無資格魔法使いが最強すぎる件 ―資格ってなんですか? 強いのでそんな資格いりません―

しおしお

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第2話 英雄扱い?手柄横取りの王太子

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破級大魔獣が消滅してから数分後――
王都は、嵐のような歓声に包まれていた。

「魔獣がいなくなったぞ!!」
「助かった……! 誰が倒してくれたんだ!?」

兵士たちは互いに顔を見合わせ、倒壊しかけた街路に立ち尽くしていた。
魔法師団長などは震える声でつぶやく。

「我が師団の攻撃ではない……
誰か、あの一撃を放った者は?」


---

そして──
王都の中央広場。人々が押し寄せるその中心に、ルーチェはいた。

(……ちょっと裏路地を歩いて帰ろうとしただけなのに
なぜこうなるのよ……)

彼女はパン袋を両手に抱えたまま、押し寄せる民衆に取り囲まれていた。

「あなたが……! あなたが魔獣を倒したのですね!?」

「す、すごいです! お名前を教えてください!」

「英雄様だ! 救世主だ!!」

ルーチェは苦笑し、そっと距離を取ろうとする。

「あ、あの……気のせいですわ。
私なんてただ通りかかっただけで……」

しかし人々の熱気はすでに最高潮。
誰も聞いてくれない。

(これは……早く逃げたい。パンがつぶれる……!)

そんな彼女の願望を無視するかのように、
広場の奥からきらびやかな衣装の人物が馬に乗って現れた。

金髪をなびかせ、宝石を散りばめた軍服。
王太子ラルグレイ殿下である。

「民よ、安心するがよい!
この破級を退けたのは、我が王族の力である!」

……え?

群衆が一瞬しんと静まり返った。
そして王太子の側近が声を張り上げる。

「殿下の指揮によって魔獣は討伐されました!
殿下万歳!!」

「「万歳!!!」」

(……ちょっと待って?)

ルーチェはパン袋を抱えたまま、ぽかんと固まった。

王太子は自信満々の笑みを浮かべたまま、ゆったりと馬を進め、
ルーチェの目の前へ。

「そなた、あの場にいたようだな。
私の指揮のおかげで助かったのであろう?」

(……いや、撃ったの私なんだけど)

言いたい言葉を飲み込み、ルーチェはニコリと微笑んだ。

「ええ、殿下のお力で助かりましたわ。
……では私はこれで──」

逃げようとするルーチェの肩を、側近たちががっちり押さえた。

「お待ちください!
殿下自ら救国の偉業を語りたいと!」

王太子は満足げに頷く。

「うむ、余の指揮のおかげで王都は守られたのだ。
そなたも感謝するがよい」

(……パンが……つぶれる……)

民衆の歓声が高まり、まるで王太子が一人で破級を倒したかのように語られ始める。

その中心で、ルーチェはというと――

(早く帰らないとパンが……潰れて……)

英雄扱いされても、手柄を奪われても、
彼女の心配はひたすらパンだった。

しかし、この“ちょっとしたすれ違い”が、
翌日には取り返しのつかない悲劇へと変わる。

この王都が知ることになるのは――
英雄かと思われた少女が、
国最大の犯罪者として非難される 未来である。


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