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6-3 国王の一言で刺される
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6-3 国王の一言で刺される
王宮で第一王子とアリシアの婚約が正式に発表されたその日の夕方。
クロフォード邸では、ミリアがベッドに倒れこんでいた。
「……終わった……私の役目……本当に終わった……!」
全身の力が抜け、魂が抜けかけた笑顔がこぼれる。
これで王子ルートから完全に解放された。
もう「ピーが最高」などと言われることもない。
大勢の前で羞恥プレイされることもない。
強制力が暴走して夜イベントに突入することもない。
(私は……いま……自由なんだ……)
ミリアは感動の涙を浮かべた。
——そのころ王宮では。
第一王子の新たな婚約成立を祝い、国王と側近たちが集まっていた。
新婚約者となったアリシアと、フィリオン王子も呼ばれている。
「では、殿下とアリシア嬢の婚約は正式に認めよう。
余としても、たいへん喜ばしいことだ」
国王は満足げに頷いた。
アリシアは丁寧にドレスの裾を持ち、優雅に礼をする。
「ありがたきお言葉、国王陛下」
王子フィリオンも隣で深く礼をした。
「ありがとうございます、父上」
国王は目を細め、二人を見渡した。
「うむ……。アリシア嬢は非常に優秀だ。
王妃としても、王家にとっても利益が大きい」
側近たちも一斉に頷く。
「アリシア様は学識・礼儀・家柄、すべてを備えておられます」
「慈愛もあり、民からの人気も高い。
なんと理想的な婚約者でしょう」
国王は満足げに笑った。
「まったく、その通りだ」
しかし次の瞬間、彼はふっと眉を寄せ、言ってしまったのだ。
「それにしても……」
周囲が注目する。
「なぜ、お前は最初、あんな“空気みたいな娘”と婚約したのだ?」
フィリオン王子の表情が固まった。
周囲の空気も凍りついた。
——そのころクロフォード邸。
ミリアはベッドでくしゃみをした。
「へっ……へくしっ!!
……誰か噂してる? いや誰がするのよ……?」
しかし、その噂は今まさに王宮で発生していた。
側近たちがひそひそ声で囁く。
「空気……というか……存在感が薄かったですね」
「正直、なぜ殿下はあの娘を選んだのか、貴族たちの間でも議論されていました」
「悪い娘ではないが……とにかく毒にも薬にもならんタイプで」
「まるでモブのような……」
フィリオン王子は青ざめた。
さすがにこれは聞いていられない。
「そ、そこまでは……っ」
国王は手を振って続ける。
「まあ良い、過去の話だ。
とにかくアリシア嬢のほうが、何倍も価値がある。
今後は王家のために励めよ」
「は、はい……」
アリシアは苦笑いを浮かべた。
「陛下……
前婚約者の方を悪く言うのは……あまり……」
「うむ? ああ、すまぬすまぬ。だが事実だろう?」
アリシアは言葉に詰まった。
フィリオンは内心で叫びたい衝動を必死に抑えた。
(ミリア……こんな形で傷ついていないだろうな……!?
いや、彼女はもう私の婚約者ではないし……
しかし……あれは聞いてほしくない……!)
——そしてクロフォード邸。
ミリアは寝返りをうつ。
「ふふ……私……空気……最高の称号よ……っ」
頬に手を当て、恍惚の表情で天井を見つめる。
(だって空気なら事件もフラグも起きない!
空気なら誰にも見つからない!
空気なら……恋愛ルートから脱出成功よ!!)
そして満足げに息を吐く。
「ありがとう……国王陛下……
あなたが私を“空気”と認めてくださったおかげで……
私は堂々と背景に戻れるのですわ……!」
彼女は布団に潜り込み、もぞもぞと丸くなる。
(これで……本当に……静かな人生が……)
——だが、この平穏はあと数時間しか続かない。
この世は残酷である。
とくに“強制力”という名のシステムが存在するこの世界では。
ミリアの運命は、まだ終わっていなかった。
王宮で第一王子とアリシアの婚約が正式に発表されたその日の夕方。
クロフォード邸では、ミリアがベッドに倒れこんでいた。
「……終わった……私の役目……本当に終わった……!」
全身の力が抜け、魂が抜けかけた笑顔がこぼれる。
これで王子ルートから完全に解放された。
もう「ピーが最高」などと言われることもない。
大勢の前で羞恥プレイされることもない。
強制力が暴走して夜イベントに突入することもない。
(私は……いま……自由なんだ……)
ミリアは感動の涙を浮かべた。
——そのころ王宮では。
第一王子の新たな婚約成立を祝い、国王と側近たちが集まっていた。
新婚約者となったアリシアと、フィリオン王子も呼ばれている。
「では、殿下とアリシア嬢の婚約は正式に認めよう。
余としても、たいへん喜ばしいことだ」
国王は満足げに頷いた。
アリシアは丁寧にドレスの裾を持ち、優雅に礼をする。
「ありがたきお言葉、国王陛下」
王子フィリオンも隣で深く礼をした。
「ありがとうございます、父上」
国王は目を細め、二人を見渡した。
「うむ……。アリシア嬢は非常に優秀だ。
王妃としても、王家にとっても利益が大きい」
側近たちも一斉に頷く。
「アリシア様は学識・礼儀・家柄、すべてを備えておられます」
「慈愛もあり、民からの人気も高い。
なんと理想的な婚約者でしょう」
国王は満足げに笑った。
「まったく、その通りだ」
しかし次の瞬間、彼はふっと眉を寄せ、言ってしまったのだ。
「それにしても……」
周囲が注目する。
「なぜ、お前は最初、あんな“空気みたいな娘”と婚約したのだ?」
フィリオン王子の表情が固まった。
周囲の空気も凍りついた。
——そのころクロフォード邸。
ミリアはベッドでくしゃみをした。
「へっ……へくしっ!!
……誰か噂してる? いや誰がするのよ……?」
しかし、その噂は今まさに王宮で発生していた。
側近たちがひそひそ声で囁く。
「空気……というか……存在感が薄かったですね」
「正直、なぜ殿下はあの娘を選んだのか、貴族たちの間でも議論されていました」
「悪い娘ではないが……とにかく毒にも薬にもならんタイプで」
「まるでモブのような……」
フィリオン王子は青ざめた。
さすがにこれは聞いていられない。
「そ、そこまでは……っ」
国王は手を振って続ける。
「まあ良い、過去の話だ。
とにかくアリシア嬢のほうが、何倍も価値がある。
今後は王家のために励めよ」
「は、はい……」
アリシアは苦笑いを浮かべた。
「陛下……
前婚約者の方を悪く言うのは……あまり……」
「うむ? ああ、すまぬすまぬ。だが事実だろう?」
アリシアは言葉に詰まった。
フィリオンは内心で叫びたい衝動を必死に抑えた。
(ミリア……こんな形で傷ついていないだろうな……!?
いや、彼女はもう私の婚約者ではないし……
しかし……あれは聞いてほしくない……!)
——そしてクロフォード邸。
ミリアは寝返りをうつ。
「ふふ……私……空気……最高の称号よ……っ」
頬に手を当て、恍惚の表情で天井を見つめる。
(だって空気なら事件もフラグも起きない!
空気なら誰にも見つからない!
空気なら……恋愛ルートから脱出成功よ!!)
そして満足げに息を吐く。
「ありがとう……国王陛下……
あなたが私を“空気”と認めてくださったおかげで……
私は堂々と背景に戻れるのですわ……!」
彼女は布団に潜り込み、もぞもぞと丸くなる。
(これで……本当に……静かな人生が……)
——だが、この平穏はあと数時間しか続かない。
この世は残酷である。
とくに“強制力”という名のシステムが存在するこの世界では。
ミリアの運命は、まだ終わっていなかった。
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