2 / 39
第2話 うつけ王子は本当に“うつけ”なのか?
しおりを挟む
第2話
うつけ王子との初対面──笑顔の裏の腹黒が交差する
ベルリッタ王国の迎賓館。
馬車を降りたアクノマジョリーカは、背後で爆ぜるように歓声が上がるのを感じた。
「お、噂の悪女令嬢が来たぞ……!」 「うわ、本当に気の強そうな顔だ……!」 「殿下とどっちが先に破滅するかな?」
聞こえるように言っているのだろうが、アクノマジョリーカは一切気に留めない。
(雑音ですわね。
興味があるのは──この国の“王子”だけ)
彼女が視線を向けた先。
豪奢な大扉が開き、ゆっくりと一人の青年が現れた。
金糸の髪に、どこか物憂げな翡翠色の瞳。
容姿だけなら、この国一と称しても差し支えないほど整っている。
ただし。
その目は、どこか虚ろだった。
「……ようこそ。ベルリッタ王国へ。アクノマジョリーカ嬢」
まるで“外交用の紙を読んでいるだけ”のような声。
これが噂に聞く、
酒と女と夜会に溺れ、国政には一切興味のない“うつけ王子”ドンファム──。
アクノマジョリーカは、にこりと笑って礼を取る。
「お招きいただき光栄ですわ、ドンファム殿下」
王子は気の抜けた様子で頭をかいた。
「うちの父上と、君の父君が勝手に決めた婚約だ。
君も嫌だろう? うつけ王子なんて」
「ええ、正直に申し上げて“最悪”と思ってましてよ」
普通の令嬢なら絶対に言わない直球を、彼女は迷いなく投げた。
ドンファムは、ポカンと口を開けたまま固まる。
「……あ、あのさ……もうちょっとオブラートというものを……?」
「不要ですわ。婚約者同士、腹の探り合いが一番つまらないでしょう?」
恐ろしい事に、本気で言っている。
だがドンファムは笑った。
「はは……なるほど、“悪女令嬢”って噂は本当だったんだな」
アクノマジョリーカは微笑のまま、王子の表情を観察する。
(……表情から感情を読ませないタイプ。
噂通りの馬鹿ではなさそうですわね)
すると、王子がふと彼女をじっと見つめ返してきた。
「……君も噂の通りなら、俺と婚約したところで得はない。
本当にいいのか?」
「構いませんわ、殿下。
あなたが“コマとして忠実に動いてくださる”のであれば」
笑顔で言う台詞ではない。
ドンファムは目を見開いた。
「……コマ? 俺が?」
「ええ。動かないコマなら捨てるだけですわ」
「その言い方……初対面の婚約者にする話じゃなくないか……?」
周囲の侍従と騎士が震え上がる気配がした。
だが次の瞬間、王子はふっと息をついた。
「……面白い」
「まぁ、殿下こそ。“ただのうつけ”で済むお方でもなさそうですけれど」
アクノマジョリーカの言葉に、ドンファムはゆっくりと目を細める。
「君こそ……ただの悪女じゃないんだろう?」
二人の笑顔は、どちらも腹の底がまったく読めない。
その瞬間、
迎賓館の空気が変わった。
隠す気のない“策士と策士”の視線が交差したのだ。
アクノマジョリーカは、内心ほくそ笑んだ。
(駒としては上等。
扱いやすいかどうかは、これから見極める必要がありますわね)
一方のドンファムもまた、
“うつけ王子”の仮面の下で静かに笑っていた。
(さて……悪女令嬢。
駒にするつもりなら、君も覚悟しておけよ?)
こうして──
エリルフィン公爵の陰謀を超え、
何倍も危険な“腹黒二人の婚約劇”が幕を開けた。
--
うつけ王子との初対面──笑顔の裏の腹黒が交差する
ベルリッタ王国の迎賓館。
馬車を降りたアクノマジョリーカは、背後で爆ぜるように歓声が上がるのを感じた。
「お、噂の悪女令嬢が来たぞ……!」 「うわ、本当に気の強そうな顔だ……!」 「殿下とどっちが先に破滅するかな?」
聞こえるように言っているのだろうが、アクノマジョリーカは一切気に留めない。
(雑音ですわね。
興味があるのは──この国の“王子”だけ)
彼女が視線を向けた先。
豪奢な大扉が開き、ゆっくりと一人の青年が現れた。
金糸の髪に、どこか物憂げな翡翠色の瞳。
容姿だけなら、この国一と称しても差し支えないほど整っている。
ただし。
その目は、どこか虚ろだった。
「……ようこそ。ベルリッタ王国へ。アクノマジョリーカ嬢」
まるで“外交用の紙を読んでいるだけ”のような声。
これが噂に聞く、
酒と女と夜会に溺れ、国政には一切興味のない“うつけ王子”ドンファム──。
アクノマジョリーカは、にこりと笑って礼を取る。
「お招きいただき光栄ですわ、ドンファム殿下」
王子は気の抜けた様子で頭をかいた。
「うちの父上と、君の父君が勝手に決めた婚約だ。
君も嫌だろう? うつけ王子なんて」
「ええ、正直に申し上げて“最悪”と思ってましてよ」
普通の令嬢なら絶対に言わない直球を、彼女は迷いなく投げた。
ドンファムは、ポカンと口を開けたまま固まる。
「……あ、あのさ……もうちょっとオブラートというものを……?」
「不要ですわ。婚約者同士、腹の探り合いが一番つまらないでしょう?」
恐ろしい事に、本気で言っている。
だがドンファムは笑った。
「はは……なるほど、“悪女令嬢”って噂は本当だったんだな」
アクノマジョリーカは微笑のまま、王子の表情を観察する。
(……表情から感情を読ませないタイプ。
噂通りの馬鹿ではなさそうですわね)
すると、王子がふと彼女をじっと見つめ返してきた。
「……君も噂の通りなら、俺と婚約したところで得はない。
本当にいいのか?」
「構いませんわ、殿下。
あなたが“コマとして忠実に動いてくださる”のであれば」
笑顔で言う台詞ではない。
ドンファムは目を見開いた。
「……コマ? 俺が?」
「ええ。動かないコマなら捨てるだけですわ」
「その言い方……初対面の婚約者にする話じゃなくないか……?」
周囲の侍従と騎士が震え上がる気配がした。
だが次の瞬間、王子はふっと息をついた。
「……面白い」
「まぁ、殿下こそ。“ただのうつけ”で済むお方でもなさそうですけれど」
アクノマジョリーカの言葉に、ドンファムはゆっくりと目を細める。
「君こそ……ただの悪女じゃないんだろう?」
二人の笑顔は、どちらも腹の底がまったく読めない。
その瞬間、
迎賓館の空気が変わった。
隠す気のない“策士と策士”の視線が交差したのだ。
アクノマジョリーカは、内心ほくそ笑んだ。
(駒としては上等。
扱いやすいかどうかは、これから見極める必要がありますわね)
一方のドンファムもまた、
“うつけ王子”の仮面の下で静かに笑っていた。
(さて……悪女令嬢。
駒にするつもりなら、君も覚悟しておけよ?)
こうして──
エリルフィン公爵の陰謀を超え、
何倍も危険な“腹黒二人の婚約劇”が幕を開けた。
--
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
灯火
松石 愛弓
恋愛
子供のいない男爵家に、幼少時に引き取られたフィーリア。
数年後、義両親に実子が授かり、フィーリアは無用とばかりに男爵令嬢の立場から使用人扱いにされる。
意地悪な義母と義妹の浪費癖のため、無償労働のメイドとしてこき使われる辛い日々。
そんなある日、フィーリアに転機が訪れて・・
珍しくシリアスな感じのお話を書いてしまいました
いつもはこんな感じなのに・・ ^^;
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/122288809/episode/2034446
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/658488266/episode/4191823
新作です。毎週土曜日に更新予定です。興味を持っていただけましたら幸いです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/910027059/episode/10733961
気がついたら婚約者アリの後輩魔導師(王子)と結婚していたんですが。
三谷朱花
恋愛
「おめでとう!」
朝、職場である王城に着くと、リサ・ムースは、魔導士仲間になぜか祝われた。
「何が?」
リサは祝われた理由に心当たりがなかった。
どうやら、リサは結婚したらしい。
……婚約者がいたはずの、ディランと。
追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜
黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。
しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった!
不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。
そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。
「お前は、俺の宝だ」
寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。
一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……?
植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢
秋野 林檎
恋愛
「わ……私と結婚してください!」と叫んだのは、男爵令嬢ミーナ
プロポーズされたのは第一騎士団の団長、アークフリード・フェリックス・ブランドン公爵
アークフリードには、13年前に守りたいと思っていた紫の髪に紫の瞳をもつエリザベスを守ることができず死なせてしまったという辛い初恋の思い出があった。
そんなアークフリードの前に現れたのは、赤い髪に緑の瞳をもつミーナ
運命はふたりに不思議なめぐりあいの舞台を用意した。
⁂がついている章は性的な場面がありますので、ご注意ください。
「なろう」でも公開しておりますが、そちらではまだ改稿が進んでおりませんので、よろしければこちらでご覧ください。
出来損ないと呼ばれた公爵令嬢の結婚
奏千歌
恋愛
[できそこないと呼ばれても][魔王]
努力をしてきたつもりでした。
でもその結果が、私には学園に入学できるほどの学力がないというものでした。
できそこないと言われ、家から出ることを許されず、公爵家の家族としても認めてもらえず、使用人として働くことでしか、そこに私の居場所はありませんでした。
でも、それも、私が努力をすることができなかった結果で、悪いのは私のはずでした。
私が悪いのだと、何もかもを諦めていました。
諦めた果てに私に告げられたことは、魔法使いとの結婚でした。
田舎町に住む魔法使いさんは、どんな方なのか。
大きな不安を抱え、長い長い道のりを歩いて行きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる