥、
普段は立ち入りが制限されている会議室に、
アヴァンシアは呼び出された。
灯りは、
最小限。
長机の向こうに立つのは――
ヴィオス、ただ一人。
「……来たか」
声は低く、
抑えられている。
だが、
それがかえって
危うさを帯びていた。
アヴァンシアは、
一礼する。
「お呼びでしょうか」
「白々しい」
ヴィオスは、
机を指で叩いた。
――コン、コン。
乾いた音。
「今日一日で、
何が起きたか
分かっているか」
「……存じません」
嘘ではない。
起きたのは、
彼の中の変化だ。
「貴族からの書簡が、
三通」
「“教会の祈りは
本当に効いているのか”」
「“最近、失敗が多い”」
ヴィオスの声が、
徐々に荒くなる。
「誰のせいだと思う」
アヴァンシアは、
答えなかった。
答える必要が、
ないからだ。
「……お前だ」
ヴィオスは、
吐き捨てる。
「余計な疑問を口にし、
神官たちの心を
揺らがせた」
「“祈りより物理”などと
噂が立ち始めている」
『……事実なのに』
「……ええ」
アヴァンシアは、
小さく頷いた。
それが、
火に油を注いだ。
「――認めるのか!」
ヴィオスの声が、
跳ね上がる。
「教会の権威は、
“信じさせること”で
成り立っている!」
「結果など、
二の次だ!」
沈黙。
言ってしまった。
ヴィオス自身が、
最も口にしてはならない
本音を。
アヴァンシアは、
静かに見つめた。
(……やはり)
彼は、
信仰者ではない。
『……言っちゃったね』
「……ええ」
ヴィオスは、
自分が何を言ったか
理解したのか。
一瞬、
表情を歪めた。
だが、
引き返さない。
「お前は、
見えないものが
“見える”」
「それを、
私は最初から
知っていた」
その告白に、
空気が張り詰める。
「……なぜ、
同行させていたか
分かるか」
アヴァンシアは、
黙っていた。
「結果が出るからだ」
「お前がいる時だけ、
“祓えた”ことになる」
「神官が評価され、
教会の威光が
保たれる」
『……利用してた』
「……ええ」
否定は、
しなかった。
「だがな」
ヴィオスは、
机越しに
身を乗り出す。
「お前が
考え始めた瞬間」
「その力は、
危険になった」
「教会の枠から
はみ出す存在は――
不要だ」
それが、
結論。
アヴァンシアは、
静かに問い返す。
「……では、
私はどうすれば」
ヴィオスは、
冷たく言い放つ。
「黙っていろ」
「祈りの影に立ち、
殴るなら殴れ」
「だが、
“考えるな”」
沈黙。
その要求が、
どれほど歪んでいるか。
誰の目にも、
明らかだった。
アヴァンシアは、
ゆっくりと
頭を下げた。
「……それは、
できません」
その瞬間。
ヴィオスの顔が、
完全に歪んだ。
「――出ていけ」
声は、
怒鳴り声ではない。
だが、
それ以上に
重い。
「教会を出ろ」
「今すぐではないが、
処分は決定だ」
「明日までに、
荷をまとめろ」
それが、
最終宣告だった。
アヴァンシアは、
深く一礼する。
「……お世話に
なりました」
その言葉に、
皮肉も恨みも
含まれていない。
ヴィオスは、
それが
気に入らなかった。
「……後悔するぞ」
「居場所を
失うということが
何か、
分かっているのか」
アヴァンシアは、
扉に手をかけ、
振り返る。
「……はい」
「ですから――」
小さく、
しかしはっきりと。
「自分で選びます」
扉が、
閉まる。
――ゴン。
その音は、
追放の音だった。
だが。
見えざる者たちは、
彼女の周囲で
静かに笑っていた。
『……やっと、
縛りが切れたね』
「……ええ」
アヴァンシアは、
夜の廊下を
歩き出す。
居場所を、
奪われたのではない。
取り戻しに行くのだ。
次は――
自分の家へ。
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