私は悪女らしいので、婚約者のうつけ王子を操り──私を売った父と母国に復讐します

しおしお

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第4話 悪女令嬢、王子の“演技”を見破る

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第4話 悪女令嬢、王子の“演技”を見破る

 ベルリッタ王国・離宮の一室。

 アクノマジョリーカは、静かに扇を揺らしながらドンファムを観察していた。

 婚約者になって三日目。

 ――今日、確信した。

(この王子……“うつけ”を演じていますわね)

 ドンファムは机に向かい、昨日渡した軍備配置図を書き写していた。
 集中した横顔は驚くほど凛々しく、指先の動きは訓練された軍師そのもの。

 だが、完成した瞬間――

「で、できたぁぁ!! マジョリーカ、褒めてくれ!」

 急に子犬のように頬を緩ませて駆け寄ってくる。

「……あなた、切り替えが雑ですわよ」

「あれ? 難しいこと言われた!?」

(やっぱり演技ですわよね?)

 アクノマジョリーカは図面を受け取り、軽く目を通す。

 驚愕。

(……精密、正確、迅速。
 これ、王家直属の軍師でも一部の者しかできませんわ)

 ベルリッタ侵略の序盤で必要な資料を、彼は一瞬で読み取っている。

 だからこそ――彼女は、あえて笑みを浮かべた。

「よろしい。あなた、やればできるではありませんの」

「本当か!? 俺、役に立てた!?」

「ええ、“駒”としては上出来ですわ」

 その言葉にドンファムは苦笑し、後頭部をかく。

「……駒でもいい。
 マジョリーカの隣に立てるなら、それで」

(……は?)

 アクノマジョリーカの扇が、わずかに止まった。

 表情には出さないが、心臓が跳ねる。
 だが彼女は気づかぬふりをして、別の話題を投げた。

「では次ですわ。ベルリッタの弱点を分析して、要点をまとめなさい」

「弱点……?」

 ドンファムは考える素振りを見せ――
 次の瞬間、表情が“王族の顔”に変わった。

「――内政の遅れ。
 国境の砦の補給線の脆さ。
 そして、各貴族の……利権争い。」

 低く、鋭い声。

 まるで“支配者の器”。

 しかし、アクノマジョリーカが驚くより早く。

「……あ、間違えた! えっと、その……弱点ってなんだっけ?」

(今、確信しましたわ)

 彼女はドンファムの顔に扇を向けた。

「あなた、絶対に“無能”じゃありませんわよね?」

「……えっと……」

「惚けるのはやめなさい」

 ドンファムは観念したのか、静かに視線を伏せた。

「……本当の俺を見せたら、皆が怖がるから」

 その一言で、アクノマジョリーカの眉が上がる。

「怖がらせてどうするのですの? 王子でしょう?」

「父上にも……兄上にも言われたんだ。
 “お前は強すぎる。民に恐れられる王を作ってはならない”って」

 彼は拳を握る。

「だから、俺は“うつけ”でいればいい。
 誰も傷つかないから」

(……なんて、面倒な性格ですの)

 アクノマジョリーカはため息をつく。

「あなた、私の計画の邪魔にならなければよかったのですけれど」

「計画? また何かあるのか?」

「もちろんありますわ。父上の侵略など、私の計画に比べれば児戯ですけれど」

 ドンファムは目を丸くする。

「お、お前……なんか大きいこと考えてないか?」

「私が“悪女令嬢”と呼ばれる意味、教えて差しあげますわ。
 私の狙いは――」

 アクノマジョリーカは扇を閉じ、彼へと向き直る。

「ベルリッタをいただくことですわ」

「……は?」

「あなたを王にする気なんてありませんの。
 私が“この国”を手に入れるのですわ」

 静かな声。だが、王位を射抜くほどの鋭さ。

 ドンファムはしばらく固まったあと、ぽつりとつぶやいた。

「……じゃあ、俺は?」

「あなたは……そうですわね」

 アクノマジョリーカは扇で口元を隠し、微笑んだ。

「“最強の駒”として使って差しあげますわ」

 その瞬間、ドンファムの頬がわずかに赤くなる。

「……捨てられないように頑張るよ、マジョリーカ」

(なぜ、そこで嬉しそうにするのか理解できませんわ……)

 悪女令嬢は困惑しながらも、ひとつだけ確信した。

(この王子……
 本気で使いこなせれば、ベルリッタどころか大陸が落ちますわね)

 そして心の中で呟いた。

(面白くなってきましたわ)


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