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第38話 断ち切られる過去
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第38話 断ち切られる過去
その男は、
堂々と入ってきた。
帝国使節団――
その肩書を持って。
だが、
ローゼリア王国宰相府にいる誰もが、
本質を理解していた。
彼が、
影そのものだということを。
「初めまして、
宰相アヴェンタドール殿」
イーグル・タロン。
穏やかな微笑み。
礼儀正しい一礼。
だが、
その視線は隠さない。
「……お久しぶりですわ」
アヴェンタドールは、
書類から顔を上げ、
淡々と応じた。
「帝国書記官イーグル・タロン様」
一瞬、
空気が張り詰める。
――互いに、
相手が“誰か”を知っている。
「お会いできて光栄です」
「ええ」
淡泊な返答。
「ただ、
本日は“助言”ではなく?」
イーグルは、
小さく笑った。
「いいえ」
即答。
「本日は――
確認です」
ガーラが、
一歩引いた位置で息を呑む。
「何を、
確認なさるのです?」
アヴェンタドールの声は、
微動だにしない。
「あなたが、
どこまで理解しているか」
沈黙。
先に、
口を開いたのは――
アヴェンタドールだった。
「帝国官僚が、
皇帝の名を使い」
「他国の改革を
“管理”しようとする構造」
一拍。
「その限界を、
でしょう?」
イーグルの瞳が、
わずかに細まる。
「……やはり」
「理解していますわ」
淡々と。
「帝国は、
巨大すぎる」
「だから、
統治ではなく
“制御”を選ぶ」
「周辺国を
適度に成長させ、
適度に縛る」
イーグルは、
何も否定しない。
「それは、
合理的です」
「ええ」
アヴェンタドールは、
頷いた。
「だからこそ」
視線が、
鋭くなる。
「私たちは、
管理対象になる気は
ありません」
静かな断言。
イーグルは、
深く息を吐いた。
「……ならば、
聞きましょう」
「あなたは、
帝国を敵に回す覚悟が
あるのですか?」
ガーラが、
思わず前に出ようとする。
だが――
アヴェンタドールが
手で制した。
「いいえ」
はっきりと。
「敵に回しません」
一拍。
「必要としないだけです」
その言葉に、
イーグルは笑った。
苦笑に近い。
「……それが、
一番厄介だ」
彼は、
肩をすくめる。
「あなたは、
革命家ではない」
「反逆者でもない」
「ただ――
自立した官僚だ」
アヴェンタドールは、
初めて、
わずかに微笑んだ。
「褒め言葉として
受け取りますわ」
沈黙。
そして。
「一つ、
忠告を」
イーグルが、
低く言う。
「帝国は、
あなたを“忘れない”」
「ええ」
即答。
「ですが」
彼女は、
まっすぐに見返す。
「恐れも、
いたしません」
それで、
十分だった。
イーグルは、
深く一礼する。
「……本日は、
これで」
背を向ける直前、
ふと、
足を止めた。
「宰相殿」
「はい」
「あなたは、
幸せですか?」
一瞬。
アヴェンタドールは、
ガーラを見た。
腹部に手を当て、
必死に国を守ろうとする
一人の母を。
「ええ」
迷いなく答える。
「忙しいですが」
イーグルは、
小さく笑った。
「それは、
何よりだ」
その背中は、
どこか――
軽く見えた。
過去は、
断ち切られた。
だが。
未来は、
まだ続く。
その男は、
堂々と入ってきた。
帝国使節団――
その肩書を持って。
だが、
ローゼリア王国宰相府にいる誰もが、
本質を理解していた。
彼が、
影そのものだということを。
「初めまして、
宰相アヴェンタドール殿」
イーグル・タロン。
穏やかな微笑み。
礼儀正しい一礼。
だが、
その視線は隠さない。
「……お久しぶりですわ」
アヴェンタドールは、
書類から顔を上げ、
淡々と応じた。
「帝国書記官イーグル・タロン様」
一瞬、
空気が張り詰める。
――互いに、
相手が“誰か”を知っている。
「お会いできて光栄です」
「ええ」
淡泊な返答。
「ただ、
本日は“助言”ではなく?」
イーグルは、
小さく笑った。
「いいえ」
即答。
「本日は――
確認です」
ガーラが、
一歩引いた位置で息を呑む。
「何を、
確認なさるのです?」
アヴェンタドールの声は、
微動だにしない。
「あなたが、
どこまで理解しているか」
沈黙。
先に、
口を開いたのは――
アヴェンタドールだった。
「帝国官僚が、
皇帝の名を使い」
「他国の改革を
“管理”しようとする構造」
一拍。
「その限界を、
でしょう?」
イーグルの瞳が、
わずかに細まる。
「……やはり」
「理解していますわ」
淡々と。
「帝国は、
巨大すぎる」
「だから、
統治ではなく
“制御”を選ぶ」
「周辺国を
適度に成長させ、
適度に縛る」
イーグルは、
何も否定しない。
「それは、
合理的です」
「ええ」
アヴェンタドールは、
頷いた。
「だからこそ」
視線が、
鋭くなる。
「私たちは、
管理対象になる気は
ありません」
静かな断言。
イーグルは、
深く息を吐いた。
「……ならば、
聞きましょう」
「あなたは、
帝国を敵に回す覚悟が
あるのですか?」
ガーラが、
思わず前に出ようとする。
だが――
アヴェンタドールが
手で制した。
「いいえ」
はっきりと。
「敵に回しません」
一拍。
「必要としないだけです」
その言葉に、
イーグルは笑った。
苦笑に近い。
「……それが、
一番厄介だ」
彼は、
肩をすくめる。
「あなたは、
革命家ではない」
「反逆者でもない」
「ただ――
自立した官僚だ」
アヴェンタドールは、
初めて、
わずかに微笑んだ。
「褒め言葉として
受け取りますわ」
沈黙。
そして。
「一つ、
忠告を」
イーグルが、
低く言う。
「帝国は、
あなたを“忘れない”」
「ええ」
即答。
「ですが」
彼女は、
まっすぐに見返す。
「恐れも、
いたしません」
それで、
十分だった。
イーグルは、
深く一礼する。
「……本日は、
これで」
背を向ける直前、
ふと、
足を止めた。
「宰相殿」
「はい」
「あなたは、
幸せですか?」
一瞬。
アヴェンタドールは、
ガーラを見た。
腹部に手を当て、
必死に国を守ろうとする
一人の母を。
「ええ」
迷いなく答える。
「忙しいですが」
イーグルは、
小さく笑った。
「それは、
何よりだ」
その背中は、
どこか――
軽く見えた。
過去は、
断ち切られた。
だが。
未来は、
まだ続く。
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