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第七話 主導権の移動
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第七話 主導権の移動
港湾整備計画の調印式は、予定通り王宮の大広間で行われた。
だが空気は、かつての華やかさとは明らかに違っていた。
壇上に立つのはセドリック王太子。
その隣に並ぶのは王家の重臣たち。
そして向かいに、隣国代表として立つ男――オルフェリウス・カインハルト。
署名は王家の名で行われる。
だが誰もが理解している。
資金を握っているのは、王家ではない。
拍手が起きる。
形式上は成功だ。
港湾は止まらない。
軍需も当面は維持される。
しかしその裏で、主導権は静かに移動していた。
王宮執務室。
「なぜあの男が、あれほど強気なのだ」
セドリックは苛立ちを隠せない。
「殿下、資金を出す側です」
財務官は事実を述べる。
「契約条項の一部修正も要求されました」
「何だと」
「運営監督委員会への隣国代表の常駐参加です」
つまり、王家の事業に外部が関与する。
それは監視であり、制御だ。
「王家の事業だぞ!」
「殿下、資金を失えば事業は止まります」
沈黙。
セドリックの胸に、初めて明確な違和感が芽生える。
自分は王太子だ。
だが、決定権を完全に握ってはいない。
一方、グラシアス公爵邸。
レティシアは報告を受けながら静かに微笑んだ。
「運営委員会に常駐ですか」
「はい。実質的な監督です」
「合理的ですわね」
彼女は窓辺に立つ。
「王家の信用が揺らいだ以上、当然の帰結です」
「お嬢様は予想しておられましたか」
「ええ」
港湾は王国経済の生命線。
そこに外部資本が入れば、主導権は分散する。
「王家は拒否できませんでしたわ」
「なぜ」
「拒否すれば、事業が止まるからです」
選択肢を削られた結果の合意。
それは対等な契約ではない。
その頃、王都の商会では別の動きが起きていた。
「王家を通さず、事業単位で投資が可能だ」
「つまり、王家の保証が不要になる」
小さな変化。
だが大きな意味を持つ。
王家は“絶対の信用源”ではなくなった。
王家の承認がなくとも、資金は流れる。
それは、制度の中心がずれ始めた証だった。
夜、王宮。
セドリックは一人で帳簿を見つめていた。
数字は冷たい。
収支予測。
借入残高。
利率。
そして、グラシアス家からの融資欄に、空白がある。
「……戻らないのか」
自分が選んだ結果。
だがまだ、彼は完全には理解していない。
これは報復ではない。
制度の再配置だ。
一方、隣国使節館。
オルフェリウスは静かに書簡を読み終える。
「王家は承認したか」
「はい」
「当然だ」
彼は机に指を置く。
「彼女は動いていない」
「レティシア様ですか」
「ええ」
僅かな沈黙。
「彼女は“待つ”ことができる」
それは強者の余裕だ。
「焦っているのは王家だけだ」
その夜、王都の夜景は変わらない。
だが力の重心は確実に移動している。
王家はまだ頂点にいる。
しかしその足元には、外部資本と市場評価という新たな支柱が立った。
王家はもはや、単独では立てない。
レティシアは書斎で静かに言う。
「信用は、独占できませんわ」
誰かが握れば、誰かが分ける。
王家の“特権”は、契約によって分解され始めている。
最強のざまぁは、奪わない。
自ら手放させる。
そしてその過程で、相手は自分の足場を削っていることに気づかない。
主導権は、もう戻らない。
王国の中心は、ゆっくりと、しかし確実に移り始めていた。
港湾整備計画の調印式は、予定通り王宮の大広間で行われた。
だが空気は、かつての華やかさとは明らかに違っていた。
壇上に立つのはセドリック王太子。
その隣に並ぶのは王家の重臣たち。
そして向かいに、隣国代表として立つ男――オルフェリウス・カインハルト。
署名は王家の名で行われる。
だが誰もが理解している。
資金を握っているのは、王家ではない。
拍手が起きる。
形式上は成功だ。
港湾は止まらない。
軍需も当面は維持される。
しかしその裏で、主導権は静かに移動していた。
王宮執務室。
「なぜあの男が、あれほど強気なのだ」
セドリックは苛立ちを隠せない。
「殿下、資金を出す側です」
財務官は事実を述べる。
「契約条項の一部修正も要求されました」
「何だと」
「運営監督委員会への隣国代表の常駐参加です」
つまり、王家の事業に外部が関与する。
それは監視であり、制御だ。
「王家の事業だぞ!」
「殿下、資金を失えば事業は止まります」
沈黙。
セドリックの胸に、初めて明確な違和感が芽生える。
自分は王太子だ。
だが、決定権を完全に握ってはいない。
一方、グラシアス公爵邸。
レティシアは報告を受けながら静かに微笑んだ。
「運営委員会に常駐ですか」
「はい。実質的な監督です」
「合理的ですわね」
彼女は窓辺に立つ。
「王家の信用が揺らいだ以上、当然の帰結です」
「お嬢様は予想しておられましたか」
「ええ」
港湾は王国経済の生命線。
そこに外部資本が入れば、主導権は分散する。
「王家は拒否できませんでしたわ」
「なぜ」
「拒否すれば、事業が止まるからです」
選択肢を削られた結果の合意。
それは対等な契約ではない。
その頃、王都の商会では別の動きが起きていた。
「王家を通さず、事業単位で投資が可能だ」
「つまり、王家の保証が不要になる」
小さな変化。
だが大きな意味を持つ。
王家は“絶対の信用源”ではなくなった。
王家の承認がなくとも、資金は流れる。
それは、制度の中心がずれ始めた証だった。
夜、王宮。
セドリックは一人で帳簿を見つめていた。
数字は冷たい。
収支予測。
借入残高。
利率。
そして、グラシアス家からの融資欄に、空白がある。
「……戻らないのか」
自分が選んだ結果。
だがまだ、彼は完全には理解していない。
これは報復ではない。
制度の再配置だ。
一方、隣国使節館。
オルフェリウスは静かに書簡を読み終える。
「王家は承認したか」
「はい」
「当然だ」
彼は机に指を置く。
「彼女は動いていない」
「レティシア様ですか」
「ええ」
僅かな沈黙。
「彼女は“待つ”ことができる」
それは強者の余裕だ。
「焦っているのは王家だけだ」
その夜、王都の夜景は変わらない。
だが力の重心は確実に移動している。
王家はまだ頂点にいる。
しかしその足元には、外部資本と市場評価という新たな支柱が立った。
王家はもはや、単独では立てない。
レティシアは書斎で静かに言う。
「信用は、独占できませんわ」
誰かが握れば、誰かが分ける。
王家の“特権”は、契約によって分解され始めている。
最強のざまぁは、奪わない。
自ら手放させる。
そしてその過程で、相手は自分の足場を削っていることに気づかない。
主導権は、もう戻らない。
王国の中心は、ゆっくりと、しかし確実に移り始めていた。
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