私は悪女らしいので、婚約者のうつけ王子を操り──私を売った父と母国に復讐します

しおしお

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第20話 「婚約者としての自覚? そんなもの要りませんわ!」

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第20話 「婚約者としての自覚? そんなもの要りませんわ!」

ベルリッタ王国・王城の一角。
アクノ・マジョリーカは、朝の政務を片づけていた。

書類を読みながら、さらさらと署名を書き込む。

「腐敗貴族の粛清は順調、援助金の再配分も完了。
こっちは来週の議会前に再精査が必要ですわね……」

その集中力と手際の良さは、文官たちを絶句させるレベルである。

文官Aは震えながら呟いた。

「いつの間に……この国の政務を掌握されているのだ……?」

文官Bは青ざめる。

「本来なら王族の仕事を……いや、もう任せた方が良いのでは……?」

そんな噂をよそに、当の本人は平然と作業を続けていた。

(ベルリッタは私の第二の領地。
この国が弱ければ、父の侵略計画が早まる――
だから先に立て直しておかねばなりませんわ)

彼女の思考は完全に合理的、かつ容赦がなかった。

そこへ――

「マジョリーカ!」

後ろからレオン王子が駆けてくる。

その顔はどこか期待に満ち、嬉しそうだ。

マジョリーカは書類から目を上げた。

「あら、殿下。
そんなに慌てて走ってきて……どうかなさいました?」

「う、うん、少し話があるんだ!」

王子が息を整える。

文官たちは気配を察し、そっと退散していく。

二人きりになると、レオンは真剣な眼差しで言う。

「マジョリーカ……僕と、正式に婚約を結んでほしい」

「はあ???」

魔物の群れに遭遇した程度では動揺しないアクノ・マジョリーカだが、
このときばかりは素で固まった。

しかし王子の表情は真剣そのものだった。

「僕は自分が“うつけ王子”と呼ばれている理由を知っている。
でも……君と一緒なら変われる気がするんだ。
君の隣で、君の力になりたい」

「……殿下」

マジョリーカの胸が少しだけ熱くなる。

だが――それ以上に、冷静な計算が働いた。

(いけませんわ。ここで婚約すれば、
私の“隠密計画”がすべて台無しになります)

アクノ・マジョリーカは、にっこりと微笑んだ――が、

その笑顔の裏には容赦ない現実が隠れていた。

「殿下。
お気持ちは光栄ですが、今の私には婚約を受ける理由がありませんわ」

「えっ……」

レオンは目を丸くする。

マジョリーカは淡々と続けた。

「私があなたの婚約者である意味……
殿下は、きちんと考えておられまして?」

「そ、それは……その……っ」

「“役に立つコマ”として動くのなら、このままでも問題ありません。
わざわざ婚約という枷など不要ですわ」

コマという言葉を言い切った瞬間、
レオンはぐさりと胸を刺された気がした。

マジョリーカはさらに追い打ちをかける。

「そもそも私、自分の人生を束縛されるのは嫌いなんですの。
必要なときに必要な動きをしてくれれば、それで十分ですわ」

レオンは俯く。

だが――

(それでも……それでもいい。
君が望む形で、僕は隣にいたい)

王子は拳を握りしめ、再び顔を上げた。

「わかった……なら、まずはコマでいい。
でも僕は、必ず君にふさわしい男になる!」

マジョリーカは息をのみ、一瞬だけ頬が赤くなった。

だが次の瞬間には、いつもの冷徹な悪女モードに戻る。

「努力するのは勝手ですが、期待はしませんわ」

「うん、見ていてくれ!」

(見てますわよ……ずっと前から)

と、心の中でだけ呟きながら――
マジョリーカは書類へ視線を戻した。

その背後で、レオンは決意を燃やす。

こうして、
“悪女令嬢とコマ王子(仮)”の奇妙な関係は続いていく。

そして王城では、また新たな噂が生まれた。

「王子、完全に落ちたな」
「むしろあれは忠臣の誓いでは?」
「いや、もはや犬……?」

しかし――当のマジョリーカは気づかない。

(殿下はあくまで計画のための人物……ふふっ、利用させてもらいますわ)

だがその目は、わずかに柔らかかった。

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