婚約破棄されるはずが、強制力のせいで王子に溺愛されました!? ――原作者を呪ったら、強制力がサボり始めました――

しおしお

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2-4 だが“強制力”が不穏にささやく

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2-4 だが“強制力”が不穏にささやく

 翌朝――。

 私は久しぶりに晴れやかな気分で目覚めた。
 いつもなら胃が重く、王子との婚約イベントを思い出しては鬱屈していたのに、
 今日だけは違う。

(よし……今日は運命の“第二夜”。
 王子が私との婚約破棄を宣言する日!
 原作どおりなら、私はこの夜を境に背景へフェードアウト。
 もう二度と王子の顔なんて見ずに!
 静かで平穏な人生を!!)

 ベッドの上でガッツポーズを決める。
 侍女エリザが呆れたように笑った。

「お嬢様、今朝はずいぶんご機嫌で」

「ええ、今日は人生で一番大切な日だから!」

「……婚約破棄される日が、ですか?」

「そうよ!!」

 私の明るさに、エリザは微妙に引いていた。
 でもいい。
 今日だけは許してほしい。

     ◆

 昼過ぎ。
 私は屋敷の庭で紅茶を楽しんでいた。

(はぁ……この解放感……!
 これが“人生の勝利”ってやつね……!)

 と、その時だった。

 ――ふと、視界の端に何か違和感が走った。

(……ん?)

 私の隣に置かれたティーカップが、
 わずかに揺れた気がした。

 風……にしては、揺れすぎ?

(気のせい……よね?
 まさか、原作強制力なんて、そんな物理的に存在を主張してこないわよね?)

 そう思って深く呼吸を整えた。

 だが、落ち着こうとした矢先――

「ミリア嬢」

 背後から声がした。

(ッ!?)

 思わず振り向くと、そこには――

 王子がいた。

「ひ、ひ、ひ、殿下!?
 ど、どうしてこんなところに……!?」

 思わず椅子ごと後ろに倒れそうになった。

(なんで!?
 原作では今日、アリシアのことで頭いっぱいで、
 私のことなんて無視だったはずでしょ!?
 なのになんで庭先に……!?)

 王子は涼やかな微笑みを浮かべたまま告げる。

「君に……挨拶をしておこうと思って」

「挨拶……ですか?」

「今夜の舞踏会、楽しみにしている。
 君との婚約について、皆の前で話すべきことがあるからね」

(いやぁぁぁあああ!!
 “話すべきこと”って、婚約破棄のことよね!?
 でもそれを私に言いに来られたら逆に怖いんだけど!
 原作にそんなシーンなかったのよ!?)

 混乱する私をよそに、王子は満足そうに微笑んだ。

 その瞬間――
 私の中でひんやりとしたものが、背中から首筋へと這い上がってきた。

 まるで“何か”が私の耳元で囁いたような――

 カチ、カチ、カチ……
 違う、違う、違う……
 本来のルートはそっちじゃない……
 戻れ、戻れ、戻れ……

(ッ……!?)

 思わず自分の肩を抱きしめた。

(い、いや……違う……
 これは気のせい……
 だって、強制力にそんなホラーみたいな自我ないし……
 そう、私が緊張してるだけ……)

 そう言い聞かせても、胸の奥がざわついていた。

 王子はふと表情を改め、私の手を取った。

「ミリア」

(ひぇっ)

「どうか今夜も、俺の隣にいてくれ」

「え、えぇ……それは……婚約破棄される直前の、最後の務めとして……?」

「……ふむ?」

 王子の目が、ほんの一瞬だけ揺れた気がした。

 だがすぐに笑顔に戻る。

「今夜のことは、楽しみにしていてくれ」

 そう言い残し、王子は美しい所作で私に礼をして去っていった。

     ◆

 王子がいなくなった庭に、
 ぽつんと残された私は、深いため息をついた。

「な、なんだったの……今の……」

 そして、ふと気づく。

(……視線?)

 確かに、王子はアリシアと踊った後、
 何度か私の方をじっと見つめていた気がする。

 だが私は“ヒロインと踊れて嬉しいのね!”と勝手に解釈していた。

(まさか……まさかね……
 原作の強制力、ちゃんと働いてるんでしょうね……?)

 だが胸の奥のざわめきは消えない。

(やばい……なんか嫌な予感しかしない……
 でも、大丈夫……!
 強制力はストーリーを正しい方向に戻すための力!
 今日は婚約破棄の日!!
 大丈夫……大丈夫よね……?)

 そう自分に言い聞かせるように紅茶を口に運んだ。

 ――だが、味がまったくしなかった。

(大丈夫……よね……?)

 胸に渦巻く不安だけが、
 静かに肥大化していく。

 まるで、見えない何かがクスクスと笑っているように。


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