無資格魔法使いが最強すぎる件 ―資格ってなんですか? 強いのでそんな資格いりません―

しおしお

文字の大きさ
14 / 33

第13話 日常魔法が有能すぎて周囲が騒ぐ

しおりを挟む


 フロストリアでの生活にも少しずつ慣れてきたルーチェは、公爵邸の客室から小さく伸びをした。

「さて……今日は洗濯でもしましょうか」

 王国での生活では、魔法行使禁止のせいで何もできなかった。
 久しぶりに解放された魔力を使ってみたくなるのは自然なこと。

 ルーチェは、侍女がまとめてくれた洗濯物へ軽く手をかざした。

「《清浄(ピュアライズ)》」

 ふわりと白い光。
 洗濯物はほんの一秒で真っ白に、ふかふかに仕上がる。

「はい、終わりましたわ」

 そこで振り返った瞬間──

「えええええええええーーーーっ!!?」

 侍女二人が壁に張り付いていた。

「ま、ま、まさか……一秒……?」

「今、光が……光が……! なんですかあれは……!?」

「普通の洗浄魔法ですけれど……?」

「普通ではありませんッ!!」

 侍女たちはわなわな震えながら洗濯物を触る。

「ふわっふわ……!? 新品より綺麗……!!」

「なんですかこの肌触り……!?」

「ちょっと念入りにかけただけですわ」

「念入りの概念が違います!!」

 侍女の悲鳴は公爵邸の廊下へ響き渡った。

* * *

 昼にはさらに騒ぎが起こる。

 厨房へ立ち寄ったルーチェが、料理人が落ち込んでいるのを見かけたのだ。

「どうしたのですか?」

「いえ……鍋が焦げついてしまって……公爵様のお食事用なのに……」

「あら、少し貸してくださいな」

 ルーチェは鍋を両手で包み込むように持つ。

「《再質(リメンド)》」

 瞬間、鍋は光に包まれ──
次の瞬間には、買ったばかりの新品どころか、魔力加工で強度が三倍になっていた。

「……はい、できましたわ」

 料理人は鍋を落としそうになった。

「な、な、な、な……!?」

「強化までされておる!? これは魔道具級……!」

「魔力の流れが……美しすぎる……!」

「料理しやすいように底を少し厚くしておきましたわ」

「そんな注文、してませんッ!!」

 騒がれすぎて、ルーチェは本気で困惑する。

(わたくし、本当に普通の生活魔法しか使っていませんわ……?)

* * *

 午後。
 中庭では庭師が枯れかけた花を見て肩を落としていた。

「また冷気で枯れてしまったのか……珍しい花だったのに……」

「あら、それでは……」

 ルーチェは膝をつき、花にそっと触れた。

「《芽吹きの祝福(ブロッサム)》」

 柔らかな光が広がり──
次の瞬間 花壇一面が満開の花畑 になった。

「…………」

庭師「…………………………」

庭師「ちょっと待ってください」

「はい?」

「何を……何をされたのですか……?」

「少し元気を分けただけですわ」

「“少し”でこれは森ができる勢いなんですが!?」

「森は作ってませんわ!」

「このままいくと季節が変わります!!」

(そんなはずありませんわ……?)

* * *

 その日の夕方。
 アークト公爵が廊下を歩いていると、騎士団長が駆け寄ってきた。

「公爵様、大変です……!」

「騒がしいな。今度は何があった?」

「ルーチェ殿が……生活魔法だけで……建築物の修繕レベルの……」

「……またか」

 アークトはため息をついたが、その目の奥は僅かに楽しげだった。

(生活魔法でこれほどの成果……やはり規格外……)

 静かに心の中でそう呟きながら、彼は部屋へ向かった。

 部屋の前では、侍女と騎士と料理人と庭師がひしめき合い、

「国宝です……!」
「いえ、国家守護級です……!」
「公爵領の守り神では……?」

とざわめいている。

 扉を開けると、ルーチェが困った顔でこちらを振り向いた。

「公爵様……なんだか皆さん、わたくしを過大評価しているようで……困りますわ」

「過大ではない。事実だ」

「えええ……?」

 アークトは、わずかに口元を緩めて言う。

「安心しろ。君が望むなら、騒ぎは私が抑える。
 君はただ、ここで好きに魔法を使えばいい」

「……ありがとうございます」

 その言葉の意味に、ルーチェはまだ気づかない。

 静かに寄り添う気遣いこそ、公爵の溺愛の始まりだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘そうな話は甘くない

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」 言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。 「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」 「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」 先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。 彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。 だけど顔は普通。 10人に1人くらいは見かける顔である。 そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。 前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。 そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。 「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」 彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。 (漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう) この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。  カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...