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第十八話 空席
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第十八話 空席
王宮の大広間は、いつもと変わらぬ荘厳さを保っていた。
天井のシャンデリアは揺れず、玉座の背後の紋章も変わらない。
だが、その玉座の隣に設けられていた“王太子席”は、配置が変わっていた。
中央から、わずかに後方へ。
ほんの数歩の差。
だが王宮において、その数歩は絶対的な距離だった。
新継承者――第二王子が中央に立つ。
重臣が報告を上げ、外交官が進み出る。
議論は滞りなく進む。
かつてはセドリックが座っていた席は、今や形式的な位置。
空席ではない。
だが中心でもない。
会議後、重臣の一人が静かに言う。
「体制は安定しております」
「市場も好調」
「対外評価も改善」
誰も旧王太子の名を出さない。
必要がないからだ。
同時刻、王都の証券取引所。
王家関連銘柄は安定圏内を維持。
外国資本の流入も緩やかに回復。
継承不安の項目は、報告書から削除される。
削除。
それは完全な終了を意味する。
隣国使節館。
「王家の再安定が確定しました」
報告を受けたオルフェリウスは頷く。
「良い判断だった」
「旧王太子殿下の動きは?」
「目立った行動はなし」
「賢明だ」
だが続ける。
「だが歴史は前へ進む」
止まらない。
一方、グラシアス公爵邸。
「王家安定指数、基準値回復」
エルネストの報告に、レティシアは静かに微笑む。
「市場は正直ですわ」
「お嬢様は、これで……」
「終わりです」
彼女は淡々と答える。
「私は契約を守りました。それだけです」
その声に感情はない。
怒りも歓喜もない。
ただ、事実。
夜。
セドリックはかつての執務室を訪れた。
すでに書類は整理され、別の名が刻まれている。
新継承者の名。
自分の痕跡は、ほとんどない。
机の引き出しを開ける。
そこには、婚約破棄の公式写し。
金融契約終了通知。
格付け報告。
多数決の記録。
勅命。
連鎖の記録。
どれも正規の文書。
誰も捏造していない。
誰も嘘をついていない。
ただ、事実が積み重なった。
「……そうか」
自分は失脚したのではない。
空席になったのだ。
国家にとって、必要な中心は別にある。
だから席が移動した。
それだけ。
王宮の庭園に立つ。
夜風は穏やかだ。
民は眠り、市場は安定し、国家は前へ進む。
自分の不在を、誰も痛がらない。
最強のざまぁは、罰を与えない。
泣かせない。
叫ばせない。
ただ、あなたの席を後ろへずらす。
そして世界が問題なく回ることを証明する。
翌朝。
第二王子が王宮前で演説を行う。
内容は穏やかだ。
「安定と継続を」
民は静かに拍手する。
熱狂はない。
だが安心がある。
新聞は大きく報じる。
旧王太子の名は、脚注。
形式的な敬称のみ。
レティシアは窓辺から王宮を見つめる。
「空席は、すぐに埋まりますわ」
制度は空白を嫌う。
揺らぎがあれば修正する。
それが国家。
そしてセドリックの席は、すでに埋まった。
怒りも憎しみもない。
ただ、必要性の再配置。
それが完成形。
最強のざまぁは、排除ではない。
あなたが中心でなくなること。
そして誰も困らないこと。
王宮の空席は、もう存在しない。
ただ、配置が変わっただけ。
だがその数歩の距離は、二度と縮まることはなかった。
王宮の大広間は、いつもと変わらぬ荘厳さを保っていた。
天井のシャンデリアは揺れず、玉座の背後の紋章も変わらない。
だが、その玉座の隣に設けられていた“王太子席”は、配置が変わっていた。
中央から、わずかに後方へ。
ほんの数歩の差。
だが王宮において、その数歩は絶対的な距離だった。
新継承者――第二王子が中央に立つ。
重臣が報告を上げ、外交官が進み出る。
議論は滞りなく進む。
かつてはセドリックが座っていた席は、今や形式的な位置。
空席ではない。
だが中心でもない。
会議後、重臣の一人が静かに言う。
「体制は安定しております」
「市場も好調」
「対外評価も改善」
誰も旧王太子の名を出さない。
必要がないからだ。
同時刻、王都の証券取引所。
王家関連銘柄は安定圏内を維持。
外国資本の流入も緩やかに回復。
継承不安の項目は、報告書から削除される。
削除。
それは完全な終了を意味する。
隣国使節館。
「王家の再安定が確定しました」
報告を受けたオルフェリウスは頷く。
「良い判断だった」
「旧王太子殿下の動きは?」
「目立った行動はなし」
「賢明だ」
だが続ける。
「だが歴史は前へ進む」
止まらない。
一方、グラシアス公爵邸。
「王家安定指数、基準値回復」
エルネストの報告に、レティシアは静かに微笑む。
「市場は正直ですわ」
「お嬢様は、これで……」
「終わりです」
彼女は淡々と答える。
「私は契約を守りました。それだけです」
その声に感情はない。
怒りも歓喜もない。
ただ、事実。
夜。
セドリックはかつての執務室を訪れた。
すでに書類は整理され、別の名が刻まれている。
新継承者の名。
自分の痕跡は、ほとんどない。
机の引き出しを開ける。
そこには、婚約破棄の公式写し。
金融契約終了通知。
格付け報告。
多数決の記録。
勅命。
連鎖の記録。
どれも正規の文書。
誰も捏造していない。
誰も嘘をついていない。
ただ、事実が積み重なった。
「……そうか」
自分は失脚したのではない。
空席になったのだ。
国家にとって、必要な中心は別にある。
だから席が移動した。
それだけ。
王宮の庭園に立つ。
夜風は穏やかだ。
民は眠り、市場は安定し、国家は前へ進む。
自分の不在を、誰も痛がらない。
最強のざまぁは、罰を与えない。
泣かせない。
叫ばせない。
ただ、あなたの席を後ろへずらす。
そして世界が問題なく回ることを証明する。
翌朝。
第二王子が王宮前で演説を行う。
内容は穏やかだ。
「安定と継続を」
民は静かに拍手する。
熱狂はない。
だが安心がある。
新聞は大きく報じる。
旧王太子の名は、脚注。
形式的な敬称のみ。
レティシアは窓辺から王宮を見つめる。
「空席は、すぐに埋まりますわ」
制度は空白を嫌う。
揺らぎがあれば修正する。
それが国家。
そしてセドリックの席は、すでに埋まった。
怒りも憎しみもない。
ただ、必要性の再配置。
それが完成形。
最強のざまぁは、排除ではない。
あなたが中心でなくなること。
そして誰も困らないこと。
王宮の空席は、もう存在しない。
ただ、配置が変わっただけ。
だがその数歩の距離は、二度と縮まることはなかった。
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