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第12話 国宝扱い、周囲の驚愕
しおりを挟むフロストリア公爵領──。
ルーチェは、騎士団が用意してくれた客間で、ぎこちなく湯気の立つハーブティーを飲んでいた。
「……魔法、普通に使えちゃいましたわね」
隣国の国境に張られた“対王国魔法結界”の作用で、王国で刻まれた《魔法行使禁止魔法》が完全に無効化された。
試しに、スプーンを浮かせる程度の簡単な魔法を発動しただけで、周囲の空気がざわりと震えた。
──ちょうどその瞬間、扉の向こうで控えていた騎士たちが叫び声をあげる。
「い、今の……見たか!? スプーンが勝手に……!」
「勝手ではない! ルーチェ殿が……!?」
「魔力反応が尋常じゃない……音が鳴ったぞ……!」
(音が鳴った……?)
ルーチェは首をかしげる。
どうやら、この国の魔力計測水準では、彼女が日常で使ってきた“初歩魔法”ですら規格外らしい。
「ちょっと浮かせただけですわよ?」
「ちょっと!? 今のは魔法式の密度が異常に高い……!」
「詠唱なし、魔法陣なし……意味が分からん……!」
(大げさですわね……)
ルーチェは苦笑しながらスプーンを戻す。
そのとき、部屋に侍女が紅茶を注ぎに入ってきた。
だが、彼女の持つティーポットは少し凹んでいる。
「あら、ポットがへこんでいますわ」
「す、すみません! 落としてしまって……公爵家の備品を……!」
「直しましょうか?」
「えっ!? いえそんな……!」
ルーチェは軽くポットに触れ、小さな修繕魔法を流す。
──光が走り、ポットは新品そのものの輝きに戻った。
「……え?」
侍女の口が開いたまま固まる。
「ちょ、ちょっと待て……今、原型以上に直ったぞ……!」
「新品どころか、魔力加工が施されている……!? なんという精度……!」
「これが……日常魔法……?」
(へこんだ部分を戻しただけなのに……?)
ルーチェの感覚では、本当に“ついで”程度の修繕だ。
料理前の鍋を整えるようなもの。
だが、騎士たちは震えきっていた。
「……これはもう、国宝級の技だ……!」
「いや、国宝でもこんな精度は出せない……!」
「公爵様に報告を……! 国家レベルの才能だ……!」
(国宝……? どうしてそうなるんですの?)
本気で意味が分からない。
──ちょうどそのとき、廊下の奥から足音が響いた。
「騒がしいな。ルーチェ嬢に何かあったのか?」
現れたのは、氷のように整った雰囲気の男──
アークト・ヴァレンティノ公爵。
「い、いえ、公爵様! ルーチェ殿が、ティーポットを……!」
「……壊したのか?」
「いえ……直しました。新品以上に……」
「……」
アークトは視線をルーチェへ向ける。
「君は、今、何をした?」
「ただ、へこみを直しただけですわ」
「それだけで……?」
「はい。生活魔法の初歩です。誰でもできますわよ?」
「誰でもはできん」
アークトは即答した。
次いで、静かに侍女の持つポットへ手を伸ばし、指先で軽く触れる。
魔力の残滓を読み取ったのだ。
「……これは……凄まじい精度だ。
魔法式の継ぎ目が一切ない。
むしろ、素材自体の純度が上がっている……?」
「えっ、そんなすごいことを……?」
ルーチェ自身が目を丸くする。
(本当に、ただ直しただけですのに……?)
アークトは静かに息を吐き、言った。
「……君は、フロストリアにとって“特級の宝”になる」
「た、宝……?」
「君がどれほど謙遜しようと、事実は変わらない」
周囲の騎士や侍女たちも深くうなずき、
ついに誰かがこう言った。
「これは……国宝級……いえ、国家守護級の人材……!」
「公爵領で保護しなければ!」
「公爵様、ルーチェ殿の研究室をぜひ……!」
「ちょっ……! 研究室なんて必要ありませんわ!?」
ルーチェは慌てて手を振る。
しかしアークトは静かに言った。
「落ち着け。彼女を囲い込むつもりはない」
「そ、そうですわよね……!」
「ただ……彼女が望む環境を整える義務はある」
「えっ?」
「君が、ここで安らかに過ごせるようにな」
それはあまりにも自然な声音で、
静かな優しさが滲んでいた。
ルーチェは気づかない。
氷の公爵の溺愛が、
今この瞬間から静かに始まっていることに──。
---
✅この12話は完全にプロット通りに修正済みです
●飛行魔法なし
●生活魔法に特化
●“国宝級扱い”の理由を明確に
●アークト公爵の“静かな好意”だけ匂わせ
●ルーチェは鈍感のまま
完璧に元の路線へ戻しました。
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