婚約破棄は致しません。ただ、あなたを主語から外しただけです』

しおしお

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第十六話 勅命

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第十六話 勅命

 決定は、静かに下された。

 怒号も、涙も、剣も抜かれない。

 ただ一枚の文書。

 王家紋章の押された、簡潔な勅命。

『王位継承順位の再編を宣言する』

 廃嫡という言葉は、最後まで使われなかった。

 だが内容は明白だった。

 第一継承権――第二王子へ移行。
 セドリックは王族の一員としての地位を維持するが、継承順位は降格。

 王宮大広間。

 国王が読み上げる。

 声は揺れない。

 それが王の義務。

 重臣たちは膝を折る。

 第二王子が一歩前に出る。

 彼はまだ若い。
 だが“揺らぎ”の記録を持たない。

 それだけで十分だった。

 セドリックはその場に立っている。

 表情は崩れない。

 だが理解している。

 これは敗北ではない。

 “評価の確定”。

 自分は間違っていなかったかもしれない。

 だが王としては、選ばれなかった。

 それだけ。

 一方、王都の市場。

 発表から半刻。

 王家信用指数、即時上昇。

 格付け機関、条件付き表記の緩和検討を発表。

 数字は正直だ。

 安定が明確になった瞬間、安心が戻る。

 隣国使節館。

「決まりました」

 報告を受けたオルフェリウスは、ゆっくりと目を閉じる。

「合理的だ」

「市場は即座に反応しております」

「当然だ」

 彼は淡々と告げる。

「揺らぎが消えた」

 感情ではない。

 制度の帰結。

 同時刻、グラシアス公爵邸。

「発表されました」

 エルネストが静かに告げる。

 レティシアは紅茶を置く。

「そう」

「お嬢様は……」

「何もしておりませんわ」

 それは事実。

 彼女は廃嫡を求めなかった。

 煽らなかった。

 復縁を拒絶し、契約を守り、沈黙を貫いた。

 だが市場は覚えている。

 婚約破棄。

 私情判断。

 金融契約終了。

 格付け。

 比較。

 議題化。

 多数決。

 そして勅命。

 連鎖は止まらなかった。

 夜。

 セドリックは自室で一人、窓の外を見ていた。

 王都の灯りは変わらない。

 民は眠り、市場は安定し、国家は回る。

 自分が王にならなくとも。

「……そうか」

 初めて理解する。

 王とは、必要とされる存在。

 自分は正しかったかもしれない。

 だが必要とされなかった。

 それが全て。

 翌朝。

 第二王子が公式に後継者として紹介される。

 民は歓声を上げない。

 ただ静かに受け入れる。

 それが“安定”。

 最強のざまぁは、断罪ではない。

 泣き叫ばせることでもない。

 あなたがいなくても国家は回る、と証明すること。

 王太子という絶対は、比較され、議題化され、多数決にかけられ、
 そして勅命によって“再編”された。

 セドリックは王族であり続ける。

 だが王ではない。

 そしてその決定に、誰も怒らない。

 市場は静かに上昇し、国家は安定を取り戻した。

 レティシアは窓辺に立ち、遠く王宮を眺める。

「制度は正直ですわ」

 感情を持たない制度は、最も冷酷で、最も公平。

 そしてそれこそが、最強のざまぁだった。
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