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第21話 使者、涙目で食い下がる
しおりを挟む応接室の空気は、張りつめた糸のようにピンと緊張していた。
先ほど、ルーチェによる冷静すぎる論破で
王国側はほぼ全滅状態。
それでも――
まだ諦められないらしい。
王国使者のひとり、壮年の重臣が
涙をにじませながらルーチェに向き直った。
「ど、どうか……!
どうかお慈悲を……!
解除方法なら……今から研究いたします!
王国総出で取り組みますので……!」
◆泣き落とし作戦、しかし論理が崩壊
別の使者も続けて土下座する。
「魔法行使禁止も! 免許永久取得禁止も!
すべて、すべて取り消します!
ですから……ですから……!」
ルーチェはぱちりとまばたきをした。
「取り消す……って、どうやってですの?」
使者たちが固まる。
ルーチェはにっこり微笑んだ。
「“わたくしにかけた禁止魔法の構造”
王国側は把握しておられますのよね?」
「…………………………」
部屋が静寂に沈む。
「だって――あなた方がかけた処罰ですもの」
◆王国側、精神崩壊寸前
重臣たちの顔色が、見る見る灰色になっていく。
その様子を見て、ルーチェは首をかしげた。
「まさか……
解除方法を知らないまま、
あの禁呪を使ったわけでは、ありませんよね?」
王国使者たち
「…………(やってしまった)」
隣で見守っていたアークト公爵が
喉の奥でくつ、と笑う気配を漏らした。
プレッシャーだけで凍えるような気配だが、
ルーチェは気づいていない。
使者は震える唇で必死に声を絞り出した。
「か、解除に……少々時間がかかりますが……
必ず……必ず……!」
ルーチェは柔らかく微笑む。
「時間がかかる、とは……どれくらい?」
「……ッ」
「魔獣が王都を囲んでいる状態で、
そんな悠長なことをしていてよく生き残れますわね?」
完全に詰んだ。
---
◆追い詰められても、なお懇願
老重臣が泣きそうな目で立ち上がる。
「ど、どうか……!
命だけでもお助けいただけないでしょうか!
国民が……国民が……!!」
「お気持ちは分かりますけれど」
ルーチェは申し訳なさそうに肩をすくめる。
「王国に戻れば、
わたくしは魔法が使えませんのよ?」
「そ、それは……解除します!!」
「解除法をご存じではないのに?」
また沈黙。
また顔面蒼白。
---
◆アークト公爵、静かに存在感を示す
そのとき――
アークト公爵が一歩前に出た。
その動きだけで空気が震える。
「……彼女は、我が国の庇護下にある」
その声は低く、絶対の冷気を含んでいた。
「君たちがどう取り繕おうと、
解決策を持たぬまま彼女を連れ戻すことなど不可能だ。
この国境をまたがせた瞬間、彼女は無力化する」
使者たち全員が、ガタン!と音を立てて膝をついた。
アークトは続ける。
「加えて――
我が国としては、彼女を王国へ返す理由がない」
「な、ない……?」
「彼女は王国が捨てた才だ。
その価値を知り、保護し、敬意を払っているのは……
今や我が国だけなのだから」
王国使者たちの心が完全に折れた瞬間だった。
---
◆最後の希望が消える音
ルーチェが静かに言う。
「お引き取りになったほうがよろしいですわ」
使者たちは涙をこぼしながら頷く。
立ち上がることもままならず、
震える足でようやく扉へ向かっていく。
王国の未来は――
もう、彼らの手からこぼれ落ちていた。
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