18 / 20
第5章 ほんとうの「しあわせ」
5−2 百年後のリリアナ伝説
しおりを挟む
第5章 ほんとうの「しあわせ」
5-2 百年後のリリアナ伝説
王都ルヴィアン――光の国と呼ばれて、もう百年が過ぎた。
私は王立学術院の研究員、レティナ・クレール。
“リリアナ史研究室”に所属している。
今日も机の上には、数十冊の古文書と、分厚い記録帳が積まれている。
けれど、どれだけ本を読んでも、ひとつだけ分からないことがある。
> 「リリアナとは、どんな“人”だったのか?」
聖女、救世主、奇跡の子――。
記録には、立派な肩書きばかりが並んでいる。
けれど、どれもまるで“本当の彼女”を語っていない気がした。
私は机の上にある古びた日記帳を開いた。
柔らかい筆致で、子どもの文字のように書かれた文章が並ぶ。
> 『きょうは、パンをやきましたの。
こげたけど、わらってたべたらおいしかったですの。』
> 『かなしいときは、なきますの。
でも、なきおわったら、またえがおですの。』
> 『がんばりすぎたら、ころびますの。
だから、すこしずつ、がんばるですの。』
ページをめくるたびに、胸の奥が温かくなる。
どんな教典よりも優しい言葉。
誰かを導くためではなく、ただ日常を生きるための祈り。
> 「……聖女なんかじゃない。ただの女の子、か。」
思わず、口から言葉が漏れた。
***
昼下がり。
研究室を出て、王都の中央広場に足を運ぶ。
そこには、百年前と同じ場所に、白い石碑が立っていた。
“笑顔の奇跡 リリアナの祈り”
――碑文はもう風にすれて、読みにくくなっていた。
けれど、碑のまわりにはたくさんの花。
花屋の子どもたちが花冠を編み、老人がベンチでパンを分け合っている。
みんな自然に笑っていた。
老いた夫婦が手を取り合い、
若い母親が子を抱いて笑い、
子どもたちは口をそろえて歌う。
> ♪リリアナちゃんのえがおは おひさまのひかり~
なく子もわらう リリアナのうた~
百年前の歌が、まだこの街で歌われている。
でもそれは“宗教”ではなく、“暮らし”そのものになっていた。
「……こんなふうに生きていたのかもしれない。」
私は石碑の前で、つぶやいた。
すると、通りすがりの少女が私を見上げて言った。
「リリアナさまはね、がんばりすぎちゃだめって言ったんだよ!」
「え?」
「だから、わたしも、泣いたあとにチョコ食べるの!」
「……それはいい考えね。」
思わず笑ってしまった。
子どもの無邪気な声の中に、リリアナの面影が重なった。
きっと彼女も、こんな笑い方をしていたのだろう。
***
その夜。
学術院の講堂では、リリアナ生誕百周年記念式典が開かれていた。
各地の貴族や神官、学者、そして一般市民までもが集まり、
王国中が光に包まれている。
壇上に立ったのは、現王――エルスト・ルヴィアン三世。
リリアナの“血縁”ではないが、代々の王が彼女の思想を受け継いでいた。
「我らの祖国は、剣ではなく笑顔によって守られてきた。
百年前、たったひとりの少女が教えてくれた。
“人は、やさしくても強くなれる”と。」
会場から拍手が起こる。
だが王は、静かに手を上げて言葉を続けた。
「彼女は聖女ではない。神でもない。
ただ――“誰かのしあわせを願った少女”だ。
ゆえにこそ、永遠に消えない。」
私はその言葉を聞きながら、胸が熱くなった。
涙がこぼれそうになる。
***
式典が終わったあと、私は夜の街を歩いた。
月がやさしく光り、風が花の香りを運んでくる。
気づけば、中央広場に足が向いていた。
石碑の前には、ひとりの少女が立っていた。
白いドレスに、金糸の花飾り。
まるで――リリアナそのもの。
「こんばんはですの。」
その言葉に、心臓が跳ねた。
「……え?」
「リリアナですの。」
「ま、まさか……そんな……」
少女はにこっと笑った。
「レティナさん、がんばりすぎですの。
ちゃんとたべて、ちゃんとねるですの。
しあわせは、“がんばらない勇気”からですの。」
あたたかい光が彼女を包み、やがて夜空へと昇っていった。
私は涙をこぼしながら、ひとりでつぶやいた。
「……ありがとう、リリアナ。」
「あなたの笑顔、ちゃんと届いてます。」
夜風がそっと頬を撫でる。
どこからか、子どもの笑い声が聞こえた気がした。
> ――リリアナ、未来でも笑ってますの。
だから、あなたも、笑ってくださいですの。
その声が静かに消えたあと、私は空を見上げた。
そこにはひときわ明るく輝く星。
まるでおひさまが夜空に残した灯のようだった。
> 「リリアナ……あなたは、いまでもこの国の“あかり”です。」
***
翌朝。
私は学術院の記録書に、最後の一文を記した。
> 『リリアナ・ルフェール――人間でありながら、
もっとも人間らしく世界を照らした少女。
その微笑みは、百年経ってもなお、
王都の朝日よりもまぶしい。』
そして筆を置き、窓の外の陽射しを見つめた。
空は今日も明るく、街の人々は笑っている。
それが、何よりの証。
リリアナが、今もここにいるという証。
> ――がんばりすぎないで、笑うですの。
それが、この国の、そして人の幸せの形ですの。
私は微笑みながら、静かにノートを閉じた。
---
5-2 百年後のリリアナ伝説
王都ルヴィアン――光の国と呼ばれて、もう百年が過ぎた。
私は王立学術院の研究員、レティナ・クレール。
“リリアナ史研究室”に所属している。
今日も机の上には、数十冊の古文書と、分厚い記録帳が積まれている。
けれど、どれだけ本を読んでも、ひとつだけ分からないことがある。
> 「リリアナとは、どんな“人”だったのか?」
聖女、救世主、奇跡の子――。
記録には、立派な肩書きばかりが並んでいる。
けれど、どれもまるで“本当の彼女”を語っていない気がした。
私は机の上にある古びた日記帳を開いた。
柔らかい筆致で、子どもの文字のように書かれた文章が並ぶ。
> 『きょうは、パンをやきましたの。
こげたけど、わらってたべたらおいしかったですの。』
> 『かなしいときは、なきますの。
でも、なきおわったら、またえがおですの。』
> 『がんばりすぎたら、ころびますの。
だから、すこしずつ、がんばるですの。』
ページをめくるたびに、胸の奥が温かくなる。
どんな教典よりも優しい言葉。
誰かを導くためではなく、ただ日常を生きるための祈り。
> 「……聖女なんかじゃない。ただの女の子、か。」
思わず、口から言葉が漏れた。
***
昼下がり。
研究室を出て、王都の中央広場に足を運ぶ。
そこには、百年前と同じ場所に、白い石碑が立っていた。
“笑顔の奇跡 リリアナの祈り”
――碑文はもう風にすれて、読みにくくなっていた。
けれど、碑のまわりにはたくさんの花。
花屋の子どもたちが花冠を編み、老人がベンチでパンを分け合っている。
みんな自然に笑っていた。
老いた夫婦が手を取り合い、
若い母親が子を抱いて笑い、
子どもたちは口をそろえて歌う。
> ♪リリアナちゃんのえがおは おひさまのひかり~
なく子もわらう リリアナのうた~
百年前の歌が、まだこの街で歌われている。
でもそれは“宗教”ではなく、“暮らし”そのものになっていた。
「……こんなふうに生きていたのかもしれない。」
私は石碑の前で、つぶやいた。
すると、通りすがりの少女が私を見上げて言った。
「リリアナさまはね、がんばりすぎちゃだめって言ったんだよ!」
「え?」
「だから、わたしも、泣いたあとにチョコ食べるの!」
「……それはいい考えね。」
思わず笑ってしまった。
子どもの無邪気な声の中に、リリアナの面影が重なった。
きっと彼女も、こんな笑い方をしていたのだろう。
***
その夜。
学術院の講堂では、リリアナ生誕百周年記念式典が開かれていた。
各地の貴族や神官、学者、そして一般市民までもが集まり、
王国中が光に包まれている。
壇上に立ったのは、現王――エルスト・ルヴィアン三世。
リリアナの“血縁”ではないが、代々の王が彼女の思想を受け継いでいた。
「我らの祖国は、剣ではなく笑顔によって守られてきた。
百年前、たったひとりの少女が教えてくれた。
“人は、やさしくても強くなれる”と。」
会場から拍手が起こる。
だが王は、静かに手を上げて言葉を続けた。
「彼女は聖女ではない。神でもない。
ただ――“誰かのしあわせを願った少女”だ。
ゆえにこそ、永遠に消えない。」
私はその言葉を聞きながら、胸が熱くなった。
涙がこぼれそうになる。
***
式典が終わったあと、私は夜の街を歩いた。
月がやさしく光り、風が花の香りを運んでくる。
気づけば、中央広場に足が向いていた。
石碑の前には、ひとりの少女が立っていた。
白いドレスに、金糸の花飾り。
まるで――リリアナそのもの。
「こんばんはですの。」
その言葉に、心臓が跳ねた。
「……え?」
「リリアナですの。」
「ま、まさか……そんな……」
少女はにこっと笑った。
「レティナさん、がんばりすぎですの。
ちゃんとたべて、ちゃんとねるですの。
しあわせは、“がんばらない勇気”からですの。」
あたたかい光が彼女を包み、やがて夜空へと昇っていった。
私は涙をこぼしながら、ひとりでつぶやいた。
「……ありがとう、リリアナ。」
「あなたの笑顔、ちゃんと届いてます。」
夜風がそっと頬を撫でる。
どこからか、子どもの笑い声が聞こえた気がした。
> ――リリアナ、未来でも笑ってますの。
だから、あなたも、笑ってくださいですの。
その声が静かに消えたあと、私は空を見上げた。
そこにはひときわ明るく輝く星。
まるでおひさまが夜空に残した灯のようだった。
> 「リリアナ……あなたは、いまでもこの国の“あかり”です。」
***
翌朝。
私は学術院の記録書に、最後の一文を記した。
> 『リリアナ・ルフェール――人間でありながら、
もっとも人間らしく世界を照らした少女。
その微笑みは、百年経ってもなお、
王都の朝日よりもまぶしい。』
そして筆を置き、窓の外の陽射しを見つめた。
空は今日も明るく、街の人々は笑っている。
それが、何よりの証。
リリアナが、今もここにいるという証。
> ――がんばりすぎないで、笑うですの。
それが、この国の、そして人の幸せの形ですの。
私は微笑みながら、静かにノートを閉じた。
---
10
あなたにおすすめの小説
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
捨てられた悪役はきっと幸せになる
ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。
強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。
その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。
それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。
「ヴィヴィア、あなたを愛してます」
ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。
そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは?
愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。
※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる