無資格魔法使いが最強すぎる件 ―資格ってなんですか? 強いのでそんな資格いりません―

しおしお

文字の大きさ
25 / 33

第24話 公爵、密かに聞いていた

しおりを挟む
ルーチェの独り言が続いていた応接室――
その扉の前を、すっと影が横切った。

アークト公爵である。

書類整理を終えて部屋に戻ってきたところ、
ふと中から微かな声が漏れ聞こえたのだ。

「……壊すことならできますけどね」

その一言に、公爵の足が止まった。

扉の向こうでは、ルーチェがのんびりとした声で呟き続けている。

「でも、壊したらまた王国に戻らなきゃいけなくなりますもの。
 追放されて、やっと静かな生活が手に入ったのに……戻るなんて、考えられませんわ」

アークトは、静かに目を細めた。

彼は確信した。
ルーチェは、王国が理解できないほどの存在だと。


---

◆ 扉の外で立ち尽くす公爵

(……禁止魔法を壊せる?)

普通なら解除法の研究に数十年かかる禁呪だ。
扱える者さえ限られている。

それを、“壊せる”と軽い調子で言ってのけた少女。

(本当に……なんという宝を捨てたのだ、王国は)

怒りではない。
呆れでもない。

ただ――
心からの驚嘆だった。

そして、ほんの少しの愛しさが混じっていた。


---

◆ 公爵、静かに扉を開ける

アークトは扉をノックせずに静かに押し開けた。

ルーチェは窓辺の椅子に座り、
膝に魔獣(モフモフの小動物)を抱きながらぼんやりしていた。

「……あら、公爵様? いつからそこに?」

「今、戻ったところだ」

それだけ言うと、彼は彼女の正面に腰を下ろす。

ルーチェは首をかしげる。

「そんなに真剣なお顔をして、どうされましたの?」

アークトはしばらく彼女を見つめ、

そして――
ゆっくりと微笑んだ。


---

◆ 公爵の深い微笑み

「君は……想像以上の方だ、ルーチェ」

「は、はぁ?」

「王国は、本当にとんでもない失策をしたな。
 君のような宝を手放すなど」

ルーチェはぽかんとした。

「た、宝だなんて……わたくしはただの無資格魔法使いですのに」

アークトは静かに首を振った。

「世界には“資格”よりも価値ある才能がある。
 君はその証明だ」

ルーチェは一瞬言葉を失い、
耳まで赤くなる。

「そ、そんな……。
 公爵様、褒めすぎですわ……」

アークトは立ち上げ、
彼女の手を取るでもなく、
ただ柔らかい声で告げた。

「ルーチェ。
 君はこの国で自由に生きていい。
 王国に戻る必要は一切ない。
 ここでは……君を誰も縛らない」

その言葉は、
ルーチェの胸の奥の不安をとかすように響いた。

彼女は小さく微笑む。

「……ありがとうございます、公爵様」


---

◆ 扉の外で、騎士たちがひそひそ

廊下の角では、ふたりの騎士が聞き耳を立てていた。

「公爵様……めずらしく優しい声してたな」

「完全に……あれ、惚れてるだろ?」

「しっ! 聞こえる!」

騎士たちは慌てて散り散りに逃げる。

アークトは気づいていないふりをして、
再びルーチェを見つめた。

その瞳は――
氷のように冷静でありながら、
どこか温かい光を宿していた。


--
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘そうな話は甘くない

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」 言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。 「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」 「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」 先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。 彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。 だけど顔は普通。 10人に1人くらいは見かける顔である。 そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。 前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。 そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。 「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」 彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。 (漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう) この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。  カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

処理中です...