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第20話 論破の名シーン
しおりを挟む客間には重く沈んだ沈黙が漂っていた。
王国使者たちは床に膝をついたまま震え、
王太子レオンはうつむいて拳を握りしめている。
その中央で、ルーチェは静かに微笑んでいた。
まるで――
これが当然の帰結であるかのように。
壁際では、氷の公爵アークトが
「好きにやれ」とでも言うような穏やかな眼差しで少女を見守っていた。
---
◆王国の最後の願い
レオンが懇願するように言葉を絞り出す。
「ルーチェ……頼む。
どうか……どうか王国を救ってくれ」
震える声は、もはや王太子としての威厳を保っていない。
その横で重臣も続く。
「処分も、追放も、禁止魔法も!
すべて解除いたします!
ですから……どうかお戻りください!」
額を床につけ、必死だった。
だが――
その姿を前にしても、ルーチェは微笑んだままだった。
そして静かに口を開く。
---
◆ルーチェ、丁寧にトドメを刺す
「まず確認させてくださいませ」
「……な、なんでも」
「わたくしに課された
“国外追放”は解除されるのですね?」
「もちろんです! 即刻!」
ルーチェは首をかしげる。
「そして……“魔法行使禁止魔法”の処分も?」
重臣たちが顔を見合わせ、青ざめる。
レオンが力なく答える。
「……解除する……つもりだ」
「つもり、ですのね?」
「……」
完全に言葉が詰まっていた。
ルーチェは優雅に微笑む。
「その禁呪の解除方法、ご存じなのですか?」
部屋の空気が凍りついた。
誰も答えられない。
重臣たちが青ざめたまま固まり、
王太子は絶望の表情で言葉を失っている。
---
◆優しい声で、容赦なく
ルーチェは、あくまで丁寧に説明した。
「禁止魔法をかけられている限り――
わたくしは王国内で魔法が使えませんの」
「…………」
「つまり、お戻りしても……
何の役にも立ちませんわよ?」
重臣のひとりが崩れ落ちた。
「そ、そんな……!」
「それに」
ルーチェは続ける。
「もし仮に、外で解除できたとしても……
わたくしは“無資格”のままですわよ?」
全員の顔が一気に蒼白になる。
「無資格で魔法を使えば……
また反逆罪なのでしょう?」
そう。
追放時に王太子が宣言した言葉を、
今度はルーチェが静かに返す番だった。
「わたくし、また追放されてしまいますわ。
そうなったら……戻る意味がありませんでしょう?」
淡々と、しかし確実に追い詰めていく。
まるで王国側の矛盾を、一つずつ並べていくかのように。
---
◆アークト公爵の沈黙が“答え”を示す
そのとき。
壁際に控えていたアークト公爵が、ゆっくりと視線を動かし――
使者団を一瞥した。
たったそれだけで、使者たちは震え上がる。
何も言わない。
ただ、ルーチェにすべて任せている。
その沈黙こそが――
「どのみち返すつもりはない」という公爵の意志を示していた。
---
◆絶望する王太子
レオンが震える声で問う。
「……本当に……戻っては、くれないのか……?」
ルーチェは首を横に振るわけでもなく、
肯定するでもなく、ただ静かに言った。
「“戻る理由がない”と言っているのですわ」
その瞬間、
王太子の表情からすべての希望が消えた。
---
こうして、
王国が必死の懇願をしたにもかかわらず――
ルーチェは優雅に、論理的に、完璧に拒否したのである。
追放した代償は、
今ようやく彼らの肩に重くのしかかり始めた。
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