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第3話 悪女令嬢、うつけ王子の“本性”に気づく
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第3話 悪女令嬢、うつけ王子の“本性”に気づく
ベルリッタ王国・王城離宮。
午後の日差しが降りそそぎ、静かな庭園には爽やかな風が流れていた。
アクノマジョリーカ・エリルフィンは、離宮のバルコニーに立ち、薄い琥珀色の紅茶を口へ運ぶ。
表情は優雅そのもの。しかし、その瞳だけが鋭く光っていた。
(父上……あなたの思惑はすべてお見通しですわ)
エリルフィン公爵――
彼はベルリッタ王国と親密な関係を築き、国交を深め、
その隙に軍を国の奥深くまで潜り込ませ、王都を一気に掌握するつもりだった。
アクノマジョリーカは、その最終段階のために“うつけ王子”の婚約者としてベルリッタに送り込まれた。
言うなれば――“侵略のための駒”。
しかし。
(やられる前に……私がベルリッタを先にいただく方が早いに決まっていますわ!)
悪女令嬢の口元が、愉悦にわずかに歪む。
そこへ。
「マジョリーカぁぁぁぁ! 今日こそ完璧だぞ!!」
勢いよく扉が開き、婚約者のドンファム王子が転がり込んできた。
金髪はくしゃくしゃ、上着は裏返し、靴下は左右で色が違う。
誰がどう見ても――
「……まあ、今日も“うつけ”度が高いですわね」
「ち、違うんだ! 今日はできたんだって! 一回も迷わず部屋まで来られたんだ!!」
「それは……はいはい、よかったですわね」
軽くあしらおうとして、アクノマジョリーカの手が止まる。
(……今、何と? 一度も迷わず?
昨日、王宮の地図を覚えてこいと言ったばかりですのに?)
「それと! 覚えたぞ! ほら、これ!」
ドンファムは胸を張って一枚の紙を差し出してくる。
アクノマジョリーカは受け取り、言葉を失った。
「…………これは」
紙には、ベルリッタ王宮の見取り図が描かれていた。
構造、距離、部屋の関連性――完璧。手書きとは思えぬ正確さ。
「昨日言ってただろ? 役に立たない“コマ”は捨てるって……!
だから、俺、捨てられないように頑張ったんだ!」
必死で訴えるドンファムの瞳は、驚くほど素直で澄んでいた。
(……この子、本当に“うつけ”なの?)
アクノマジョリーカは思わず顔を背ける。
「……まあ、褒めて差しあげてもよろしくてよ」
「ほんと!? やったぁ!」
(距離が近いですわ! 一歩下がりなさい!)
心の中でわけの分からない叫びを上げつつ、彼女は咳払いした。
「では、次の課題ですわ」
「次っ!? ま、また捨てられちゃうのか!?」
「捨てませんわよ。……今のところはね」
「ひぃぃぃ!!」
(ちょっと楽しいですわね、これ)
彼女は手近の書類を手渡す。
「ベルリッタの軍備配置と、国境の地形図を書き写して。
それができれば……“少しは”役に立つ駒になりますわ」
「ま、任せろ!」
ドンファムはすぐに机へ向かい、真剣な顔で作業を始めた。
その姿をじっと見つめながら、アクノマジョリーカは静かに思う。
(……ドンファム王子。
あなた、どう見ても“無能”ではありませんわよね?)
よく見ると筆の運びが速い。
図形の把握能力が異様に高い。
指先の動きが繊細で、文官以上に手際が良い。
(これほどの能力があるのに、なぜ“うつけ”と呼ばれるのですの?)
ドンファムはふと顔を上げ、微笑んだ。
「マジョリーカ。俺、頑張るから……どうか捨てないでくれ」
その笑顔が、アクノマジョリーカの胸をかすかに揺らす。
(……困りましたわね。
本当に“良い駒”かもしれませんわ、この方)
そして同時に、彼女の心に芽生えてしまった。
(父上の侵略計画の“前に”……私の方が、この国を手中に収めてしまいたい)
ベルリッタ攻略。
アクノマジョリーカの狙いは変わっていない。
だが、そこに――予想外の“戦力”が加わった。
うつけ王子。
いや、本当は……
(あなた、隠してますわね? 本性を)
アクノマジョリーカは扇を閉じ、静かに呟いた。
「――面白くなってきましたわ」
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ベルリッタ王国・王城離宮。
午後の日差しが降りそそぎ、静かな庭園には爽やかな風が流れていた。
アクノマジョリーカ・エリルフィンは、離宮のバルコニーに立ち、薄い琥珀色の紅茶を口へ運ぶ。
表情は優雅そのもの。しかし、その瞳だけが鋭く光っていた。
(父上……あなたの思惑はすべてお見通しですわ)
エリルフィン公爵――
彼はベルリッタ王国と親密な関係を築き、国交を深め、
その隙に軍を国の奥深くまで潜り込ませ、王都を一気に掌握するつもりだった。
アクノマジョリーカは、その最終段階のために“うつけ王子”の婚約者としてベルリッタに送り込まれた。
言うなれば――“侵略のための駒”。
しかし。
(やられる前に……私がベルリッタを先にいただく方が早いに決まっていますわ!)
悪女令嬢の口元が、愉悦にわずかに歪む。
そこへ。
「マジョリーカぁぁぁぁ! 今日こそ完璧だぞ!!」
勢いよく扉が開き、婚約者のドンファム王子が転がり込んできた。
金髪はくしゃくしゃ、上着は裏返し、靴下は左右で色が違う。
誰がどう見ても――
「……まあ、今日も“うつけ”度が高いですわね」
「ち、違うんだ! 今日はできたんだって! 一回も迷わず部屋まで来られたんだ!!」
「それは……はいはい、よかったですわね」
軽くあしらおうとして、アクノマジョリーカの手が止まる。
(……今、何と? 一度も迷わず?
昨日、王宮の地図を覚えてこいと言ったばかりですのに?)
「それと! 覚えたぞ! ほら、これ!」
ドンファムは胸を張って一枚の紙を差し出してくる。
アクノマジョリーカは受け取り、言葉を失った。
「…………これは」
紙には、ベルリッタ王宮の見取り図が描かれていた。
構造、距離、部屋の関連性――完璧。手書きとは思えぬ正確さ。
「昨日言ってただろ? 役に立たない“コマ”は捨てるって……!
だから、俺、捨てられないように頑張ったんだ!」
必死で訴えるドンファムの瞳は、驚くほど素直で澄んでいた。
(……この子、本当に“うつけ”なの?)
アクノマジョリーカは思わず顔を背ける。
「……まあ、褒めて差しあげてもよろしくてよ」
「ほんと!? やったぁ!」
(距離が近いですわ! 一歩下がりなさい!)
心の中でわけの分からない叫びを上げつつ、彼女は咳払いした。
「では、次の課題ですわ」
「次っ!? ま、また捨てられちゃうのか!?」
「捨てませんわよ。……今のところはね」
「ひぃぃぃ!!」
(ちょっと楽しいですわね、これ)
彼女は手近の書類を手渡す。
「ベルリッタの軍備配置と、国境の地形図を書き写して。
それができれば……“少しは”役に立つ駒になりますわ」
「ま、任せろ!」
ドンファムはすぐに机へ向かい、真剣な顔で作業を始めた。
その姿をじっと見つめながら、アクノマジョリーカは静かに思う。
(……ドンファム王子。
あなた、どう見ても“無能”ではありませんわよね?)
よく見ると筆の運びが速い。
図形の把握能力が異様に高い。
指先の動きが繊細で、文官以上に手際が良い。
(これほどの能力があるのに、なぜ“うつけ”と呼ばれるのですの?)
ドンファムはふと顔を上げ、微笑んだ。
「マジョリーカ。俺、頑張るから……どうか捨てないでくれ」
その笑顔が、アクノマジョリーカの胸をかすかに揺らす。
(……困りましたわね。
本当に“良い駒”かもしれませんわ、この方)
そして同時に、彼女の心に芽生えてしまった。
(父上の侵略計画の“前に”……私の方が、この国を手中に収めてしまいたい)
ベルリッタ攻略。
アクノマジョリーカの狙いは変わっていない。
だが、そこに――予想外の“戦力”が加わった。
うつけ王子。
いや、本当は……
(あなた、隠してますわね? 本性を)
アクノマジョリーカは扇を閉じ、静かに呟いた。
「――面白くなってきましたわ」
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