婚約破棄されたけど負けないもん。がんばってさばいばるするぞー!

しおしお

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第3章 再会と真実

3−2 手紙が届いた日

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 第3章 再会と真実

3-2 手紙が届いた日

朝の光が、ルフェール公爵家の庭をやさしく包んでいました。
花々の香りが風に乗って、窓からリリアナの部屋へ流れこみます。

「おはようですの!」

今日もリリアナは元気いっぱい。
お仕着せのドレスを自分で着ようと奮闘して――失敗。
リボンが逆さま、靴下は左右ちがい。

「うぅ……またまちがえましたの……」

鏡の前でふくれっ面をしていると、メイドのルーシーが笑いながら近づいてきました。
「お嬢さま、今日はお出かけ日ではありませんのに、どうしてそんなに早起きで?」
「きょうはおかあさまのおてつだいですの! お花のおみずをあげるですの!」

「まぁ、立派になられて……」
ルーシーは微笑みながらリリアナの髪をとかしてあげました。
金色の髪が朝日にきらきら光って、まるで天使の輪のよう。

「よし、これでばっちりですの!」
「ええ、とってもお似合いです。」

***

庭に出ると、公爵夫人イザベラが花壇の前に立っていました。
今日の夫人は淡い青のドレス。風に揺れるたび、まるで空の一部のようです。

「おはようございますの! おかあさま!」
「おはよう、リリアナ。今日もいい朝ですわね。」

二人でジョウロを手に取り、並んで花に水をやりました。
リリアナは少し背伸びをしながら、一生懸命に水を注ぎます。
その姿にイザベラは目を細めました。

「ねえ、リリアナ。あなた、森でひとりで過ごしていたときも、こうしてお花に話しかけていたの?」
「はいですの。お花さんは、おこらないで話をきいてくれましたの。」
「ふふ……やっぱり優しいのね。」

「えへへ……でも、いまはおかあさまがいますの。だからもっとしあわせですの!」

イザベラは少し目を潤ませ、リリアナの髪をなでました。
その笑顔を見て、心の中でつぶやく。

――どうか、この幸せが長く続きますように。

***

昼下がり、屋敷に一台の馬車が止まりました。
金の紋章をあしらった封筒を持った使者が、玄関に現れます。

「ルフェール公爵閣下に、王国より親書を。」

公爵は眉をひそめ、受け取った封書を見ました。
王家の紋章――。
ただならぬ空気を感じ取った夫人がそっと傍らに立ちます。

「……中を見よう。」

封を切ると、数枚の羊皮紙が入っていました。
文字は、王国宰相の筆跡。
その文面を読んだ瞬間、二人の表情が固まりました。

「……“第一王子エリアス殿下と、リリアナ・ルフェール嬢の婚約を再び結びたい”?」
イザベラの声が震えました。
「まさか、あの子を――また政治の道具に?」

公爵は重い沈黙のあと、手紙を机に置いた。
「彼らは、自分たちが犯した罪の重さを理解しておらぬのだ。」

「まったく……。リリアナは、もう泣かない子ですのに。」
夫人の目に怒りと悲しみが浮かぶ。

そのとき、ノックの音がした。
「おとうさまー! おかあさまー! いま、おやつできましたのー!」

リリアナが皿を抱えて入ってきました。
焼きたてのクッキーの甘い香りが部屋を満たします。

「見てくださいですの! ハートのかたちにできましたの!」
小さな手で自慢げに差し出す。
公爵と夫人は顔を見合わせ、ふと微笑んだ。

「……ありがとう、リリアナ。」
「おとうさま、どうしたですの? こまってますの?」
「ううん、少しだけ、むずかしい話をしていたの。」

「むずかしいはなし……? リリアナにもできるですの?」
「ふふ、できるかもしれないわね。」
イザベラがそっと娘の髪を撫でながら言った。

公爵は少し迷ったあと、膝をついてリリアナと目を合わせた。
「リリアナ。君がこの家に来る前のことを、覚えているかい?」
「うん。すこしだけですの。さばいばるしましたの!」

「そうだね。あのとき、君をひとりにした人たちが、今――君に会いたいと言ってきている。」

リリアナは首をかしげた。
「ひとりにしたひと……?」
少し考えて、はっとしたように口を開く。
「おうじさま、ですの?」

「……そうだ。」

リリアナの瞳がゆらめいた。
過去の記憶――
「きみはまだ子どもだから」と言われたあの夜、
継母の冷たい笑顔、
そして暗い森の風の音。

でも、彼女の顔には怒りも悲しみもなかった。
ただ、静かな笑みがあった。

「おうじさま……いま、どこにいますの?」
「王城に。国を代表して、君との婚約を――」
「でも、もうリリアナは、“ルフェール”ですの。」

その小さな言葉に、公爵も夫人も息をのんだ。

「リリアナはもう、森のこでもないし、
 ローゼリアのこでもありませんの。
 ここが、わたしのおうちですの!」

イザベラは涙ぐみながら頷いた。
「……ええ、あなたは私たちの娘よ。」

公爵も深くうなずき、
王家への返書をすぐに書き始めた。

> 『リリアナ・ルフェール嬢は、もはや貴国の令嬢ではなく、
 我らの誇り高き娘である。
 彼女を再び政治の駒として扱うことは、断じて許さぬ。
 もし誠意を示したいなら、
 まずは彼女を追放した罪を謝罪されたい。』



ペン先が紙を滑る音が、重く静かに響いた。

リリアナはその横でクッキーを一口かじり、
「おとうさま、おかあさま、にがおえかいていいですの?」
「ええ、どうぞ。」

彼女は机の端で、紙に丸を二つ描き、笑顔を描いた。
「これ、わたしたちですの! 三人でにこにこですの!」

その絵を見て、公爵夫妻の心から、静かに緊張が溶けていった。

「……やはり、彼女は強い。」
「ええ。あの子こそ、この国の真の光ですわ。」

そして――
その日、王国へ向けて一通の手紙が送られた。

封にはルフェール家の紋章と、
リリアナの小さなサイン。

> 「おうじさま、ありがとうですの。
 でも、もうだいじょうぶですの。
 リリアナは、しあわせですの。」



その文字は、ぎこちなくも真っすぐで、
読む者の胸を締めつけるほどの、純粋な“卒業の宣言”だった。


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