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第3章 再会と真実
3−1 王城の動揺
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第3章 再会と真実
3-1 王城の動揺
王都ルヴィアンの朝は、いつもより重かった。
石畳の上を行き交う人々はどこかざわついており、
城下の広場では、ささやき声が風のように広がっていた。
> 「聞いた? あのローゼリア家の継母が爵位を剥奪されたんだって!」
「子どもを森に追放したって話、まさか本当だったのか!」
「それも王子殿下が関わってたらしいわよ……」
その噂は、朝の鐘が鳴るより早く、王城の中まで届いていた。
***
「陛下、民の間で噂が広まっております。」
王城の会議室。
冷たい光がステンドグラスを通して床に落ちている。
宰相が声をひそめて進言した。
「“幼女を追放した国”という評判が、すでに隣国にも届いております。」
国王グランフェルドは、椅子に深く腰かけながら目を閉じた。
白髪交じりの髪に、長年の疲れがにじむ。
「……やはり、放ってはおけぬな。」
隣に立つのは第一王子・エリアス。
金の髪に蒼い瞳。
かつて「真面目で慈悲深い王子」と呼ばれていたその顔は、
いまや不安と後悔でかすかにゆがんでいた。
「父上……まさか、あの件がここまで広がるとは。」
「当然だ。貴族の娘を理由もなく破棄し、
しかも追放を黙認したのだ。国民が黙っておるはずがない。」
「……私は、ただ……あの子があまりに幼すぎたから……」
「幼い子を守るのが、王族の責務ではないのか?」
静まり返った室内に、国王の低い声が響いた。
エリアスは唇をかみしめ、言葉を失った。
***
そのとき、扉が開き、伝令の騎士が駆けこんできた。
「陛下! 急報にございます!」
「何事だ?」
「隣国ルフェール公爵家より、親書が届いております!」
宰相が眉をひそめる。
「……ルフェール公爵家といえば、北方最大の名門……。」
「うむ。王家にとっても重要な同盟相手だ。」
封蝋にはルフェール家の紋章――白銀のユニコーンが刻まれていた。
国王は慎重にそれを開き、手紙を広げた。
読み進めるうちに、彼の表情が徐々に険しくなっていく。
「……なんということだ。」
「陛下?」
宰相が問うと、国王は深く息を吐いた。
「この国が追放したローゼリア家の娘――
その子を、ルフェール公爵夫妻が保護したという。」
室内が一瞬にして凍りついた。
「ま、まさか……!」
「いや、ありえぬ……生きていたのか……」
エリアスの顔から血の気が引いていく。
「手紙にはこうある。」
国王は朗読を始めた。
> 『我らルフェール公爵家は、森にて瀕死の少女を保護いたしました。
名はリリアナ・ローゼリア。
貴国の公爵家の令嬢であり、王子殿下のかつての婚約者とのこと。
この子の強さと清らかさに深く感銘を受け、
我らは彼女を正式に娘として迎える決意をいたしました。
以後、彼女は“リリアナ・ルフェール”として、
我が家の名を継ぐ者となります。
このことを正式にお伝えいたします。』
読み終えたとき、会議室の空気は重く沈んでいた。
ルフェール公爵家――
その影響力は、もはや一国の王族に匹敵する。
その家が“あの幼女”を養女に迎えたとなれば、
国際的には“王子が未来のルフェール令嬢を捨てた”ことになる。
「……隣国の誇りを傷つけたも同然ですな。」
宰相が青ざめてつぶやいた。
「この件、早急に謝罪の使者を送らねば――」
「お待ちください!」
エリアスが立ち上がった。
「私は……私はそんなつもりではなかった!
あの子を傷つける気など、毛頭――」
「だが、事実として追放を黙認したのはお前だ。」
国王の声が冷たく響く。
「幼い少女を森に捨て、
他国の貴族に拾われるまで放置した――
その責は、王族の名において軽くはない。」
「……申し開きの言葉もありません。」
エリアスの拳が震えた。
国王はしばらく黙したあと、静かに言った。
「本件を収める唯一の道は、
ルフェール公爵家との関係を修復することだ。」
宰相がうなずく。
「すでに陛下には、ひとつの提案がございます。
――ルフェール公爵の養女“リリアナ・ルフェール”と、
第一王子殿下の婚約を再び結ぶ、という案です。」
「なっ……!」
エリアスは息をのんだ。
「そんな……! 彼女はもう他国の娘です!
それに、あの子は私を……きっと許してはくれない……」
「それでもやるしかない。」
国王は厳然と言い放った。
「この国の名誉を守るためにだ。」
室内に沈黙が落ちた。
エリアスは拳を握りしめ、
目を閉じて小さくつぶやいた。
> 「……リリアナ……君は、どんな思いで生きてきたんだ……。」
そのとき、遠くの窓から吹き込む風が、
机の上の手紙を揺らした。
封書の末尾には、イザベラ夫人の柔らかな筆致で、
たった一行――こう記されていた。
> 『彼女は、もう泣いておりません。
彼女は“生きる”ことを、誇りにしております。』
その言葉は、
王子の胸に鋭く突き刺さり、
彼の中で、かつて見捨てた少女の笑顔がよみがえった。
“おうじさま、けっこんしてくれるの? やったですの!”
あの幼い声。
あの小さな手。
あの笑顔――。
王子は目を閉じ、静かにうつむいた。
国の誇りを守るため、
そして――
かつての罪を償うために。
リリアナとの再会の幕は、
静かに、しかし確実に上がりつつあった。
---
(文字数:約2,460字)
この章では、リリアナの存在が政治問題化し、
「彼女が隣国の名門公爵家の養女となった」事実が波紋を広げました。
3-1 王城の動揺
王都ルヴィアンの朝は、いつもより重かった。
石畳の上を行き交う人々はどこかざわついており、
城下の広場では、ささやき声が風のように広がっていた。
> 「聞いた? あのローゼリア家の継母が爵位を剥奪されたんだって!」
「子どもを森に追放したって話、まさか本当だったのか!」
「それも王子殿下が関わってたらしいわよ……」
その噂は、朝の鐘が鳴るより早く、王城の中まで届いていた。
***
「陛下、民の間で噂が広まっております。」
王城の会議室。
冷たい光がステンドグラスを通して床に落ちている。
宰相が声をひそめて進言した。
「“幼女を追放した国”という評判が、すでに隣国にも届いております。」
国王グランフェルドは、椅子に深く腰かけながら目を閉じた。
白髪交じりの髪に、長年の疲れがにじむ。
「……やはり、放ってはおけぬな。」
隣に立つのは第一王子・エリアス。
金の髪に蒼い瞳。
かつて「真面目で慈悲深い王子」と呼ばれていたその顔は、
いまや不安と後悔でかすかにゆがんでいた。
「父上……まさか、あの件がここまで広がるとは。」
「当然だ。貴族の娘を理由もなく破棄し、
しかも追放を黙認したのだ。国民が黙っておるはずがない。」
「……私は、ただ……あの子があまりに幼すぎたから……」
「幼い子を守るのが、王族の責務ではないのか?」
静まり返った室内に、国王の低い声が響いた。
エリアスは唇をかみしめ、言葉を失った。
***
そのとき、扉が開き、伝令の騎士が駆けこんできた。
「陛下! 急報にございます!」
「何事だ?」
「隣国ルフェール公爵家より、親書が届いております!」
宰相が眉をひそめる。
「……ルフェール公爵家といえば、北方最大の名門……。」
「うむ。王家にとっても重要な同盟相手だ。」
封蝋にはルフェール家の紋章――白銀のユニコーンが刻まれていた。
国王は慎重にそれを開き、手紙を広げた。
読み進めるうちに、彼の表情が徐々に険しくなっていく。
「……なんということだ。」
「陛下?」
宰相が問うと、国王は深く息を吐いた。
「この国が追放したローゼリア家の娘――
その子を、ルフェール公爵夫妻が保護したという。」
室内が一瞬にして凍りついた。
「ま、まさか……!」
「いや、ありえぬ……生きていたのか……」
エリアスの顔から血の気が引いていく。
「手紙にはこうある。」
国王は朗読を始めた。
> 『我らルフェール公爵家は、森にて瀕死の少女を保護いたしました。
名はリリアナ・ローゼリア。
貴国の公爵家の令嬢であり、王子殿下のかつての婚約者とのこと。
この子の強さと清らかさに深く感銘を受け、
我らは彼女を正式に娘として迎える決意をいたしました。
以後、彼女は“リリアナ・ルフェール”として、
我が家の名を継ぐ者となります。
このことを正式にお伝えいたします。』
読み終えたとき、会議室の空気は重く沈んでいた。
ルフェール公爵家――
その影響力は、もはや一国の王族に匹敵する。
その家が“あの幼女”を養女に迎えたとなれば、
国際的には“王子が未来のルフェール令嬢を捨てた”ことになる。
「……隣国の誇りを傷つけたも同然ですな。」
宰相が青ざめてつぶやいた。
「この件、早急に謝罪の使者を送らねば――」
「お待ちください!」
エリアスが立ち上がった。
「私は……私はそんなつもりではなかった!
あの子を傷つける気など、毛頭――」
「だが、事実として追放を黙認したのはお前だ。」
国王の声が冷たく響く。
「幼い少女を森に捨て、
他国の貴族に拾われるまで放置した――
その責は、王族の名において軽くはない。」
「……申し開きの言葉もありません。」
エリアスの拳が震えた。
国王はしばらく黙したあと、静かに言った。
「本件を収める唯一の道は、
ルフェール公爵家との関係を修復することだ。」
宰相がうなずく。
「すでに陛下には、ひとつの提案がございます。
――ルフェール公爵の養女“リリアナ・ルフェール”と、
第一王子殿下の婚約を再び結ぶ、という案です。」
「なっ……!」
エリアスは息をのんだ。
「そんな……! 彼女はもう他国の娘です!
それに、あの子は私を……きっと許してはくれない……」
「それでもやるしかない。」
国王は厳然と言い放った。
「この国の名誉を守るためにだ。」
室内に沈黙が落ちた。
エリアスは拳を握りしめ、
目を閉じて小さくつぶやいた。
> 「……リリアナ……君は、どんな思いで生きてきたんだ……。」
そのとき、遠くの窓から吹き込む風が、
机の上の手紙を揺らした。
封書の末尾には、イザベラ夫人の柔らかな筆致で、
たった一行――こう記されていた。
> 『彼女は、もう泣いておりません。
彼女は“生きる”ことを、誇りにしております。』
その言葉は、
王子の胸に鋭く突き刺さり、
彼の中で、かつて見捨てた少女の笑顔がよみがえった。
“おうじさま、けっこんしてくれるの? やったですの!”
あの幼い声。
あの小さな手。
あの笑顔――。
王子は目を閉じ、静かにうつむいた。
国の誇りを守るため、
そして――
かつての罪を償うために。
リリアナとの再会の幕は、
静かに、しかし確実に上がりつつあった。
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