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第3章 再会と真実
3−4 再会の庭
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第3章 再会と真実
3-4 再会の庭
馬車の車輪が、白い石畳を静かに転がっていく。
空はどこまでも澄みきっていて、風の香りがやわらかい。
エリアス王子は、窓の外を見つめたまま何も言わなかった。
胸の奥で、鼓動がずっと早い。
何度も言葉を rehearsed した。
「許してほしい」「あのときは愚かだった」
だが、そのどれもが軽く響いてしまう。
今さら何を言っても、
彼女の傷が消えるわけではない――
そう、分かっている。
けれど、それでも行かねばならなかった。
逃げてはいけない。
たとえ拒まれても、嘲られても。
それが、彼の“罪のけじめ”だった。
***
「ルフェール公爵邸にございます。」
御者の声に、エリアスは顔を上げた。
目の前に広がるのは、白亜の館。
大理石の階段、磨かれた扉、そして広大な庭園。
花々が咲き乱れ、中央には噴水がきらめいていた。
彼は深く息を吸い、ゆっくりと馬車を降りた。
迎えに出た執事が丁寧に頭を下げる。
「ようこそお越しくださいました、第一王子殿下。
公爵夫妻がお待ちでございます。」
「……案内を頼む。」
邸内は静かだった。
どの廊下も整然としており、壁には家族の肖像画が並んでいる。
その中に、見覚えのある髪色――
金色の髪をした少女の絵があった。
“リリアナ・ルフェール”
絵の中の彼女は、柔らかな笑みを浮かべていた。
もう“幼女”ではない。
けれど、その瞳の奥にある光は、昔のままだった。
胸がきゅっと痛む。
***
客間に通されると、公爵夫妻が待っていた。
イザベラ夫人は相変わらず穏やかに微笑んでいたが、
その瞳の奥には、静かな警戒の光が宿っていた。
「王子殿下。ようこそ、ルフェール領へ。」
「突然の訪問をお許しください。……どうしても、お会いしたい方がいるのです。」
「あなたの目的は、理解しております。」
公爵がゆっくりと立ち上がった。
「だが、その前に――一つだけお聞きしたい。」
「……何でしょうか。」
「あなたにとって、“婚約”とは何だったのですか?」
問われ、エリアスは息をのんだ。
「……かつての私は、それを“義務”だと思っていました。
けれど、違いました。
あの子の小さな笑顔が、私の心を温めていた。
それに気づいたのは、彼女を失ってからです。」
沈黙。
公爵はしばらくエリアスを見つめ、やがてうなずいた。
「……よろしい。彼女は、庭におります。」
イザベラ夫人がやわらかく微笑む。
「どうか、言葉を選んでくださいましね。
あの子は、とても優しい子ですの。」
***
扉を抜けると、春の光がいっせいに降りそそいだ。
庭には白い小道が続き、その先に花畑が広がっていた。
そして――
小さな影が、しゃがんで花を摘んでいた。
淡いクリーム色のドレス、風に揺れる金の髪。
その姿を見た瞬間、
エリアスの胸が焼けるように熱くなった。
「……リリアナ……?」
彼女が顔を上げる。
その瞳は、琥珀のように透き通っていた。
「おうじさま……?」
一瞬、風が止まった。
花の香りだけが静かに漂う。
エリアスは歩み寄り、胸に手を当てて深く頭を下げた。
「リリアナ。私は――あなたに、謝りに来ました。」
リリアナはきょとんとした顔で、首をかしげた。
「どうしてですの?」
「私は、あなたを守れなかった。
あなたがひとりで森に捨てられたとき、
私はそれを止めなかった。」
「うん。そうですの。」
「私は王子として、人として、最低のことをした。」
リリアナは少し黙り、
そして、ふわりと笑った。
「でも、リリアナはもう、かなしいじゃありませんの。
おとうさまと、おかあさまがいますの。
お花も、おいしいパンもありますの。
だから――もう、だいじょうぶですの。」
その言葉に、エリアスの喉が詰まった。
彼女は、あの日のままだ。
いや、もっと強く、もっとやさしくなっている。
「……本当に、強くなったんだな。」
「ううん、ちがいますの。」
リリアナは小さな胸に手を当てた。
「リリアナ、がんばって“しあわせ”になっただけですの。」
彼女の笑顔は、どこまでもまぶしかった。
エリアスはひざまずき、花の香りに包まれながら言った。
「リリアナ……君が幸せで、本当によかった。」
「ありがとうですの。」
リリアナはにっこり笑い、両手で小さな花冠を差し出した。
「これは、おうじさまにですの。」
「え……私に?」
「うん。リリアナ、いましあわせだから。
おうじさまにも、すこしだけ“しあわせ”あげますの。」
その瞬間、
エリアスの視界がにじんだ。
王族としての誇りも、後悔も、すべてがほどけていく。
そこに残ったのは――
一人の少女の、まっすぐな優しさだけだった。
「……ありがとう、リリアナ。」
「どういたしまして、ですの!」
彼女は笑いながらくるりと回り、
花びらが風に舞い上がる。
エリアスはその光景を見ながら、
心の中で静かに祈った。
――どうか、この子が、もう二度と涙を流しませんように。
そして彼は、そっと頭を下げた。
王子としてではなく、ひとりの人間として。
花の香りの中で、
過去と未来が、静かに結び直されていった。
---
3-4 再会の庭
馬車の車輪が、白い石畳を静かに転がっていく。
空はどこまでも澄みきっていて、風の香りがやわらかい。
エリアス王子は、窓の外を見つめたまま何も言わなかった。
胸の奥で、鼓動がずっと早い。
何度も言葉を rehearsed した。
「許してほしい」「あのときは愚かだった」
だが、そのどれもが軽く響いてしまう。
今さら何を言っても、
彼女の傷が消えるわけではない――
そう、分かっている。
けれど、それでも行かねばならなかった。
逃げてはいけない。
たとえ拒まれても、嘲られても。
それが、彼の“罪のけじめ”だった。
***
「ルフェール公爵邸にございます。」
御者の声に、エリアスは顔を上げた。
目の前に広がるのは、白亜の館。
大理石の階段、磨かれた扉、そして広大な庭園。
花々が咲き乱れ、中央には噴水がきらめいていた。
彼は深く息を吸い、ゆっくりと馬車を降りた。
迎えに出た執事が丁寧に頭を下げる。
「ようこそお越しくださいました、第一王子殿下。
公爵夫妻がお待ちでございます。」
「……案内を頼む。」
邸内は静かだった。
どの廊下も整然としており、壁には家族の肖像画が並んでいる。
その中に、見覚えのある髪色――
金色の髪をした少女の絵があった。
“リリアナ・ルフェール”
絵の中の彼女は、柔らかな笑みを浮かべていた。
もう“幼女”ではない。
けれど、その瞳の奥にある光は、昔のままだった。
胸がきゅっと痛む。
***
客間に通されると、公爵夫妻が待っていた。
イザベラ夫人は相変わらず穏やかに微笑んでいたが、
その瞳の奥には、静かな警戒の光が宿っていた。
「王子殿下。ようこそ、ルフェール領へ。」
「突然の訪問をお許しください。……どうしても、お会いしたい方がいるのです。」
「あなたの目的は、理解しております。」
公爵がゆっくりと立ち上がった。
「だが、その前に――一つだけお聞きしたい。」
「……何でしょうか。」
「あなたにとって、“婚約”とは何だったのですか?」
問われ、エリアスは息をのんだ。
「……かつての私は、それを“義務”だと思っていました。
けれど、違いました。
あの子の小さな笑顔が、私の心を温めていた。
それに気づいたのは、彼女を失ってからです。」
沈黙。
公爵はしばらくエリアスを見つめ、やがてうなずいた。
「……よろしい。彼女は、庭におります。」
イザベラ夫人がやわらかく微笑む。
「どうか、言葉を選んでくださいましね。
あの子は、とても優しい子ですの。」
***
扉を抜けると、春の光がいっせいに降りそそいだ。
庭には白い小道が続き、その先に花畑が広がっていた。
そして――
小さな影が、しゃがんで花を摘んでいた。
淡いクリーム色のドレス、風に揺れる金の髪。
その姿を見た瞬間、
エリアスの胸が焼けるように熱くなった。
「……リリアナ……?」
彼女が顔を上げる。
その瞳は、琥珀のように透き通っていた。
「おうじさま……?」
一瞬、風が止まった。
花の香りだけが静かに漂う。
エリアスは歩み寄り、胸に手を当てて深く頭を下げた。
「リリアナ。私は――あなたに、謝りに来ました。」
リリアナはきょとんとした顔で、首をかしげた。
「どうしてですの?」
「私は、あなたを守れなかった。
あなたがひとりで森に捨てられたとき、
私はそれを止めなかった。」
「うん。そうですの。」
「私は王子として、人として、最低のことをした。」
リリアナは少し黙り、
そして、ふわりと笑った。
「でも、リリアナはもう、かなしいじゃありませんの。
おとうさまと、おかあさまがいますの。
お花も、おいしいパンもありますの。
だから――もう、だいじょうぶですの。」
その言葉に、エリアスの喉が詰まった。
彼女は、あの日のままだ。
いや、もっと強く、もっとやさしくなっている。
「……本当に、強くなったんだな。」
「ううん、ちがいますの。」
リリアナは小さな胸に手を当てた。
「リリアナ、がんばって“しあわせ”になっただけですの。」
彼女の笑顔は、どこまでもまぶしかった。
エリアスはひざまずき、花の香りに包まれながら言った。
「リリアナ……君が幸せで、本当によかった。」
「ありがとうですの。」
リリアナはにっこり笑い、両手で小さな花冠を差し出した。
「これは、おうじさまにですの。」
「え……私に?」
「うん。リリアナ、いましあわせだから。
おうじさまにも、すこしだけ“しあわせ”あげますの。」
その瞬間、
エリアスの視界がにじんだ。
王族としての誇りも、後悔も、すべてがほどけていく。
そこに残ったのは――
一人の少女の、まっすぐな優しさだけだった。
「……ありがとう、リリアナ。」
「どういたしまして、ですの!」
彼女は笑いながらくるりと回り、
花びらが風に舞い上がる。
エリアスはその光景を見ながら、
心の中で静かに祈った。
――どうか、この子が、もう二度と涙を流しませんように。
そして彼は、そっと頭を下げた。
王子としてではなく、ひとりの人間として。
花の香りの中で、
過去と未来が、静かに結び直されていった。
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