婚約破棄されたけど負けないもん。がんばってさばいばるするぞー!

しおしお

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第4章 幼女の奇跡と新しい約束

4−1 王国の和解と光の晩餐

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第4章 幼女の奇跡と新しい約束

4-1 王国の和解と光の晩餐

リリアナとエリアス王子の再会から、三日がたった。
ルフェール領はいつも通り穏やかな朝を迎えていた。
けれど、屋敷の中には少し特別な空気が漂っていた。

「お嬢さま、お召し物のご用意ができました。」
「はいですの! きょうはお客様がくる日ですの!」

鏡の前でリリアナはメイドのルーシーに髪を整えてもらいながら、
少しそわそわしていた。
胸の前には、小さな花のブローチ。
お母さま――イザベラ夫人が手ずからつけてくれたものだ。

「リリアナ、きょうは大事な日ですわ。
 でも緊張しなくていいの。あなたは、いつものあなたでいてちょうだい。」
「うん! リリアナ、がんばりすぎませんの!」

イザベラは思わず吹き出した。
「ふふっ、そう、それが一番よ。」

***

その日、ルフェール邸の広間では、
隣国の王国使節団を迎える晩餐会が準備されていた。
長いテーブルの上には金の燭台が並び、
香ばしいパンとスープの香りが満ちている。

王子エリアスは、まだ少し緊張した面持ちで到着した。
彼の背筋はまっすぐだったが、その目にはかすかな影が残っている。

「ようこそ、殿下。」
公爵が落ち着いた声で出迎えた。
「お招きに感謝いたします。」
「いえ、感謝すべきはこちらの方です。……娘を救ってくださったことを、
 彼女があなたを許してくれたと聞いて、胸をなでおろしました。」

「私は、救われたのです。」
エリアスは深く頭を下げた。
「リリアナ嬢の優しさに。」

その言葉に、公爵と夫人は目を合わせ、静かにうなずいた。

***

やがて、扉の向こうから小さな足音が聞こえた。
「おうじさまー! こっちですのー!」

リリアナがドレスの裾を少し踏みながら、元気に駆けてくる。
淡い桜色のドレス。
髪には花冠。
その姿はまるで春の妖精のようだった。

「リリアナ……」
エリアスは思わず息をのんだ。

「きょうは、リリアナが“おもてなし”する日ですの!」
「おもてなし?」
「うん! リリアナ、がんばってクッキーつくりましたの!」

笑顔で差し出した皿には、ハートや星の形をした焼き菓子が並んでいた。
少し焦げているものも混じっていたが、
その素朴さが、何よりあたたかかった。

エリアスは小さく笑って、それをひとつ口に運んだ。
「……おいしい。」
「ほんとですの?」
「ええ、王宮の菓子よりずっと。」

リリアナは顔をぱっと輝かせた。
「やったですのー!」

その笑顔を見て、エリアスの胸の奥が静かにあたたまった。
彼女は、もう過去を見ていない。
前だけを見て、幸せを掴んでいる。

***

晩餐会が始まると、各国の使節が一斉に席に着いた。
王子エリアスはルフェール公爵夫妻の隣に座り、
リリアナはその向かいにちょこんと座った。

最初の乾杯の音が鳴り響く。

「本日の集まりは、“和解”のための席です。」
公爵が立ち上がり、ゆっくりと語り出した。
「かつての過ちを乗り越え、未来のために手を取り合う。
 その象徴が――この小さな奇跡、リリアナです。」

リリアナは目を丸くしていた。
「リリアナ、きせきですの?」
「ええ、あなたこそが奇跡ですわ。」
イザベラ夫人が微笑む。

客席のあちこちで小さな笑い声があがる。
その温かさが、王国と隣国の間の緊張をゆるやかに溶かしていった。

エリアスは立ち上がり、静かに杯を掲げた。
「この子の勇気に、そして彼女を愛し育てたルフェール家に、
 心からの敬意を。」

彼の声は震えていたが、真っすぐだった。
公爵がうなずく。
「その言葉、確かに受け取りました。」

***

晩餐が進む中、リリアナはテーブルの端で、
パンをちぎりながらエリアスに話しかけていた。

「おうじさま、パンすきですの?」
「ええ、とても。」
「じゃあ、リリアナが焼いたの、あとであげますの!」
「……ありがとう。」

「でもね、パンはすぐかたくなりますの。
 だから、たべるときは“いま”がいちばんですの!」

その言葉に、エリアスは目を見開いた。
“いまがいちばん”――
まるで、彼の心の奥を見透かすような言葉だった。

彼は笑ってうなずいた。
「そうだね。私も、“いま”を大切にしよう。」

「そうですの! いまがしあわせ、ですの!」

リリアナは両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、
にこっと笑った。
その笑顔に、晩餐の場にいた誰もが心を奪われた。

***

夜も更け、晩餐が終わるころ。
庭では無数のランタンが灯され、
風に揺らめく光がまるで星の海のように広がっていた。

「きれいですの……」
リリアナは小さくつぶやいた。

その隣で、エリアスはゆっくりと膝をついた。
「リリアナ。」
「はいですの?」
「私は、王子としてではなく、一人の人間として約束します。
 もう二度と、あなたのような子を泣かせません。
 ――あなたが教えてくれた“強さ”を、国に伝えていきます。」

リリアナは少し考えてから、
にっこりと笑って言った。

「じゃあ、がんばりすぎたら、おかあさまにしかられますのよ?」
「……気をつけます。」

二人は顔を見合わせ、静かに笑い合った。

夜空には流れ星が走った。
誰もがその光を見上げ、
“この出会いこそ奇跡だった”と心の中で思った。

リリアナの物語は――
もう、悲しみではなく“希望”を語る物語へと変わっていた。


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