婚約破棄されるはずが、強制力のせいで王子に溺愛されました!? ――原作者を呪ったら、強制力がサボり始めました――

しおしお

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2-3 明日の婚約破棄に備えて安心して帰宅

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2-3 明日の婚約破棄に備えて安心して帰宅

 舞踏会が終わる頃、私は誰よりも軽い足取りで宮廷を後にした。

 それは決して、貴族令嬢が浮かれて帰る時のふわふわした足取りではない。
 もっとこう……
 “義務を終えた社畜がコンビニに寄って帰る時の足取り”に近い。

(よし……今日は完璧だった……!
 王子とアリシアのフラグ、立ちまくってたし……
 原作補正も万全……!
 明日、第二夜で婚約破棄宣言が行われたら……
 私は晴れてモブの人生へ一直線!!)

 馬車に乗って席に座ると、ほっとした肩の力が一気に抜けた。

 侍女のエリザが、私の対面にちょこんと座り、微笑む。

「お嬢様、本日の舞踏会……とても控えめで、素晴らしい立ち振る舞いでございました」

「……控えめが褒め言葉なの、いまは?」

「はい。まったく目立っておりませんでした」

「よっしゃぁぁぁあ!!」

 私は拳を握った。
 侍女に褒められてここまで喜ぶ令嬢も珍しいだろう。

(目立たない、空気、背景!
 これぞ私にとって最高の褒め言葉!!)

 馬車の窓から見える夜空の星たちが、
 どことなく祝福してくれているようにすら見えた。

 ――いや、見えてくれなきゃ困る。
 明日で私は解放されるのだ。
 転生特典も何もない世界で、王子という爆弾から解放される日が
 ようやく訪れるのだ。

 エリザが、少し控えめな声で問いかけてくる。

「……お嬢様。王子殿下とアリシア様、とてもお似合いでしたわね」

「そうでしょう!? あれ絶対惹かれてたわよね!?
 ね!? ねえエリザ、あれ恋の始まりよね!?」

「ええ、殿下のお顔が……いつもより二割ほど柔らかかったように見えます」

「二割!! 充分!! 恋愛ルート突入に必要な数値!!」

 原作では、王子はアリシアと出会った日から急速に惹かれ始める。
 それは今日と同じ、舞踏会の第一夜だ。

(よし……何一つ狂ってない……
 強制力様、今日だけは仕事したっぽい……)

 私は胸を撫でおろす。

 ――だが、この“安心”が後に致命的になるとは
 この時はまだ知る由もなかった。

     ◆

 屋敷に戻ると、使用人たちが深々と頭を下げる。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま」

 私は正直、この家族の家に“帰ってきた感”はあまりない。
 実家は厳格で、親は冷たく、私は婚約者としての義務のためだけに
 この家に生かされているようなものだ。

(でも、明日で終わり。
 婚約破棄されたら、私は自由!!
 少なくとも王子の顔を見なくていい!!
 夜イベントなんて二度と起きない!)

 心が軽い。
 軽すぎて逆に怖いくらいだ。

 寝室に入り、煌びやかなドレスから解放された瞬間、
 私はベッドに倒れ込んだ。

「ふぅ……今日は……本当によく頑張った……!」

 自分で自分を褒めたい。
 王子との会話も極力避けた。
 アリシアルートを邪魔しないよう、
 空気のように振る舞った。

 あとは明日の第二夜で、
 王子が堂々と私との婚約破棄を宣言してくれる。
 原作どおりであれば、必ずそうなる。

(それにしても……アリシア、すごかったなぁ……
 ヒロインオーラが桁違いだったし……
 王子の目が完全にハートになってたし……
 あれは、もう……絶対原作通りに進むわよね……)

 私の頬が自然と緩んだ。
 久しぶりに、心から“安堵”という感情を味わっていた。

(これで……明日。
 私はついにモブ兼エキストラの座に戻れる……
 それなら、もう……何も怖くない)

 そう思いながら、私はまぶたを閉じる。

 その瞬間、
 遠くで【何か】がカチリと音を立てたような気がした。

(……ん?)

 気のせいだ。
 きっと気のせい。

 だが、私は気づいていなかった。

 “運命の強制力”が、
 私をモブへ戻す気など
 これっぽっちもなかったことを。

 むしろ――

 私をメインルートに押し上げようと、
 今まさに牙をむき始めていた。

     ◆

(まあいいや……明日の婚約破棄イベント、楽しみ……)

 浮かれたまま眠りについた私は、
 翌日地獄を見る。

 そう、この時点では一ミリも知らなかったのだ。


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