私は悪女らしいので、婚約者のうつけ王子を操り──私を売った父と母国に復讐します

しおしお

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第2話 うつけ王子は本当に“うつけ”なのか?

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第2話

うつけ王子との初対面──笑顔の裏の腹黒が交差する

ベルリッタ王国の迎賓館。
馬車を降りたアクノマジョリーカは、背後で爆ぜるように歓声が上がるのを感じた。

「お、噂の悪女令嬢が来たぞ……!」 「うわ、本当に気の強そうな顔だ……!」 「殿下とどっちが先に破滅するかな?」

聞こえるように言っているのだろうが、アクノマジョリーカは一切気に留めない。

(雑音ですわね。
 興味があるのは──この国の“王子”だけ)

彼女が視線を向けた先。
豪奢な大扉が開き、ゆっくりと一人の青年が現れた。

金糸の髪に、どこか物憂げな翡翠色の瞳。
容姿だけなら、この国一と称しても差し支えないほど整っている。

ただし。

その目は、どこか虚ろだった。

「……ようこそ。ベルリッタ王国へ。アクノマジョリーカ嬢」

まるで“外交用の紙を読んでいるだけ”のような声。

これが噂に聞く、
酒と女と夜会に溺れ、国政には一切興味のない“うつけ王子”ドンファム──。

アクノマジョリーカは、にこりと笑って礼を取る。

「お招きいただき光栄ですわ、ドンファム殿下」

王子は気の抜けた様子で頭をかいた。

「うちの父上と、君の父君が勝手に決めた婚約だ。
 君も嫌だろう? うつけ王子なんて」

「ええ、正直に申し上げて“最悪”と思ってましてよ」

普通の令嬢なら絶対に言わない直球を、彼女は迷いなく投げた。

ドンファムは、ポカンと口を開けたまま固まる。

「……あ、あのさ……もうちょっとオブラートというものを……?」

「不要ですわ。婚約者同士、腹の探り合いが一番つまらないでしょう?」

恐ろしい事に、本気で言っている。

だがドンファムは笑った。

「はは……なるほど、“悪女令嬢”って噂は本当だったんだな」

アクノマジョリーカは微笑のまま、王子の表情を観察する。

(……表情から感情を読ませないタイプ。
 噂通りの馬鹿ではなさそうですわね)

すると、王子がふと彼女をじっと見つめ返してきた。

「……君も噂の通りなら、俺と婚約したところで得はない。
 本当にいいのか?」

「構いませんわ、殿下。
 あなたが“コマとして忠実に動いてくださる”のであれば」

笑顔で言う台詞ではない。

ドンファムは目を見開いた。

「……コマ? 俺が?」

「ええ。動かないコマなら捨てるだけですわ」

「その言い方……初対面の婚約者にする話じゃなくないか……?」

周囲の侍従と騎士が震え上がる気配がした。

だが次の瞬間、王子はふっと息をついた。

「……面白い」

「まぁ、殿下こそ。“ただのうつけ”で済むお方でもなさそうですけれど」

アクノマジョリーカの言葉に、ドンファムはゆっくりと目を細める。

「君こそ……ただの悪女じゃないんだろう?」

二人の笑顔は、どちらも腹の底がまったく読めない。

その瞬間、
迎賓館の空気が変わった。

隠す気のない“策士と策士”の視線が交差したのだ。

アクノマジョリーカは、内心ほくそ笑んだ。

(駒としては上等。
 扱いやすいかどうかは、これから見極める必要がありますわね)

一方のドンファムもまた、
“うつけ王子”の仮面の下で静かに笑っていた。

(さて……悪女令嬢。
 駒にするつもりなら、君も覚悟しておけよ?)

こうして──
エリルフィン公爵の陰謀を超え、
何倍も危険な“腹黒二人の婚約劇”が幕を開けた。


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