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第5章 ほんとうの「しあわせ」
5−2 百年後のリリアナ伝説
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第5章 ほんとうの「しあわせ」
5-2 百年後のリリアナ伝説
王都ルヴィアン――光の国と呼ばれて、もう百年が過ぎた。
私は王立学術院の研究員、レティナ・クレール。
“リリアナ史研究室”に所属している。
今日も机の上には、数十冊の古文書と、分厚い記録帳が積まれている。
けれど、どれだけ本を読んでも、ひとつだけ分からないことがある。
> 「リリアナとは、どんな“人”だったのか?」
聖女、救世主、奇跡の子――。
記録には、立派な肩書きばかりが並んでいる。
けれど、どれもまるで“本当の彼女”を語っていない気がした。
私は机の上にある古びた日記帳を開いた。
柔らかい筆致で、子どもの文字のように書かれた文章が並ぶ。
> 『きょうは、パンをやきましたの。
こげたけど、わらってたべたらおいしかったですの。』
> 『かなしいときは、なきますの。
でも、なきおわったら、またえがおですの。』
> 『がんばりすぎたら、ころびますの。
だから、すこしずつ、がんばるですの。』
ページをめくるたびに、胸の奥が温かくなる。
どんな教典よりも優しい言葉。
誰かを導くためではなく、ただ日常を生きるための祈り。
> 「……聖女なんかじゃない。ただの女の子、か。」
思わず、口から言葉が漏れた。
***
昼下がり。
研究室を出て、王都の中央広場に足を運ぶ。
そこには、百年前と同じ場所に、白い石碑が立っていた。
“笑顔の奇跡 リリアナの祈り”
――碑文はもう風にすれて、読みにくくなっていた。
けれど、碑のまわりにはたくさんの花。
花屋の子どもたちが花冠を編み、老人がベンチでパンを分け合っている。
みんな自然に笑っていた。
老いた夫婦が手を取り合い、
若い母親が子を抱いて笑い、
子どもたちは口をそろえて歌う。
> ♪リリアナちゃんのえがおは おひさまのひかり~
なく子もわらう リリアナのうた~
百年前の歌が、まだこの街で歌われている。
でもそれは“宗教”ではなく、“暮らし”そのものになっていた。
「……こんなふうに生きていたのかもしれない。」
私は石碑の前で、つぶやいた。
すると、通りすがりの少女が私を見上げて言った。
「リリアナさまはね、がんばりすぎちゃだめって言ったんだよ!」
「え?」
「だから、わたしも、泣いたあとにチョコ食べるの!」
「……それはいい考えね。」
思わず笑ってしまった。
子どもの無邪気な声の中に、リリアナの面影が重なった。
きっと彼女も、こんな笑い方をしていたのだろう。
***
その夜。
学術院の講堂では、リリアナ生誕百周年記念式典が開かれていた。
各地の貴族や神官、学者、そして一般市民までもが集まり、
王国中が光に包まれている。
壇上に立ったのは、現王――エルスト・ルヴィアン三世。
リリアナの“血縁”ではないが、代々の王が彼女の思想を受け継いでいた。
「我らの祖国は、剣ではなく笑顔によって守られてきた。
百年前、たったひとりの少女が教えてくれた。
“人は、やさしくても強くなれる”と。」
会場から拍手が起こる。
だが王は、静かに手を上げて言葉を続けた。
「彼女は聖女ではない。神でもない。
ただ――“誰かのしあわせを願った少女”だ。
ゆえにこそ、永遠に消えない。」
私はその言葉を聞きながら、胸が熱くなった。
涙がこぼれそうになる。
***
式典が終わったあと、私は夜の街を歩いた。
月がやさしく光り、風が花の香りを運んでくる。
気づけば、中央広場に足が向いていた。
石碑の前には、ひとりの少女が立っていた。
白いドレスに、金糸の花飾り。
まるで――リリアナそのもの。
「こんばんはですの。」
その言葉に、心臓が跳ねた。
「……え?」
「リリアナですの。」
「ま、まさか……そんな……」
少女はにこっと笑った。
「レティナさん、がんばりすぎですの。
ちゃんとたべて、ちゃんとねるですの。
しあわせは、“がんばらない勇気”からですの。」
あたたかい光が彼女を包み、やがて夜空へと昇っていった。
私は涙をこぼしながら、ひとりでつぶやいた。
「……ありがとう、リリアナ。」
「あなたの笑顔、ちゃんと届いてます。」
夜風がそっと頬を撫でる。
どこからか、子どもの笑い声が聞こえた気がした。
> ――リリアナ、未来でも笑ってますの。
だから、あなたも、笑ってくださいですの。
その声が静かに消えたあと、私は空を見上げた。
そこにはひときわ明るく輝く星。
まるでおひさまが夜空に残した灯のようだった。
> 「リリアナ……あなたは、いまでもこの国の“あかり”です。」
***
翌朝。
私は学術院の記録書に、最後の一文を記した。
> 『リリアナ・ルフェール――人間でありながら、
もっとも人間らしく世界を照らした少女。
その微笑みは、百年経ってもなお、
王都の朝日よりもまぶしい。』
そして筆を置き、窓の外の陽射しを見つめた。
空は今日も明るく、街の人々は笑っている。
それが、何よりの証。
リリアナが、今もここにいるという証。
> ――がんばりすぎないで、笑うですの。
それが、この国の、そして人の幸せの形ですの。
私は微笑みながら、静かにノートを閉じた。
---
5-2 百年後のリリアナ伝説
王都ルヴィアン――光の国と呼ばれて、もう百年が過ぎた。
私は王立学術院の研究員、レティナ・クレール。
“リリアナ史研究室”に所属している。
今日も机の上には、数十冊の古文書と、分厚い記録帳が積まれている。
けれど、どれだけ本を読んでも、ひとつだけ分からないことがある。
> 「リリアナとは、どんな“人”だったのか?」
聖女、救世主、奇跡の子――。
記録には、立派な肩書きばかりが並んでいる。
けれど、どれもまるで“本当の彼女”を語っていない気がした。
私は机の上にある古びた日記帳を開いた。
柔らかい筆致で、子どもの文字のように書かれた文章が並ぶ。
> 『きょうは、パンをやきましたの。
こげたけど、わらってたべたらおいしかったですの。』
> 『かなしいときは、なきますの。
でも、なきおわったら、またえがおですの。』
> 『がんばりすぎたら、ころびますの。
だから、すこしずつ、がんばるですの。』
ページをめくるたびに、胸の奥が温かくなる。
どんな教典よりも優しい言葉。
誰かを導くためではなく、ただ日常を生きるための祈り。
> 「……聖女なんかじゃない。ただの女の子、か。」
思わず、口から言葉が漏れた。
***
昼下がり。
研究室を出て、王都の中央広場に足を運ぶ。
そこには、百年前と同じ場所に、白い石碑が立っていた。
“笑顔の奇跡 リリアナの祈り”
――碑文はもう風にすれて、読みにくくなっていた。
けれど、碑のまわりにはたくさんの花。
花屋の子どもたちが花冠を編み、老人がベンチでパンを分け合っている。
みんな自然に笑っていた。
老いた夫婦が手を取り合い、
若い母親が子を抱いて笑い、
子どもたちは口をそろえて歌う。
> ♪リリアナちゃんのえがおは おひさまのひかり~
なく子もわらう リリアナのうた~
百年前の歌が、まだこの街で歌われている。
でもそれは“宗教”ではなく、“暮らし”そのものになっていた。
「……こんなふうに生きていたのかもしれない。」
私は石碑の前で、つぶやいた。
すると、通りすがりの少女が私を見上げて言った。
「リリアナさまはね、がんばりすぎちゃだめって言ったんだよ!」
「え?」
「だから、わたしも、泣いたあとにチョコ食べるの!」
「……それはいい考えね。」
思わず笑ってしまった。
子どもの無邪気な声の中に、リリアナの面影が重なった。
きっと彼女も、こんな笑い方をしていたのだろう。
***
その夜。
学術院の講堂では、リリアナ生誕百周年記念式典が開かれていた。
各地の貴族や神官、学者、そして一般市民までもが集まり、
王国中が光に包まれている。
壇上に立ったのは、現王――エルスト・ルヴィアン三世。
リリアナの“血縁”ではないが、代々の王が彼女の思想を受け継いでいた。
「我らの祖国は、剣ではなく笑顔によって守られてきた。
百年前、たったひとりの少女が教えてくれた。
“人は、やさしくても強くなれる”と。」
会場から拍手が起こる。
だが王は、静かに手を上げて言葉を続けた。
「彼女は聖女ではない。神でもない。
ただ――“誰かのしあわせを願った少女”だ。
ゆえにこそ、永遠に消えない。」
私はその言葉を聞きながら、胸が熱くなった。
涙がこぼれそうになる。
***
式典が終わったあと、私は夜の街を歩いた。
月がやさしく光り、風が花の香りを運んでくる。
気づけば、中央広場に足が向いていた。
石碑の前には、ひとりの少女が立っていた。
白いドレスに、金糸の花飾り。
まるで――リリアナそのもの。
「こんばんはですの。」
その言葉に、心臓が跳ねた。
「……え?」
「リリアナですの。」
「ま、まさか……そんな……」
少女はにこっと笑った。
「レティナさん、がんばりすぎですの。
ちゃんとたべて、ちゃんとねるですの。
しあわせは、“がんばらない勇気”からですの。」
あたたかい光が彼女を包み、やがて夜空へと昇っていった。
私は涙をこぼしながら、ひとりでつぶやいた。
「……ありがとう、リリアナ。」
「あなたの笑顔、ちゃんと届いてます。」
夜風がそっと頬を撫でる。
どこからか、子どもの笑い声が聞こえた気がした。
> ――リリアナ、未来でも笑ってますの。
だから、あなたも、笑ってくださいですの。
その声が静かに消えたあと、私は空を見上げた。
そこにはひときわ明るく輝く星。
まるでおひさまが夜空に残した灯のようだった。
> 「リリアナ……あなたは、いまでもこの国の“あかり”です。」
***
翌朝。
私は学術院の記録書に、最後の一文を記した。
> 『リリアナ・ルフェール――人間でありながら、
もっとも人間らしく世界を照らした少女。
その微笑みは、百年経ってもなお、
王都の朝日よりもまぶしい。』
そして筆を置き、窓の外の陽射しを見つめた。
空は今日も明るく、街の人々は笑っている。
それが、何よりの証。
リリアナが、今もここにいるという証。
> ――がんばりすぎないで、笑うですの。
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私は微笑みながら、静かにノートを閉じた。
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