婚約破棄されたけど負けないもん。がんばってさばいばるするぞー!

しおしお

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第5章 ほんとうの「しあわせ」

5−4 風になったリリアナですの

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第5章 ほんとうの「しあわせ」

5-4 風になったリリアナですの

わたしはいま、風になりましたの。

目を閉じれば、森のにおいがします。
小鳥の羽ばたき、パンの香り、子どもたちの笑い声。
すべてがひとつになって、わたしの中を通り抜けていきますの。

森の木々がささやきます。
「リリアナ、おかえり。」
「ただいまですの。」

もう身体はないけれど、さみしくはありませんの。
だって、世界じゅうが“わたしの手”であり、
空の風が“わたしの息”だからですの。

***

あのころ、わたしは小さな女の子でしたの。
おなかがすいて、さむくて、ないていた日もありました。
でも、ひとつだけ忘れなかったことがありますの。

――笑えば、あたたかくなるですの。

それが、ぜんぶのはじまりでしたの。

だから、いまも風になって、
泣いてる子のほっぺをなでますの。

> 「だいじょうぶですの。
 泣いてもいいですの。
 でもね、いつか笑える日がきますの。」



そのたびに子どもたちは、
きょとんとして空を見上げてくれます。
そして、小さな声で「ありがとう」って言ってくれる。

それだけで、わたしの風は、もう一度光るのですの。

***

ときどき、大人たちの心にも吹きますの。
仕事でつかれた人、恋で泣いた人、
だれにも言えない思いを抱えた人――。

そんな人たちのために、
やさしい風をおくりますの。

> 「がんばりすぎないでくださいですの。
 がんばらなくても、あなたはもうじゅうぶんですの。」



すると、みんながふっと肩の力を抜いて、
少しだけ微笑んでくれるのですの。

その笑顔を見るたびに思います。
――わたしは、まだここにいられる。

わたしの「生きてる」は、
きっとこういうことなんですのね。

***

ある日、王都の広場に行きましたの。
わたしの石碑のまわりには、たくさんの花が咲いていますの。
子どもたちが花冠を頭にのせて、歌っていました。

> ♪リリアナちゃんのえがおは おひさまのひかり~



その歌を聴くたび、
胸の中がくすぐったくなりますの。

「もう、みんなおとなになったのに、
 まだリリアナちゃんって呼ばれてますのね。」

でも、うれしいのですの。
だって、“ちゃん”っていうのは、
みんなの中で、わたしがまだ“近く”にいる証拠だからですの。

風になったいまでも、
ちゃんと友だちのままでいられる――
それが、いちばんのしあわせですの。

***

夕暮れがやってきます。
おひさまが、ゆっくりと街の屋根の向こうに沈みますの。
オレンジ色の光が、窓ガラスに反射してきらきらしてる。

そこに、ひとりの少女がいますの。
金の髪を風に揺らして、
空を見上げながら、小さな声でつぶやきました。

「……リリアナさま、きょうもありがとうですの。」

その声を聞いた瞬間、
わたしの風がふわっと吹きましたの。
少女のスカートが揺れて、花びらが舞い上がります。

「どういたしましてですの。」
わたしの声は風の中にまぎれて、
でも、その子の瞳には、ちゃんと届いたみたいですの。

彼女はにっこり笑って、
「またあしたも笑うですの!」って言いましたの。

わたしの胸があたたかくなりますの。
――そう、これが“永遠”ということなんですのね。

***

夜になりました。
街は眠りにつき、灯りが少しずつ消えていきます。
でも、風はとまりませんの。
わたしは、ひとりひとりの寝顔の上をとおりぬけます。

お母さんの夢、お父さんの夢、
泣いて眠った子の夢、
まだ恋を知らない娘の夢――。

みんなの夢に、
ほんの少しだけ光をまぜていきますの。

> 「しあわせは、がんばらないで笑うことですの。
 だから、あしたもきっとだいじょうぶですの。」



みんなの寝息がそろって、
まるで子守唄のようになりますの。
その音の中で、わたしは空へ上っていきます。

お月さまが微笑みながら言いました。
「リリアナ、今日もありがとう。」
「いえ、みんなが笑ってくれるから、うれしいですの。」

そして、お月さまがやさしく答えました。
「その笑顔が、世界を回しているんだよ。」

わたしは少し照れて、
風の中でくるくると回ってみましたの。
星たちがきらきらと拍手してくれました。

***

いま、世界のどこかで、
だれかが泣いているかもしれませんの。
でも、きっと大丈夫ですの。
風はいつだって、そこに行けますの。

どんなに遠くても、
どんなにさびしくても、
笑顔をひとつ、運んでいけますの。

それが、わたしの“仕事”ですの。
そして、わたしの“しあわせ”でもありますの。

だって――

> わたしが風になる前から、
 ずっと、そう決めていましたの。



「がんばらないで、笑うですの」
「がんばらなくても、しあわせになれるですの」
「みんなが笑えば、それでいいですの」

わたしは空にのぼりながら、もう一度つぶやきました。

> 「おひさまの国、ありがとうですの。
 これからも、ずっと照らしていくですの。」



光がひとすじ、夜空をわたり、
流星のように消えていきました。

でも、風はやみません。
わたしは、どこにでもいますの。

あなたの髪をそっとなでる風。
その中に、もし少しだけぬくもりを感じたら――

> 「それ、リリアナですの。」



そして、あなたが笑ってくれたなら、
わたしはきっと、もういちど光になるですの。

おひさまのように、
みんなを包む、やさしい風として。

――リリアナ、いまも笑ってますの。
  ずっと、ずっと、これからもですの。


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