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第32話 追い出される
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第32話 追い出される
朝は、
いつもと同じように来た。
鐘の音。
祈りの声。
石の床に響く足音。
違うのは――
アヴァンシアの前に、
“行き先”がないことだけだった。
控え室の扉を開けると、
既に数名の神官が待っていた。
視線は、
冷たい。
「……荷は、
これだけか」
一人が言う。
「はい」
答えは、
短い。
荷物は、
小さな鞄ひとつ。
衣服。
最低限の私物。
ここに来た時から、
多くを持っていなかった。
『……軽いね』
「……ええ」
神官は、
帳簿に何かを書き込み、
言った。
「見習い神官
アヴァンシア」
「本日をもって、
教会との関係を
解消する」
“追放”とは、
言わなかった。
言葉を飾ることで、
自分たちを
守るためだ。
「……承知しました」
それだけで、
十分だった。
神官は、
一枚の紙を差し出す。
「宿泊所の利用は、
今日まで」
「以降、
教会の庇護はない」
アヴァンシアは、
受け取り、
丁寧に畳んだ。
(……もともと、
薄い庇護でしたけれど)
外に出る。
朝の光が、
やけに眩しい。
教会の正門。
ここをくぐるのは、
何度目だろう。
――だが。
戻ることは、
もうない。
背後で、
門が閉まる。
――ギィ……ゴン。
その音は、
決定的だった。
『……おしまい?』
「……ええ」
振り返らない。
振り返る必要が、
ない。
教会の外は、
思ったより
静かだった。
人々は、
祈りに向かい、
商人は準備をし、
子どもは笑っている。
(……世界は、
何も変わらない)
変わったのは、
自分の立場だけ。
それでいい。
アヴァンシアは、
歩き出す。
向かう先は――
決まっている。
「……実家へ
戻りますわ」
『……あの、
ボロボロの家?』
「ええ」
『……大変だよ?』
「……大変ですわね」
だが――
それでも。
あそこには、
逃げなかった人たちがいる。
見えざる者たちが、
いる。
何より――
選んだ居場所がある。
道の途中、
小さな不安が
胸をよぎる。
(……本当に、
やっていけるかしら)
だが、
すぐに消えた。
『……一人じゃない』
「……ええ」
見えざる者たちは、
いつも通り
傍にいる。
殴れる。
話せる。
そして――
裏切らない。
アヴァンシアは、
小さく息を吐いた。
「……追い出されるのも、
悪くありませんわね」
『……強がり?』
「……いいえ」
ほんの少し、
笑う。
「“戻る理由”が、
はっきりしましたもの」
教会は、
背後にある。
だが――
彼女の道は、
前にある。
ここからは――
自分で選ぶ人生だ。
それを、
誰にも奪わせはしない。
---
朝は、
いつもと同じように来た。
鐘の音。
祈りの声。
石の床に響く足音。
違うのは――
アヴァンシアの前に、
“行き先”がないことだけだった。
控え室の扉を開けると、
既に数名の神官が待っていた。
視線は、
冷たい。
「……荷は、
これだけか」
一人が言う。
「はい」
答えは、
短い。
荷物は、
小さな鞄ひとつ。
衣服。
最低限の私物。
ここに来た時から、
多くを持っていなかった。
『……軽いね』
「……ええ」
神官は、
帳簿に何かを書き込み、
言った。
「見習い神官
アヴァンシア」
「本日をもって、
教会との関係を
解消する」
“追放”とは、
言わなかった。
言葉を飾ることで、
自分たちを
守るためだ。
「……承知しました」
それだけで、
十分だった。
神官は、
一枚の紙を差し出す。
「宿泊所の利用は、
今日まで」
「以降、
教会の庇護はない」
アヴァンシアは、
受け取り、
丁寧に畳んだ。
(……もともと、
薄い庇護でしたけれど)
外に出る。
朝の光が、
やけに眩しい。
教会の正門。
ここをくぐるのは、
何度目だろう。
――だが。
戻ることは、
もうない。
背後で、
門が閉まる。
――ギィ……ゴン。
その音は、
決定的だった。
『……おしまい?』
「……ええ」
振り返らない。
振り返る必要が、
ない。
教会の外は、
思ったより
静かだった。
人々は、
祈りに向かい、
商人は準備をし、
子どもは笑っている。
(……世界は、
何も変わらない)
変わったのは、
自分の立場だけ。
それでいい。
アヴァンシアは、
歩き出す。
向かう先は――
決まっている。
「……実家へ
戻りますわ」
『……あの、
ボロボロの家?』
「ええ」
『……大変だよ?』
「……大変ですわね」
だが――
それでも。
あそこには、
逃げなかった人たちがいる。
見えざる者たちが、
いる。
何より――
選んだ居場所がある。
道の途中、
小さな不安が
胸をよぎる。
(……本当に、
やっていけるかしら)
だが、
すぐに消えた。
『……一人じゃない』
「……ええ」
見えざる者たちは、
いつも通り
傍にいる。
殴れる。
話せる。
そして――
裏切らない。
アヴァンシアは、
小さく息を吐いた。
「……追い出されるのも、
悪くありませんわね」
『……強がり?』
「……いいえ」
ほんの少し、
笑う。
「“戻る理由”が、
はっきりしましたもの」
教会は、
背後にある。
だが――
彼女の道は、
前にある。
ここからは――
自分で選ぶ人生だ。
それを、
誰にも奪わせはしない。
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