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第25話 破級魔獣群、両国を脅かす
しおりを挟むその日――
世界は、静かに崩壊を始めていた。
最初の報告は、隣国グレイシア王都から届いた。
「破級魔獣と思われる群れが北方境界線に出現!
数は……五十を超えています!!」
伝令の声は震えていた。
破級魔獣――
一体で王国級の戦力を必要とする規格外の存在。
それが“群れ”で現れるなど、歴史上前例がない。
そしてほぼ同時刻。
王国側からも緊急の魔導通信が駆け込んだ。
「王都周辺の魔獣が、さらに巨大化して暴走しています!
破級に変質した個体も……多数!
国が……国が持ちません!!」
グレイシアの宮廷魔導士団は顔面蒼白。
騎士団長も剣を震わせた。
「これは……世界規模の災厄だ……」
---
◆ルーチェのいる館にも、緊急招集がかかる
アークト公爵領でも、緊張が一気に広がっていた。
騎士たちが次々と走り回り、戦支度を整えていく。
しかしその中心で――
ルーチェだけは、静かに空を見ていた。
(……なんだか、嫌な気配がしますわ)
まるで大地そのものが悲鳴を上げているかのような、圧迫感。
そんな中、公爵が早足でルーチェのもとへ向かってくる。
「ルーチェ。状況は聞いたか?」
「ええ。世界全体が揺らぎ始めていますわね」
アークトはほんのわずか眉を動かした。
「君は……怖くないのか?」
「怖いことには変わりませんけれど……
“あの時”の破級大魔獣ほどではありませんわ」
そう、彼女が追放される原因となった、あの魔獣。
ルーチェの瞳は揺れていなかった。
---
◆両国が同時に危機へ
緊急会議では、さらに衝撃的な情報が伝えられる。
「破級魔獣群は分裂して増えています!
被害は世界全土に拡大!」
「王国側の軍は既に壊滅状態とのことです!」
「王国は……再び救援を求めてきています、公爵閣下」
アークトは目を閉じた。
国全体の緊迫した空気に、
誰もが言葉を失っている。
その時、ルーチェは静かに言った。
「……本当に、来てしまいましたわね。
“大災厄”と呼ばれる時代は」
---
◆守るべき場所、守りたい人
騎士団長がルーチェにすがるように言う。
「ルーチェ殿……どうか、お力を貸していただけませんか!
我が国だけでなく、世界全体が……!」
ルーチェは迷うように視線を落とす。
「……戻る気は、ありませんわ。
王国に対する義務を感じているわけでもないので」
アークト公爵が、静かに頷くだけで何も言わない。
責めるでも、期待するでもない穏やかな目。
だからこそ――
ルーチェの胸の奥が、少しだけきゅっと痛んだ。
「でも……」
彼女は空を見上げた。
「守りたい人たちが、ここにはいますわ」
アークトの瞳がわずかに揺れる。
騎士団も息を呑んで、彼女を見つめた。
---
◆世界を救うための“決意”へ
ルーチェの声は静かだったが、確かな力を宿していた。
「わたくし、戻りません。
けれど――世界は守りますわ」
その瞬間、隣国騎士団は一斉に立ち上がり、
彼女への敬意を示した。
アークト公爵は、誰にも気づかれないように
ほんの少し微笑む。
(……世界を救う少女か)
ルーチェ自身は気づいていなかった。
その背に――
誰よりも強い希望が宿りはじめていることに。
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