婚約破棄は致しません。ただ、あなたを主語から外しただけです』

しおしお

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第二十五話 観客席

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第二十五話 観客席

 王都は祝賀の空気に包まれていた。

 黒字達成を受けて、王宮前広場では小規模ながら祝賀式典が開かれる。
 第二王子――正式な継承者が民の前に立ち、短く、簡潔に言葉を述べる。

「皆の努力の結果です」

 歓声は穏やかだ。
 熱狂ではない。

 安心の拍手。

 それが今の王都の色だった。

 王族席に並ぶ椅子の一つに、セドリックは座っていた。

 中央ではない。

 端でもない。

 だが観客席の位置。

 演壇の言葉を聞き、拍手をし、祝福する立場。

 自分が立つはずだった場所を、遠くから見る。

 式典後、新聞は大きく報じる。

『継承者殿下、安定と成長を宣言』

 写真は中央の姿。

 王族列は背景。

 セドリックの顔は写っている。

 だが焦点ではない。

 王都の商会。

「黒字と長期安定は強い」

「投資枠を拡大する」

「第二王子体制は盤石だ」

 議論は未来へ向かう。

 過去の再編に触れる者はいない。

 市場は物語を更新した。

 隣国使節館。

「国内世論も安定」

 報告を受けたオルフェリウスは静かに答える。

「完成だ」

「旧殿下の存在は」

「象徴的価値のみ」

 つまり、政治的影響なし。

 一方、グラシアス公爵邸。

「祝賀式典、成功でした」

 エルネストが告げる。

 レティシアは静かに頷く。

「ええ」

「お嬢様は出席なさらなくて」

「必要ありませんわ」

 彼女は微笑む。

「物語はすでに完成しておりますもの」

 揺らぎは修正された。

 比較は終わった。

 評価は固定された。

 そして成功が始まった。

 夜。

 セドリックは自室で式典の報道を見つめる。

 怒りはない。

 羨望も薄い。

 ただ、理解がある。

 自分は今、観客。

 国家という舞台の上で、主役は別の名。

 自分は拍手を送る側。

 それが現実。

 かつて王太子だった男は、今や安定の証明に必要のない存在。

 それでも排除はされない。

 席は用意されている。

 だが中央ではない。

 最強のざまぁは、辱めではない。

 あなたを観客席へ移すこと。

 舞台に立つ資格を奪うのではなく、
 舞台があなたを必要としなくなること。

 翌朝。

 第二王子の外交訪問が発表される。

 海外メディアも好意的。

 王家信用指数は高位安定。

 セドリックの慈善活動も続く。

 だがそれは国家運営と無関係。

 レティシアは書斎で静かに帳簿を閉じる。

「観客は、舞台を動かしません」

 それが役割の確定。

 王都の夜は穏やかだ。

 祝賀の灯りが消え、
 新しい日常が始まり、
 舞台は回り続ける。

 セドリックは窓辺から遠く王宮を見つめる。

 中央は明るい。

 自分の位置は影の中。

 だが影は排除ではない。

 ただ、役割の終わり。

 そしてそれこそが、静かで完璧なざまぁだった。
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