私は悪女らしいので、婚約者のうつけ王子を操り──私を売った父と母国に復讐します

しおしお

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第21話 「侵略の日は近い? 伯爵領を呑み込む影」

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第21話 「侵略の日は近い? 伯爵領を呑み込む影」

ベルリッタ王国北部――
広大な森林と山脈に囲まれた、アーネル伯爵領。

本来ならば静かな農作地帯であるこの土地に、
今、怪しい気配が満ちていた。

「……報告します。エリフィン公爵領の軍勢、国境沿いに集結中!」

伝令兵が、青ざめながら王城に飛び込んでくる。

王城の作戦室では、レオン王子と重臣たちが揃っていた。

レオンは驚きと困惑の入り混じった顔で問う。

「アーネル伯爵領に? なぜそんな……!」

将軍のひとりが地図を指差した。

「国境付近の砦を越えれば、そのまま王都へ最短距離。
どう見ても侵攻の準備です」

重臣たちの間に不安が走る。

「一体なぜ急に……?」
「講和同盟を結んだばかりではないか!」
「まさか、裏切り……?」

その言葉に、レオン王子は唇をかむ。

(まさか……マジョリーカの父、エリフィン公爵が)

父に疎まれ、追放されるように嫁がされた少女――
だが彼女と過ごした日々を思えば、
その父が何を企んでもおかしくないと、レオンには理解できた。

「すぐにアクノ・マジョリーカを呼べ。
彼女なら、きっと事情を知っているはずだ」

側近が慌てて走り去る。


---

その頃・王城の庭園

マジョリーカは、優雅に紅茶を嗜んでいた。

薔薇のアーチが並ぶ庭園で、書類を読みながらカップを口に運ぶ。

「……ふむ。ベルリッタの財政構造、
ここは手を入れた方が効率的ですわね」

そこに、息を切らせた側近が飛び込んでくる。

「マ、マジョリーカ様! 王子がお呼びです!」

「まあ、そんな大声を出さなくても聞こえますわよ。
急ぎなら歩きながら説明なさい」

側近は道すがら状況を話した。

「アーネル伯爵領に、エリフィン公爵軍が!」

マジョリーカの足がぴたりと止まる。

だが、その瞳は驚愕ではなく――
むしろ、冷えた確信だった。

「……ついに動きましたのね、父上」

側近は震えた。

「マジョリーカ様、ご存知だったのですか……?」

「ええ、もちろん。
あの男が私を便利な“政略コマ”として使い捨てにした時点で、
いずれ侵略を企むことは予測済みですわ」

そう告げる声には、怒りも悲しみもない。

ただ、静かで凍るような決意だけが宿っていた。


---

作戦室

扉を開けるなり、レオン王子が駆け寄ってくる。

「マジョリーカ! 状況は聞いてるか?」

「だいたいは。
エリフィン公爵軍が動いたのでしょう?」

「……君の言ったとおりだった」

マジョリーカはレオンの前に歩み寄り、
ゆっくりと、しかしはっきりと言った。

「殿下。
父の軍勢は、ベルリッタの“急所”を突くために用意されたもの。
今、この国を守れるのは……わたくしだけですわ」

室内の誰もが息をのむ。

王子が真剣な瞳で問う。

「……マジョリーカ。
君は……ベルリッタの味方でいてくれるのか?」

マジョリーカは微笑んだ。

その笑顔は、氷の刃のように鋭く、
しかし、どこか優しさを秘めていた。

「当然ですわ。
私はもう、エリフィン公爵家の娘ではありません。
ベルリッタ王夫殿下の婚約……
いえ、“コマ”として働く、この私の国ですもの」

王子は胸が熱くなる。

「マジョリーカ……!」

「……ただし、誤解を招かないように言っておきますが」

と、マジョリーカは涼しい声で言った。

「コマとして働くだけで、婚約はまだお断りですわ」

王子は盛大にこけそうになった。

重臣たちは、どこからともなく聞こえた「また振られたのか」に吹き出しそうになる。

だが――マジョリーカはすでに地図を見つめ、冷静に指示を飛ばしていた。

「さあ、殿下。
ベルリッタ反逆者――我が父、エリフィン公爵を倒しに参りましょう」

その声音を聞いて、誰もが悟った。

悪女令嬢アクノ・マジョリーカは――
今やこの国の最強の守護者なのだ、と。


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