無資格魔法使いが最強すぎる件 ―資格ってなんですか? 強いのでそんな資格いりません―

しおしお

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第5話 追放の儀式と屈辱

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王都の外れに建つ“追放門”は、
重罪人を国外へ追い出すためだけに存在する古い石造りの門だった。

朝靄に包まれたその前に、
ルーチェは騎士に囲まれて立たされていた。

見物人たちは距離を取りながらも集まっている。
昨日は彼女を英雄と讃えた人々だ。

「無資格で破級を倒すなんて……逆に恐ろしいよ」
「免許禁止に追放……妥当だろうな」
「資格がなければ危険人物だもんな」

(……この国って、本当に資格が好きよね)

パン袋も失い、両手を縛られたまま、
ルーチェは淡々と思った。

高台に立つ王太子ラルグレイが、
儀式開始の宣言をした。

「無資格で魔法を乱用し、
国家秩序を損なった罪人ルーチェ・フェリシア!」

群衆がざわめく。

「さらに本日付けで、
魔法免許の取得を“無期限で”禁止する!
そなたは一生、魔法使いを名乗ることを許されぬ!」

大仰に叫ぶ王太子。

(名乗る気なんてなかったけど……
“一生禁止”って響きだけで政治的ポイントが稼げるのよね)

ルーチェは心の中で苦笑した。

続いて、執行官魔法師が前に進む。

「これより、国内で魔法行使を不可能にする“封魔刻印”を付与する。
覚悟はあるか?」

「はい。さっさと済ませていただけると助かります」

「……ど、度胸あるなこの子……?」

観衆は少しざわついた。

ルーチェが怯えた様子を見せないことが、
逆に不気味に映ったのだ。

執行官は魔法陣を展開し、
地面に輝く円形の紋章が広がる。

それがルーチェの足元から身体へと吸い込まれ、
魔力の回路を縛りつけていく感覚が走る。

キィン……

淡い痛みと共に、胸の奥に冷たい光が沈む。

「……封魔刻印、完了」

執行官の声が響くと、
人々が息をのんだ。

王太子は勝ち誇った笑みを浮かべる。

「これでそなたは、王国では“魔力ゼロ”と変わらぬ。
二度と魔法を使おうなどと思うな!」

(……ええ、国内ではね。
でも壊そうと思えば数秒なんだけど、それは黙っておきましょう)

ルーチェは口には出さないまま、心の中でそっと呟いた。

騎士が鎖を外し、
追放門の前へと導く。

「罪人ルーチェ・フェリシア。
この門をくぐり、二度と戻るな!」

(罪人って……そう呼ぶの、もう慣れてきたわ)

ルーチェは軽くスカートを払うと、
静かに一歩を踏み出した。

追放門の外には、
霧に包まれた護送馬車が待っていた。

振り返ることなく、
ルーチェは門をくぐる。

その瞬間――

風が変わった。

王国から切り離され、
自由へと向かう風に。

(……ああ、やっと静かになれるわ)

ほんの少し、くすりと笑みが浮かぶ。

周囲はそれを“壊れた笑み”と誤解して怯えたが、
彼女はそんなこと気にも留めず馬車へ乗り込んだ。

こうして、
史上最強の無資格少女は、堂々と追放されていった。

誰も知らないまま。
追放された先で、彼女が世界の均衡を変える存在になることを。


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