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第36話 公開の助言
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第36話 公開の助言
その場は、
最初から“舞台”として用意されていた。
王宮・大広間。
重臣、官僚、諸外国の使節、商会代表――
誰一人として、部外者はいない。
「本日は、
ヒュンダイ・ダイナスティ帝国より、
改革に関する“助言”を賜ります」
司会の声が響く。
その言葉に、
空気がわずかにざわめいた。
――助言。
つまり、
上から目線だ。
帝国使節が、一歩前に出る。
立派な装束。
堂々とした態度。
「我が帝国は、
ローゼリア王国の改革を
高く評価している」
定型句。
「だが同時に、
拙速な改革が
国力を損なう危険性も――」
「その点について」
声を遮ったのは、
アヴェンタドールだった。
穏やか。
だが、迷いがない。
「具体的に、
どの改革が
“国力を損なっている”と
お考えですか?」
一瞬、
使節の言葉が止まる。
「……財政規模の縮小」
「数値で」
即答。
「前年同期比で、
どの指標が?」
ざわめきが広がる。
使節は、
一瞬だけ視線を泳がせた。
「……民心の不安定化も」
「民心調査は、
どの機関のものです?」
逃げ道を、
一つずつ塞ぐ。
「帝国の……」
「帝国の調査は、
我が国の内政評価には
使用できませんわね」
きっぱり。
「主権国家ですから」
空気が、
一段冷えた。
――ここで。
アヴェンタドールは、
静かに一枚の書類を掲げた。
「では、
こちらをご覧ください」
配布される資料。
「改革後三十日間の
税収推移」
「物流速度」
「軍需供給効率」
数値は、
すべて改善していた。
「……馬鹿な」
誰かが、
小さく呟く。
「削減は、
弱体化ではありません」
アヴェンタドールは、
淡々と続ける。
「整理です」
「不要なものを捨て、
必要なものを
前に出しただけ」
使節は、
喉を鳴らした。
「だが、
外圧に対する耐性は――」
「あります」
即答。
ガーラが、
一歩前に出る。
「この国は、
今後、
不利な再交渉には
一切応じません」
柔らかな声。
だが、内容は強硬だった。
「……それは、
帝国との関係悪化を――」
「帝国、
ですか?」
アヴェンタドールは、
微笑んだ。
「本日の使節は、
皇帝陛下の名代では
ありませんわね」
どよめき。
「皇帝陛下の親書も、
私印もない」
一拍。
「つまりこれは、
帝国官僚個人の“助言”です」
完全に、
切り分けた。
使節の顔色が、
変わる。
「……!」
「帝国そのものを、
敵に回す気はありません」
アヴェンタドールは、
はっきり言う。
「ですが」
視線が、
鋭くなる。
「我が国の改革を
“利用”しようとするなら、
話は別です」
沈黙。
逃げ場は、
もうない。
「本日の助言は、
感謝します」
礼を取る。
「ですが――」
一歩、前へ。
「採用しません」
はっきりと。
その瞬間。
この場にいた全員が、
理解した。
――ローゼリアは、
もはや
“弱体化した国”ではない。
会議後。
ガーラは、
小さく息を吐いた。
「……すごいですわ」
「当然のことを
しただけです」
アヴェンタドールは、
淡々と答える。
その頃。
辺境の地で、
報告を受け取った男がいた。
「……公開で、
切ったか」
イーグル・タロン。
彼は、
静かに目を閉じる。
「やはり、
彼女は――」
小さく、
笑った。
「盤面を、
こちらに返してきた」
帝国の影は、
一度、
後退した。
だが――
それは、
終わりではない。
次は、
より深い場所から来る。
---
その場は、
最初から“舞台”として用意されていた。
王宮・大広間。
重臣、官僚、諸外国の使節、商会代表――
誰一人として、部外者はいない。
「本日は、
ヒュンダイ・ダイナスティ帝国より、
改革に関する“助言”を賜ります」
司会の声が響く。
その言葉に、
空気がわずかにざわめいた。
――助言。
つまり、
上から目線だ。
帝国使節が、一歩前に出る。
立派な装束。
堂々とした態度。
「我が帝国は、
ローゼリア王国の改革を
高く評価している」
定型句。
「だが同時に、
拙速な改革が
国力を損なう危険性も――」
「その点について」
声を遮ったのは、
アヴェンタドールだった。
穏やか。
だが、迷いがない。
「具体的に、
どの改革が
“国力を損なっている”と
お考えですか?」
一瞬、
使節の言葉が止まる。
「……財政規模の縮小」
「数値で」
即答。
「前年同期比で、
どの指標が?」
ざわめきが広がる。
使節は、
一瞬だけ視線を泳がせた。
「……民心の不安定化も」
「民心調査は、
どの機関のものです?」
逃げ道を、
一つずつ塞ぐ。
「帝国の……」
「帝国の調査は、
我が国の内政評価には
使用できませんわね」
きっぱり。
「主権国家ですから」
空気が、
一段冷えた。
――ここで。
アヴェンタドールは、
静かに一枚の書類を掲げた。
「では、
こちらをご覧ください」
配布される資料。
「改革後三十日間の
税収推移」
「物流速度」
「軍需供給効率」
数値は、
すべて改善していた。
「……馬鹿な」
誰かが、
小さく呟く。
「削減は、
弱体化ではありません」
アヴェンタドールは、
淡々と続ける。
「整理です」
「不要なものを捨て、
必要なものを
前に出しただけ」
使節は、
喉を鳴らした。
「だが、
外圧に対する耐性は――」
「あります」
即答。
ガーラが、
一歩前に出る。
「この国は、
今後、
不利な再交渉には
一切応じません」
柔らかな声。
だが、内容は強硬だった。
「……それは、
帝国との関係悪化を――」
「帝国、
ですか?」
アヴェンタドールは、
微笑んだ。
「本日の使節は、
皇帝陛下の名代では
ありませんわね」
どよめき。
「皇帝陛下の親書も、
私印もない」
一拍。
「つまりこれは、
帝国官僚個人の“助言”です」
完全に、
切り分けた。
使節の顔色が、
変わる。
「……!」
「帝国そのものを、
敵に回す気はありません」
アヴェンタドールは、
はっきり言う。
「ですが」
視線が、
鋭くなる。
「我が国の改革を
“利用”しようとするなら、
話は別です」
沈黙。
逃げ場は、
もうない。
「本日の助言は、
感謝します」
礼を取る。
「ですが――」
一歩、前へ。
「採用しません」
はっきりと。
その瞬間。
この場にいた全員が、
理解した。
――ローゼリアは、
もはや
“弱体化した国”ではない。
会議後。
ガーラは、
小さく息を吐いた。
「……すごいですわ」
「当然のことを
しただけです」
アヴェンタドールは、
淡々と答える。
その頃。
辺境の地で、
報告を受け取った男がいた。
「……公開で、
切ったか」
イーグル・タロン。
彼は、
静かに目を閉じる。
「やはり、
彼女は――」
小さく、
笑った。
「盤面を、
こちらに返してきた」
帝国の影は、
一度、
後退した。
だが――
それは、
終わりではない。
次は、
より深い場所から来る。
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