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第3話 無資格告発の瞬間
しおりを挟む翌日。
王都はまだ昨日の興奮に包まれていた。
「破級が消滅したんだってよ!」
「しかも一撃で! ありえない強さだ!」
「誰が倒したんだ? 王太子殿下? それとも新たな英雄か?」
広場は昨日の戦いの話でにぎわい、
市場の店主たちも客と共に噂話に花を咲かせていた。
その中心――王宮前広場には、昨日の“救国式典”の続きとばかりに
大勢の市民が再び集められていた。
王太子ラルグレイが姿を現すと、
民衆は一斉に頭を下げた。
「殿下万歳!」
「殿下のおかげで命拾いしました!」
王太子は満足げに微笑み、そして一言。
「余の指揮のもと、破級は退けられた。
そのとき現場にいた者を褒賞する」
そう言って呼び出されたのが――ルーチェだった。
「え、また私……?」
ルーチェは昨日と同じくパン袋を大事に抱えながら、
広場の中央へ立たされた。
(パンだけは、パンだけは死守しないと……!)
王太子は優雅に手を広げ、
「そなたは余の指揮のもと戦った功労者として、
特別褒賞を授ける」
(いや本当は戦ってないんですけど……
むしろ私一人で倒したんですけど……)
しかしルーチェは平静を装い、礼をとった。
その瞬間だった。
王太子の背後から、ひとりの男が前に進み出る。
王太子第一側近、ヴァルド。
彼は細い目をルーチェに向け、不気味なほど冷たい声で告げた。
「殿下、彼女に褒賞など――
ふさわしくございません」
ざわり、と広場が揺れた。
王太子が眉をひそめる。
「どういう意味だ、ヴァルド?」
側近は、勝利を確信したように口元を歪めた。
「調べました。
彼女の身分……いや、資格を。」
ルーチェの背筋がぞわりと冷える。
(……嫌な予感しかしない)
ヴァルドは観衆が息を呑む中、
高らかに宣言した。
「彼女、魔法免許を持っておりません!」
――ドッ。
広場全体が凍りつく音がした。
「ま、魔法免許……ない?」
「まさか……昨日の魔法を、無資格で!?」
「違法魔法行使だぞ、あれは!」
一瞬で空気が反転した。
つい昨日まで称賛していた人々が、
まるで別人のような表情でルーチェを見る。
王太子の顔もみるみる険しくなり、
ヴァルドはさらに追い打ちをかける。
「無資格魔法行使は――
国家反逆罪と同等の重罪と定められております」
ざわぁ……っと波紋のような声が広がる。
ルーチェはパン袋を抱えたまま、何も言えなかった。
(……ああ、やっぱり来たわね、この展開)
ヴァルドの声が、冷たい刃のように響き渡る。
「殿下。国を救ったなどと持ち上げられていますが、
これはむしろ国家への重大な背信行為!」
王太子は唇を噛み、次第に怒りが形になる。
「……反逆……罪……」
民衆の誰もが期待していた“英雄表彰”は、
その瞬間、完全に消え去った。
そしてまさかの――
英雄 → 最大の犯罪者
その転落劇が、
今まさに幕を開けようとしていた。
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