30 / 39
第30話 “補給路を断て”悪女令嬢の絞殺戦術
しおりを挟む
第30話 “補給路を断て”悪女令嬢の絞殺戦術
――エリフィン公爵軍、動けず
夜明け前の薄光の中、アクノマジョリーカは馬上で風を切りながら進んでいた。
黒鴉隊を率いて進むその姿は、もはや“悪女令嬢”ではなく、冷徹な戦略家そのものだった。
「補給路さえ断てば、公爵軍は詰みますわ。
兵を何万揃えようと、食べ物がなければ動けませんもの。」
ドンファムは横を走りながら、複雑な表情を浮かべる。
「そんなこと……普通の令嬢が言うか?」
「普通の令嬢じゃありませんもの、私は。」
マジョリーカはさらりと言い放つ。
やがて一行は、山間の街道を見下ろす高台へと到達した。
そこには、エリフィン公爵軍が秘密裏に整えた補給拠点――“仮設野営倉庫”が存在していた。
巨大な天幕。
大量の木箱。
早朝から動き続ける兵士たち。
すべてが侵攻の準備であることは、火を見るより明らかだった。
ドンファム
「……あれが、公爵軍の補給基地か。」
マジョリーカ
「ええ。補給の心臓部。
ここを潰せば、公爵軍は立ち往生しますわ。」
彼女は黒鴉隊長に目配せした。
マジョリーカ
「“無傷で奪取”できる?」
黒鴉隊長
「できます。
何人たりとも殺さず、拠点ごと押さえてみせましょう。」
マジョリーカ
「素晴らしいわ。では――」
指先を軽く弾く。
「始めなさい。」
黒鴉隊が音もなく散開し、影のように補給基地へと忍び寄った。
しばらくして――。
黒鴉隊が、あっさりと倉庫を制圧して戻ってきた。
捕縛された兵士たちは皆、縄で丁寧に縛られ、怪我ひとつない。
ドンファム
「……早すぎないか?」
黒鴉隊長
「敵兵はほぼ全員、寝起きで警戒が薄く……
“全員寝ぼけていた”のが勝因です。」
マジョリーカ
「なんとまあ。
侵略の準備をしている割に、危機感が薄いですわね。」
マジョリーカは倉庫の中を見て回り、武器箱、保存食、油、建材を眺めた。
そして、ひとつの箱を開け、にっこりと笑う。
「ここに“ベルリッタ王家の紋章入り物資”が混ざっている……
つまり――」
ドンファム
「我が国の物資を転用して侵略準備をしていた……ってことか。」
マジョリーカ
「その通り。
公爵の背後には、内部協力者がいますわね。」
マジョリーカは箱の中身を軽く指ではじいて言い放つ。
「この証拠、王城に持ち帰りますわ。
“親善の名目で侵略準備をしていた”ことを白日の下に晒して差し上げましょう。」
ドンファム
「……父上がどう動くかな。」
マジョリーカ
「最悪、“国内の裏切り者一掃”という形で政治的大掃除が始まるでしょうけれど……
それはベルリッタのためですわ。」
ドンファムは真剣に彼女を見る。
「……マジョリーカ。
君はベルリッタのために、ここまで動いてくれるのか?」
マジョリーカは一瞬だけ目を逸らした。
「勘違いしないでくださいませ。
私はベルリッタのためじゃなく、“私自身のため”に動いているんですの。」
ドンファム
「それでも、救われているのはベルリッタだ。」
マジョリーカ
「もし救われているとしたら――
それはあなたが“私のコマとして優秀”だからですわ。」
けれど、その口調にはわずかな柔らかさがあった。
黒鴉隊が制圧した補給物資を運び出し、夜明けの赤色が空を染め始める。
マジョリーカは馬に乗り、短く命じた。
「さあ、次は“補給路の封鎖”ですわ。
エリフィン公爵軍を、飢えさせて進軍不能にいたしましょう。」
こうしてベルリッタの反撃は、さらに静かに、しかし決定的に進んでいくのだった。
――エリフィン公爵軍、動けず
夜明け前の薄光の中、アクノマジョリーカは馬上で風を切りながら進んでいた。
黒鴉隊を率いて進むその姿は、もはや“悪女令嬢”ではなく、冷徹な戦略家そのものだった。
「補給路さえ断てば、公爵軍は詰みますわ。
兵を何万揃えようと、食べ物がなければ動けませんもの。」
ドンファムは横を走りながら、複雑な表情を浮かべる。
「そんなこと……普通の令嬢が言うか?」
「普通の令嬢じゃありませんもの、私は。」
マジョリーカはさらりと言い放つ。
やがて一行は、山間の街道を見下ろす高台へと到達した。
そこには、エリフィン公爵軍が秘密裏に整えた補給拠点――“仮設野営倉庫”が存在していた。
巨大な天幕。
大量の木箱。
早朝から動き続ける兵士たち。
すべてが侵攻の準備であることは、火を見るより明らかだった。
ドンファム
「……あれが、公爵軍の補給基地か。」
マジョリーカ
「ええ。補給の心臓部。
ここを潰せば、公爵軍は立ち往生しますわ。」
彼女は黒鴉隊長に目配せした。
マジョリーカ
「“無傷で奪取”できる?」
黒鴉隊長
「できます。
何人たりとも殺さず、拠点ごと押さえてみせましょう。」
マジョリーカ
「素晴らしいわ。では――」
指先を軽く弾く。
「始めなさい。」
黒鴉隊が音もなく散開し、影のように補給基地へと忍び寄った。
しばらくして――。
黒鴉隊が、あっさりと倉庫を制圧して戻ってきた。
捕縛された兵士たちは皆、縄で丁寧に縛られ、怪我ひとつない。
ドンファム
「……早すぎないか?」
黒鴉隊長
「敵兵はほぼ全員、寝起きで警戒が薄く……
“全員寝ぼけていた”のが勝因です。」
マジョリーカ
「なんとまあ。
侵略の準備をしている割に、危機感が薄いですわね。」
マジョリーカは倉庫の中を見て回り、武器箱、保存食、油、建材を眺めた。
そして、ひとつの箱を開け、にっこりと笑う。
「ここに“ベルリッタ王家の紋章入り物資”が混ざっている……
つまり――」
ドンファム
「我が国の物資を転用して侵略準備をしていた……ってことか。」
マジョリーカ
「その通り。
公爵の背後には、内部協力者がいますわね。」
マジョリーカは箱の中身を軽く指ではじいて言い放つ。
「この証拠、王城に持ち帰りますわ。
“親善の名目で侵略準備をしていた”ことを白日の下に晒して差し上げましょう。」
ドンファム
「……父上がどう動くかな。」
マジョリーカ
「最悪、“国内の裏切り者一掃”という形で政治的大掃除が始まるでしょうけれど……
それはベルリッタのためですわ。」
ドンファムは真剣に彼女を見る。
「……マジョリーカ。
君はベルリッタのために、ここまで動いてくれるのか?」
マジョリーカは一瞬だけ目を逸らした。
「勘違いしないでくださいませ。
私はベルリッタのためじゃなく、“私自身のため”に動いているんですの。」
ドンファム
「それでも、救われているのはベルリッタだ。」
マジョリーカ
「もし救われているとしたら――
それはあなたが“私のコマとして優秀”だからですわ。」
けれど、その口調にはわずかな柔らかさがあった。
黒鴉隊が制圧した補給物資を運び出し、夜明けの赤色が空を染め始める。
マジョリーカは馬に乗り、短く命じた。
「さあ、次は“補給路の封鎖”ですわ。
エリフィン公爵軍を、飢えさせて進軍不能にいたしましょう。」
こうしてベルリッタの反撃は、さらに静かに、しかし決定的に進んでいくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
出来損ないと呼ばれた公爵令嬢の結婚
奏千歌
恋愛
[できそこないと呼ばれても][魔王]
努力をしてきたつもりでした。
でもその結果が、私には学園に入学できるほどの学力がないというものでした。
できそこないと言われ、家から出ることを許されず、公爵家の家族としても認めてもらえず、使用人として働くことでしか、そこに私の居場所はありませんでした。
でも、それも、私が努力をすることができなかった結果で、悪いのは私のはずでした。
私が悪いのだと、何もかもを諦めていました。
諦めた果てに私に告げられたことは、魔法使いとの結婚でした。
田舎町に住む魔法使いさんは、どんな方なのか。
大きな不安を抱え、長い長い道のりを歩いて行きました。
婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。
彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う!
「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」
「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」
貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。
それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム!
そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。
ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。
婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。
そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!?
「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」
復讐も愛憎劇も不要!
ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!?
優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです
有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。
けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。
助けた騎士は、王の右腕。
見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。
王城で評価され、居場所を得ていく私。
その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。
「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。
選ばれるのを待つ時代は、終わった。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
『お前とは結婚できない』と婚約破棄されたので、隣国の王に嫁ぎます
ほーみ
恋愛
春の宮廷は、いつもより少しだけざわめいていた。
けれどその理由が、わたし——エリシア・リンドールの婚約破棄であることを、わたし自身が一番よく理解していた。
「エリシア、君とは結婚できない」
王太子ユリウス殿下のその一言は、まるで氷の刃のように冷たかった。
——ああ、この人は本当に言ってしまったのね。
すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
水川サキ
恋愛
家族にも婚約者にも捨てられた。
心のよりどころは絵だけ。
それなのに、利き手を壊され描けなくなった。
すべてを失った私は――
※他サイトに掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる