婚約破棄は致しません。ただ、あなたを主語から外しただけです』

しおしお

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第三十一話 肖像の位置

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第三十一話 肖像の位置

 王宮大回廊の壁には、歴代の王太子たちの肖像画が並んでいる。

 壮麗な額縁。
 豪奢な衣装。
 中央に飾られた現王と、その隣に最新の継承者。

 そしてその少し手前――
 かつての王太子、セドリックの肖像。

 撤去はされていない。

 破られてもいない。

 だが位置が変わっていた。

 以前は中央列。
 今は側壁。

 照明は柔らかい。
 目立ちはしない。

 誰かが命じたわけではない。
 展示構成の「再整理」。

「年代順に並べ直しました」

 学芸官が報告する。

 自然な措置。

 継承再編後の順列。

 中央は現行体制。

 側壁は過去。

 王宮を訪れる貴族や外国使節は、その並びを当然のように受け入れる。

「安定しているな」

「ええ。見ていて安心だ」

 誰も違和感を覚えない。

 肖像は残っている。

 だが物語の中心からは外れている。

 一方、セドリックは王宮に呼ばれていた。

 慈善事業の報告。

 回廊を歩く。

 足が止まる。

 自分の肖像の前。

 以前と同じ表情。

 誇りと理想に満ちた視線。

 だが立ち位置が違う。

 彼はしばらく見つめる。

 怒りは湧かない。

 ただ理解。

 歴史は、位置で語る。

 中央にあるか、側壁にあるか。

 それだけで意味が変わる。

 隣国使節館。

「肖像の配置変更、確認」

 報告に、オルフェリウスは短く答える。

「象徴の再構成だ」

「侮辱ではありません」

「侮辱は不要だ」

 制度は感情を使わない。

 位置を変えるだけで十分。

 グラシアス公爵邸。

「肖像の位置が変わりました」

 エルネストが告げる。

 レティシアは静かに微笑む。

「当然ですわ」

「撤去ではないのですね」

「消す必要はありませんもの」

 彼女は淡々と言う。

「残し、位置を変える。それが最も強い」

 消せば反発が生まれる。

 残せば静かに固定される。

 夜。

 セドリックは回廊を去る前、もう一度振り返る。

 中央に飾られた現継承者の肖像。

 光が強く当たっている。

 民が安心して見上げられる顔。

 自分は側壁。

 だが確かに存在している。

 最強のざまぁは、破壊ではない。

 あなたの肖像を残し、
 ただ中央から外すこと。

 そしてそれが自然に見えること。

 王宮の灯りが静かに揺れる。

 国家は回り、象徴は再配置され、
 物語の中心は固定された。

 セドリックは歩き出す。

 側壁の肖像は、静かにそこに在り続ける。

 だが中央には戻らない。

 それが最終配置。

 冷静で、合理的で、揺るがないざまぁだった。
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