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1 侯爵家の姉妹
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1 侯爵家の姉妹
春まだ浅い午後だった。
ランベール侯爵家の大応接間には、磨き上げられた床と重たい絨毯、南から取り寄せた花を活けた大きな壺、そして侯爵家らしい威厳が整えられていた。窓辺から射し込む淡い光はやわらかいのに、その部屋に満ちる空気だけは不思議と冷えている。
フィオレッタ・ランベールは、背筋を伸ばしてソファに腰掛けていた。
侯爵家の長女として、取り乱すことは許されない。たとえ向かいに座る義母が、いつものようにやさしげな微笑みの奥で何かを測っていても、その隣で義妹が可憐な面差しを伏せ、今にも涙をこぼしそうな顔をしていても、彼女は表情を崩さなかった。
正面には父、ランベール侯爵がいる。
重々しく咳払いをひとつしてから、父は口を開いた。
「本日は、大切な話がある」
侯爵家の当主としての声音だった。だが、フィオレッタはその声の底に、わずかな落ち着きのなさを聞き取っていた。
「お前たち姉妹の婚約についてだ」
来たわね、とフィオレッタは胸の内で静かに思った。
自分の婚約者は、ロシュフォール公爵家嫡男ギルベルト・ド・ロシュフォール。
名門中の名門であり、この国でも屈指の大貴族。家格でいえばランベール侯爵家より上であり、その婚約は侯爵家にとっても大きな意味を持つ。もっとも、それはフィオレッタにとって単なる家同士の取り決めではなかった。幼い頃から何度も顔を合わせ、未来の夫となる相手として振る舞ってきた年月がある。
愛と呼ぶには冷えた関係だったかもしれない。けれど少なくとも、彼女はそれを自分の責務として受け止めてきた。
一方の義妹カトリーヌには、最近になって新たな縁談がまとまったばかりだった。
相手は、他国アルディシア公国の公爵当主、フェリクス・アルディシア。
若くして当主の座にあり、政治、軍務、経済、いずれにも優れた傑物。しかも容姿まで優れているとあって、王都でもたびたび噂に上る人物だ。国をまたぐ婚姻である以上、容易な話ではない。それでも成立したのは、アルディシア公国側がこの国との関係強化を望み、こちらもまた強い結びつきを必要としていたからだ。
普通に考えれば、義妹にとってもこれ以上ない良縁のはずだった。
けれど、カトリーヌはその話が持ち上がってからというもの、明らかに元気を失っていた。
最初はただの不安だと思っていた。見知らぬ国へ嫁ぐのだ。十七歳の娘が怯えるのは当然だろう、と。だからフィオレッタも、最初のうちは姉として多少の気遣いを見せた。異国の言葉の勉強を勧め、気候や習慣について一緒に調べもした。
だが、義妹の怯えは日を追うごとに妙な色を帯びていった。
そして今、とうとうこの場が設けられている。
「フィオレッタ」
父に名を呼ばれ、彼女は顔を上げた。
「はい、お父様」
「お前は、ロシュフォール公爵家との婚約について、どのように考えている」
思いがけない聞き方に、フィオレッタはほんの少しだけ目を瞬かせた。
「どのように、とは」
「お前にとって望ましい縁談か、ということだ」
父がそんなことを尋ねるのは珍しかった。
フィオレッタは慎重に答える。
「侯爵家の娘として、ふさわしい縁談だと考えております。ロシュフォール公爵家は由緒正しく、ギルベルト様もまた高い身分におわす方です。私に異論はございません」
父は短くうなずいた。
その横で、義母がやわらかな声を差し挟む。
「まあ、フィオレッタさんは本当に立派ね。いつもそうして、ご自分の感情より家を優先なさるのですもの」
褒め言葉のようでいて、どこか棘がある。昔からそうだった。義母は露骨にフィオレッタを傷つけるような真似はしない。けれど、言葉の端にいつも「冷たい」「可愛げがない」という印象をにじませる。
父の前でも、使用人たちの前でも、社交の場でも。
そのたびに、泣きたいのはこちらだとフィオレッタは思ってきた。
「カトリーヌ」
今度は父が義妹を見た。
「お前はどうだ。アルディシア公爵との婚約について」
カトリーヌの肩がびくりと揺れた。ふわりと波打つ淡い金髪が、か細い首筋に落ちる。透けるように白い肌、守ってやりたくなるような大きな瞳。義妹は小さく唇を震わせて、うつむいたまま答えた。
「……こわい、ですわ」
囁くような声だった。
「知らない国へ行くのが、こわいのです……。言葉も習慣も違って、近くに家族もいなくて、もし何か粗相をしてしまったらと……思うだけで……」
そこで声を詰まらせる。
義母がすかさず娘の肩を抱いた。
「無理もありませんわ。まだ子供のようなところのある子ですもの。異国へ嫁ぐなど、あまりにも酷です」
フィオレッタは黙って二人を見ていた。
この流れ自体は、予想していた。
けれど問題はこの先だ。
父は眉を寄せている。情に流されやすい人ではないが、カトリーヌの涙には昔から弱かった。後妻に似た、守ってやりたくなるような弱々しさを、この人は「女らしさ」だと思っている。
「しかし、婚約はすでに内々にまとまっている。今さら怖いでは済まぬ」
「ええ、もちろんですわ、お父様」
カトリーヌは顔を上げた。目元を潤ませながらも、その声だけは妙に澄んでいた。
「私も、家のために尽くさなければならないとわかっております。けれど……」
彼女はそこで、ためらうようにフィオレッタを見た。
「お姉様なら、きっと大丈夫ですわ」
応接間の空気が、わずかに変わる。
父も、義母も、使用人さえも息を呑んだ気配がした。
フィオレッタは表情を動かさないまま問い返す。
「どういう意味かしら、カトリーヌ」
義妹は、いかにも言いにくそうに唇を噛んだ。
「お姉様は、私なんかよりずっと立派でいらっしゃいます。語学もお得意ですし、礼儀作法も完璧で、どこの国へ行ってもきっと恥をかくことなどありません。フェリクス様のような格の高いお方の隣に立つのも、お姉様のほうがずっと……」
「カトリーヌ」
フィオレッタはぴしゃりとその名を呼んだ。
義妹はびくりと震えたふりをする。
「ま、まあ、フィオレッタさん。そんな怖い言い方をなさらなくても」
義母がたしなめるように言う。
その声音に、父の眉間の皺がさらに深まった。
フィオレッタはそこでようやく理解した。いや、理解したくなかったものを、はっきり認めた。
この話し合いは、義妹の慰めのために開かれたのではない。
最初から、こちらへ押しつけるために用意された場だ。
「まさか」
自分でも驚くほど冷えた声が出た。
「あなた、婚約を入れ替えたいとおっしゃっているの?」
カトリーヌの瞳から、ぽろりと涙が落ちた。
「私、そんな……、そんなつもりでは……」
「では、どういうつもり?」
「ただ、お姉様なら……」
「私なら何?」
カトリーヌは答えない。代わりに泣く。
泣けば許されると思っているのだろうか。
いや、違う。実際に許されてきたのだ、この子は。欲しいものがあれば涙を見せ、困っている顔をして、誰かに差し出させる。それが幼い頃は小さな飾りや席順程度のことだった。けれど今や、その「欲しいもの」は人の人生そのものになっている。
義母がフィオレッタを非難するように言う。
「あなたは、どうしてそう妹に厳しいのです。カトリーヌはただ怯えているだけではありませんか」
「怯えているからといって、人の婚約を望んでよい理由にはなりません」
「望んでなどおりませんわ!」
珍しくカトリーヌが声を荒げた。
すぐにまた顔を伏せる。泣き濡れた横顔が、いかにも傷ついた少女らしい。
「でも……でも、私は……ギルベルト様なら……」
そこで止まる。
フィオレッタは一瞬、喉の奥が凍るのを感じた。
ギルベルトなら。
その意味を、聞き違えるはずがない。
「カトリーヌ」
父の声は重かった。
「お前、まさかロシュフォール公子にそのようなことを」
義妹は答えなかった。
だが、その沈黙がすべてだった。
フィオレッタは、ゆっくりと息を吸った。
胸の奥に、焼けるような怒りがある。けれどここで感情を見せれば、きっと不利になる。ヒステリックな姉、怯える妹。誰もがそういう構図を好むからだ。
「お父様」
彼女は父だけを見て言った。
「確認いたします。まさかとは存じますが、ロシュフォール公爵家とアルディシア公国、双方の婚約を入れ替えることを、本当にお考えですか」
父はすぐには答えなかった。
それが、何よりの答えだった。
フィオレッタはかすかに目を伏せる。
数日前から、使用人たちの間に妙な噂があった。義妹付きの侍女がどこか浮き足立っていたこと。義母が父の書斎へ入る回数が増えていたこと。社交の帰りに、カトリーヌが頬を染めていたこと。
すべてが、ここへつながっていたのだ。
「……信じられませんわ」
小さく漏れた言葉は、怒りよりむしろ呆れに近かった。
「婚約とは、そんなふうに差し替えてよい飾りではありません。家同士の約束であり、相手方への礼儀でもございます。まして国をまたぐ縁談まで絡んでいるのです。それを妹が嫌がるからといって――」
「お姉様は、私に我慢しろとおっしゃるのですか?」
カトリーヌが涙声で言った。
「知らない国で、一人ぼっちで生きていけと?」
「それが侯爵家の娘として引き受けるべき責務なら、そうするしかないでしょう」
「まあ!」
義母が大げさに目を見開いた。
「やはりあなたは冷たい子ね。自分が平気だから、他人にも同じことを求めるのだわ」
「冷たいのではなく、筋を通しているだけです」
「その筋とやらで、人が壊れることもあるのですよ」
義母の声音は柔らかい。だが、その目は冷たい。
フィオレッタは一瞬、幼い頃を思い出した。
母が亡くなったあと、この屋敷へ入ってきた女。やさしく、慎ましく、物静かで、誰からも好かれる継母だった。少なくとも外からはそう見えた。
そしてその娘カトリーヌは、最初から愛らしかった。
泣けば庇われ、怯えれば慰められ、黙って微笑むだけで周囲が味方した。
対してフィオレッタは、侯爵家の長女として常に「きちんとしていること」を求められた。泣けばみっともない、怒れば品がない、弱音を吐けば長女失格。
だから我慢を覚えた。
それが間違いだったのかもしれない。
我慢できる者には、さらに重いものが載せられる。
「お父様」
フィオレッタはもう一度、父に向き直った。
「私は、ランベール侯爵家の娘として申し上げます。この件はあまりにも軽率です。ロシュフォール公爵家にも、アルディシア公国にも、礼を失します」
「それは、わかっている」
「ならば」
「だが」
父は言葉を切った。
重たい沈黙のあとで、苦々しく続ける。
「ロシュフォール家から、打診が来ている」
その瞬間、フィオレッタの指先がわずかに冷えた。
「……打診、ですって?」
「ギルベルト公子が、カトリーヌを望んでいる」
室内が、ひどく遠く感じられた。
やはり、と思う自分と、そんなはずはないと思いたい自分が胸の中でぶつかる。
ギルベルトは傲慢な男だ。自分の言葉が絶対だと思っているところがある。けれど少なくとも、ここまで愚かだとは思いたくなかった。
フィオレッタの沈黙をどう受け取ったのか、カトリーヌが震える声で言う。
「ち、違うのです……私から何か申し上げたわけではなくて……ギルベルト様が、私のことを哀れんでくださって……」
「哀れんで?」
フィオレッタは義妹を見た。
「何を哀れんだの」
「それは……」
「私が、あなたを虐げているとでも?」
義妹がはっとしたように顔を上げる。
その反応だけで十分だった。
義母が慌てて口を挟む。
「フィオレッタさん、落ち着きなさい。誰もそこまで言ってはおりません」
「ですが、いまの反応はそういうことでしょう」
フィオレッタはまっすぐカトリーヌを見る。
「あなた、何をお話ししたの? ギルベルト様に。私が冷たい姉だと? いつもあなたを押さえつけていると? あなたはかわいそうな妹で、私は愛のない婚約者だと?」
「わ、私は……」
「答えなさい、カトリーヌ」
初めて、はっきりと怒気が声ににじんだ。
義妹は泣き崩れる。
「だって、仕方がなかったのですもの……!」
その一言で、すべてが決まった。
フィオレッタは、ゆっくり目を閉じた。
もう弁解も、誤魔化しも必要なかった。カトリーヌは最初から、自分のために姉を悪者にするつもりだったのだ。
異国へ嫁ぐのが嫌だった。
だから姉の婚約者が欲しくなった。
そのために、姉の評判も婚約も平気で差し出した。
ただ、それだけのこと。
ずいぶん綺麗な顔で、ずいぶん醜いことをするものだわ、とフィオレッタは思った。
「本日のところは、もうよい」
父が疲れたように言った。
「最終的な話は、後日ロシュフォール家とも詰める。アルディシア公国側にも、どう伝えるか考えねばならぬ」
話し合いは、それで終わりだった。
終わったはずなのに、フィオレッタだけは何ひとつ終われない。
立ち上がったとき、義母がもっともらしく口にした。
「フィオレッタさん。あなたも長女なのですから、少しは妹を思いやりなさい」
フィオレッタは振り向かなかった。
これ以上ここにいれば、何を言うかわからなかったからだ。
長い廊下を歩き、自室へ戻る。扉が閉まった途端、彼女はようやく大きく息を吐いた。
室内には、いつもの静けさがある。
整えられた机、本棚、母の形見の小さな銀時計。どれも見慣れたものなのに、急に借り物のように思えた。
「お嬢様」
控えていた侍女のエマが心配そうに歩み寄る。
「お顔の色が……」
「大丈夫よ」
とっさにそう答えたものの、声が少しかすれた。
エマは幼い頃から仕えてくれている侍女で、フィオレッタが弱みを見せられる数少ない相手だ。彼女の前でだけは、完璧な侯爵令嬢でいなくてもいい。
けれど今は、まだ崩れたくなかった。
「少し一人にしてちょうだい」
「……かしこまりました。ですが、何かございましたらすぐにお呼びくださいませ」
侍女が下がると、部屋はいっそう静まり返る。
フィオレッタは窓辺へ歩み、庭を見下ろした。
手入れの行き届いた春の庭。まだ蕾の多い薔薇。噴水のきらめき。その向こうを、カトリーヌが義母に支えられながら歩いていくのが見えた。泣き顔を隠すように俯いている姿は、きっと誰の目にもか弱く映るだろう。
あれで勝ったつもりなのかしら。
そんな考えが浮かび、すぐに打ち消す。
まだ何も決まっていない。
そう、自分に言い聞かせる。
けれど父の口ぶりは、すでにかなり傾いていた。ギルベルトが望んでいる。カトリーヌが怯えている。ロシュフォール家との関係は大切。アルディシア公国にはどうにか説明を――。
そこに、フィオレッタ本人の意思が入る余地はどれほどあるのだろう。
拳を握る。
痛いほど強く握って、ようやく自分が震えていることに気づいた。
「……ひどい」
初めて漏れたのは、か細い声だった。
「ひどいわ……」
怒りでも悲しみでもない、もっと単純な傷だった。
自分の婚約が、自分の人生が、妹のわがままと父の都合で入れ替えられようとしている。しかもその理由が、「あなたなら耐えられるから」だなんて。
耐えられる者から、順に奪われていく。
それがこの家のやり方だった。
しばらくして、扉が控えめに叩かれた。
「お嬢様。ロシュフォール公爵家から使いの者がお見えです」
エマの声だった。
フィオレッタは顔を上げる。
「……何の用件かしら」
「ギルベルト様から、お手紙を」
胸の奥が、嫌な音を立てた。
まさか。
いや、まさかなのではない。むしろ当然だ。今日の話がここまで進んでいるのなら、当の本人が沈黙しているはずがない。
「持ってきて」
ほどなくして差し出された封筒は、見慣れたロシュフォール家の紋章入りだった。
受け取った瞬間、妙に指先が冷えた。
封を切る。
短い文面だった。
――君も、家のために最善を選ぶべきだ。
――いずれ理解するだろう。
――カトリーヌは私が守る。
それだけだった。
謝罪もない。説明もない。
ただ、自分が決めたことを当然のように押しつけてくる文面。
フィオレッタはしばらく紙を見つめていたが、やがて静かに畳み、机の上へ置いた。
「お嬢様……」
エマが息を詰める。
「もういいわ」
フィオレッタは、驚くほど穏やかな声で言った。
「よくわかったもの」
ギルベルト・ド・ロシュフォールは、最初からこういう男だったのだ。
自分が欲しいものを選び、不要になったものには理解を求めるだけ。こちらの気持ちなど考えもしない。かつてはそれを、貴族らしい冷静さだと自分に言い聞かせてきた。
でも違う。
あれはただの傲慢だったのだ。
そしてカトリーヌは、その傲慢さをうまくくすぐったのだろう。
守ってやりたい少女。
怯える可憐な娘。
冷たい姉に虐げられた、かわいそうな妹。
ああ、なんて都合のいい物語。
「お嬢様、お返事は……」
「出さなくていいわ」
フィオレッタは窓の外を見た。
庭では風が吹き、まだ固い薔薇の蕾がわずかに揺れている。
「今さら何を書いても、あの方はご自分に都合のよいようにしか受け取らないもの」
たぶん、これから奪われるのだろう。
婚約も。
立場も。
侯爵家の長女として積み上げてきたものも。
だが、それでも。
フィオレッタはまっすぐに立った。
泣くのはあとでいい。崩れるのもあとでいい。少なくとも今は、まだ。
「エマ」
「はい」
「明日から、アルディシア公国についての資料をもう一度集めてちょうだい」
侍女が目を見開く。
「お嬢様?」
「どう転んでも、備えておくべきでしょう。あの方たちは、もう私の都合など考えないのだから」
その声音に、エマは胸を詰まらせたようだった。
「……かしこまりました」
フィオレッタはそっと目を伏せる。
婚約者を奪われるかもしれない。
異国へ押しやられるかもしれない。
それでも、ただ泣いて奪われるままでいるつもりはなかった。
たとえこの家が、自分に「耐えられるほう」を押しつけるのだとしても。
その先でどう生きるかまでは、誰にも勝手に決めさせない。
春の光は柔らかいのに、胸の内にはまだ冷たいものが残っていた。
それでもフィオレッタは、ゆっくりと背筋を伸ばした。
彼女の人生が大きく狂わされるのは、もう目の前だった。
春まだ浅い午後だった。
ランベール侯爵家の大応接間には、磨き上げられた床と重たい絨毯、南から取り寄せた花を活けた大きな壺、そして侯爵家らしい威厳が整えられていた。窓辺から射し込む淡い光はやわらかいのに、その部屋に満ちる空気だけは不思議と冷えている。
フィオレッタ・ランベールは、背筋を伸ばしてソファに腰掛けていた。
侯爵家の長女として、取り乱すことは許されない。たとえ向かいに座る義母が、いつものようにやさしげな微笑みの奥で何かを測っていても、その隣で義妹が可憐な面差しを伏せ、今にも涙をこぼしそうな顔をしていても、彼女は表情を崩さなかった。
正面には父、ランベール侯爵がいる。
重々しく咳払いをひとつしてから、父は口を開いた。
「本日は、大切な話がある」
侯爵家の当主としての声音だった。だが、フィオレッタはその声の底に、わずかな落ち着きのなさを聞き取っていた。
「お前たち姉妹の婚約についてだ」
来たわね、とフィオレッタは胸の内で静かに思った。
自分の婚約者は、ロシュフォール公爵家嫡男ギルベルト・ド・ロシュフォール。
名門中の名門であり、この国でも屈指の大貴族。家格でいえばランベール侯爵家より上であり、その婚約は侯爵家にとっても大きな意味を持つ。もっとも、それはフィオレッタにとって単なる家同士の取り決めではなかった。幼い頃から何度も顔を合わせ、未来の夫となる相手として振る舞ってきた年月がある。
愛と呼ぶには冷えた関係だったかもしれない。けれど少なくとも、彼女はそれを自分の責務として受け止めてきた。
一方の義妹カトリーヌには、最近になって新たな縁談がまとまったばかりだった。
相手は、他国アルディシア公国の公爵当主、フェリクス・アルディシア。
若くして当主の座にあり、政治、軍務、経済、いずれにも優れた傑物。しかも容姿まで優れているとあって、王都でもたびたび噂に上る人物だ。国をまたぐ婚姻である以上、容易な話ではない。それでも成立したのは、アルディシア公国側がこの国との関係強化を望み、こちらもまた強い結びつきを必要としていたからだ。
普通に考えれば、義妹にとってもこれ以上ない良縁のはずだった。
けれど、カトリーヌはその話が持ち上がってからというもの、明らかに元気を失っていた。
最初はただの不安だと思っていた。見知らぬ国へ嫁ぐのだ。十七歳の娘が怯えるのは当然だろう、と。だからフィオレッタも、最初のうちは姉として多少の気遣いを見せた。異国の言葉の勉強を勧め、気候や習慣について一緒に調べもした。
だが、義妹の怯えは日を追うごとに妙な色を帯びていった。
そして今、とうとうこの場が設けられている。
「フィオレッタ」
父に名を呼ばれ、彼女は顔を上げた。
「はい、お父様」
「お前は、ロシュフォール公爵家との婚約について、どのように考えている」
思いがけない聞き方に、フィオレッタはほんの少しだけ目を瞬かせた。
「どのように、とは」
「お前にとって望ましい縁談か、ということだ」
父がそんなことを尋ねるのは珍しかった。
フィオレッタは慎重に答える。
「侯爵家の娘として、ふさわしい縁談だと考えております。ロシュフォール公爵家は由緒正しく、ギルベルト様もまた高い身分におわす方です。私に異論はございません」
父は短くうなずいた。
その横で、義母がやわらかな声を差し挟む。
「まあ、フィオレッタさんは本当に立派ね。いつもそうして、ご自分の感情より家を優先なさるのですもの」
褒め言葉のようでいて、どこか棘がある。昔からそうだった。義母は露骨にフィオレッタを傷つけるような真似はしない。けれど、言葉の端にいつも「冷たい」「可愛げがない」という印象をにじませる。
父の前でも、使用人たちの前でも、社交の場でも。
そのたびに、泣きたいのはこちらだとフィオレッタは思ってきた。
「カトリーヌ」
今度は父が義妹を見た。
「お前はどうだ。アルディシア公爵との婚約について」
カトリーヌの肩がびくりと揺れた。ふわりと波打つ淡い金髪が、か細い首筋に落ちる。透けるように白い肌、守ってやりたくなるような大きな瞳。義妹は小さく唇を震わせて、うつむいたまま答えた。
「……こわい、ですわ」
囁くような声だった。
「知らない国へ行くのが、こわいのです……。言葉も習慣も違って、近くに家族もいなくて、もし何か粗相をしてしまったらと……思うだけで……」
そこで声を詰まらせる。
義母がすかさず娘の肩を抱いた。
「無理もありませんわ。まだ子供のようなところのある子ですもの。異国へ嫁ぐなど、あまりにも酷です」
フィオレッタは黙って二人を見ていた。
この流れ自体は、予想していた。
けれど問題はこの先だ。
父は眉を寄せている。情に流されやすい人ではないが、カトリーヌの涙には昔から弱かった。後妻に似た、守ってやりたくなるような弱々しさを、この人は「女らしさ」だと思っている。
「しかし、婚約はすでに内々にまとまっている。今さら怖いでは済まぬ」
「ええ、もちろんですわ、お父様」
カトリーヌは顔を上げた。目元を潤ませながらも、その声だけは妙に澄んでいた。
「私も、家のために尽くさなければならないとわかっております。けれど……」
彼女はそこで、ためらうようにフィオレッタを見た。
「お姉様なら、きっと大丈夫ですわ」
応接間の空気が、わずかに変わる。
父も、義母も、使用人さえも息を呑んだ気配がした。
フィオレッタは表情を動かさないまま問い返す。
「どういう意味かしら、カトリーヌ」
義妹は、いかにも言いにくそうに唇を噛んだ。
「お姉様は、私なんかよりずっと立派でいらっしゃいます。語学もお得意ですし、礼儀作法も完璧で、どこの国へ行ってもきっと恥をかくことなどありません。フェリクス様のような格の高いお方の隣に立つのも、お姉様のほうがずっと……」
「カトリーヌ」
フィオレッタはぴしゃりとその名を呼んだ。
義妹はびくりと震えたふりをする。
「ま、まあ、フィオレッタさん。そんな怖い言い方をなさらなくても」
義母がたしなめるように言う。
その声音に、父の眉間の皺がさらに深まった。
フィオレッタはそこでようやく理解した。いや、理解したくなかったものを、はっきり認めた。
この話し合いは、義妹の慰めのために開かれたのではない。
最初から、こちらへ押しつけるために用意された場だ。
「まさか」
自分でも驚くほど冷えた声が出た。
「あなた、婚約を入れ替えたいとおっしゃっているの?」
カトリーヌの瞳から、ぽろりと涙が落ちた。
「私、そんな……、そんなつもりでは……」
「では、どういうつもり?」
「ただ、お姉様なら……」
「私なら何?」
カトリーヌは答えない。代わりに泣く。
泣けば許されると思っているのだろうか。
いや、違う。実際に許されてきたのだ、この子は。欲しいものがあれば涙を見せ、困っている顔をして、誰かに差し出させる。それが幼い頃は小さな飾りや席順程度のことだった。けれど今や、その「欲しいもの」は人の人生そのものになっている。
義母がフィオレッタを非難するように言う。
「あなたは、どうしてそう妹に厳しいのです。カトリーヌはただ怯えているだけではありませんか」
「怯えているからといって、人の婚約を望んでよい理由にはなりません」
「望んでなどおりませんわ!」
珍しくカトリーヌが声を荒げた。
すぐにまた顔を伏せる。泣き濡れた横顔が、いかにも傷ついた少女らしい。
「でも……でも、私は……ギルベルト様なら……」
そこで止まる。
フィオレッタは一瞬、喉の奥が凍るのを感じた。
ギルベルトなら。
その意味を、聞き違えるはずがない。
「カトリーヌ」
父の声は重かった。
「お前、まさかロシュフォール公子にそのようなことを」
義妹は答えなかった。
だが、その沈黙がすべてだった。
フィオレッタは、ゆっくりと息を吸った。
胸の奥に、焼けるような怒りがある。けれどここで感情を見せれば、きっと不利になる。ヒステリックな姉、怯える妹。誰もがそういう構図を好むからだ。
「お父様」
彼女は父だけを見て言った。
「確認いたします。まさかとは存じますが、ロシュフォール公爵家とアルディシア公国、双方の婚約を入れ替えることを、本当にお考えですか」
父はすぐには答えなかった。
それが、何よりの答えだった。
フィオレッタはかすかに目を伏せる。
数日前から、使用人たちの間に妙な噂があった。義妹付きの侍女がどこか浮き足立っていたこと。義母が父の書斎へ入る回数が増えていたこと。社交の帰りに、カトリーヌが頬を染めていたこと。
すべてが、ここへつながっていたのだ。
「……信じられませんわ」
小さく漏れた言葉は、怒りよりむしろ呆れに近かった。
「婚約とは、そんなふうに差し替えてよい飾りではありません。家同士の約束であり、相手方への礼儀でもございます。まして国をまたぐ縁談まで絡んでいるのです。それを妹が嫌がるからといって――」
「お姉様は、私に我慢しろとおっしゃるのですか?」
カトリーヌが涙声で言った。
「知らない国で、一人ぼっちで生きていけと?」
「それが侯爵家の娘として引き受けるべき責務なら、そうするしかないでしょう」
「まあ!」
義母が大げさに目を見開いた。
「やはりあなたは冷たい子ね。自分が平気だから、他人にも同じことを求めるのだわ」
「冷たいのではなく、筋を通しているだけです」
「その筋とやらで、人が壊れることもあるのですよ」
義母の声音は柔らかい。だが、その目は冷たい。
フィオレッタは一瞬、幼い頃を思い出した。
母が亡くなったあと、この屋敷へ入ってきた女。やさしく、慎ましく、物静かで、誰からも好かれる継母だった。少なくとも外からはそう見えた。
そしてその娘カトリーヌは、最初から愛らしかった。
泣けば庇われ、怯えれば慰められ、黙って微笑むだけで周囲が味方した。
対してフィオレッタは、侯爵家の長女として常に「きちんとしていること」を求められた。泣けばみっともない、怒れば品がない、弱音を吐けば長女失格。
だから我慢を覚えた。
それが間違いだったのかもしれない。
我慢できる者には、さらに重いものが載せられる。
「お父様」
フィオレッタはもう一度、父に向き直った。
「私は、ランベール侯爵家の娘として申し上げます。この件はあまりにも軽率です。ロシュフォール公爵家にも、アルディシア公国にも、礼を失します」
「それは、わかっている」
「ならば」
「だが」
父は言葉を切った。
重たい沈黙のあとで、苦々しく続ける。
「ロシュフォール家から、打診が来ている」
その瞬間、フィオレッタの指先がわずかに冷えた。
「……打診、ですって?」
「ギルベルト公子が、カトリーヌを望んでいる」
室内が、ひどく遠く感じられた。
やはり、と思う自分と、そんなはずはないと思いたい自分が胸の中でぶつかる。
ギルベルトは傲慢な男だ。自分の言葉が絶対だと思っているところがある。けれど少なくとも、ここまで愚かだとは思いたくなかった。
フィオレッタの沈黙をどう受け取ったのか、カトリーヌが震える声で言う。
「ち、違うのです……私から何か申し上げたわけではなくて……ギルベルト様が、私のことを哀れんでくださって……」
「哀れんで?」
フィオレッタは義妹を見た。
「何を哀れんだの」
「それは……」
「私が、あなたを虐げているとでも?」
義妹がはっとしたように顔を上げる。
その反応だけで十分だった。
義母が慌てて口を挟む。
「フィオレッタさん、落ち着きなさい。誰もそこまで言ってはおりません」
「ですが、いまの反応はそういうことでしょう」
フィオレッタはまっすぐカトリーヌを見る。
「あなた、何をお話ししたの? ギルベルト様に。私が冷たい姉だと? いつもあなたを押さえつけていると? あなたはかわいそうな妹で、私は愛のない婚約者だと?」
「わ、私は……」
「答えなさい、カトリーヌ」
初めて、はっきりと怒気が声ににじんだ。
義妹は泣き崩れる。
「だって、仕方がなかったのですもの……!」
その一言で、すべてが決まった。
フィオレッタは、ゆっくり目を閉じた。
もう弁解も、誤魔化しも必要なかった。カトリーヌは最初から、自分のために姉を悪者にするつもりだったのだ。
異国へ嫁ぐのが嫌だった。
だから姉の婚約者が欲しくなった。
そのために、姉の評判も婚約も平気で差し出した。
ただ、それだけのこと。
ずいぶん綺麗な顔で、ずいぶん醜いことをするものだわ、とフィオレッタは思った。
「本日のところは、もうよい」
父が疲れたように言った。
「最終的な話は、後日ロシュフォール家とも詰める。アルディシア公国側にも、どう伝えるか考えねばならぬ」
話し合いは、それで終わりだった。
終わったはずなのに、フィオレッタだけは何ひとつ終われない。
立ち上がったとき、義母がもっともらしく口にした。
「フィオレッタさん。あなたも長女なのですから、少しは妹を思いやりなさい」
フィオレッタは振り向かなかった。
これ以上ここにいれば、何を言うかわからなかったからだ。
長い廊下を歩き、自室へ戻る。扉が閉まった途端、彼女はようやく大きく息を吐いた。
室内には、いつもの静けさがある。
整えられた机、本棚、母の形見の小さな銀時計。どれも見慣れたものなのに、急に借り物のように思えた。
「お嬢様」
控えていた侍女のエマが心配そうに歩み寄る。
「お顔の色が……」
「大丈夫よ」
とっさにそう答えたものの、声が少しかすれた。
エマは幼い頃から仕えてくれている侍女で、フィオレッタが弱みを見せられる数少ない相手だ。彼女の前でだけは、完璧な侯爵令嬢でいなくてもいい。
けれど今は、まだ崩れたくなかった。
「少し一人にしてちょうだい」
「……かしこまりました。ですが、何かございましたらすぐにお呼びくださいませ」
侍女が下がると、部屋はいっそう静まり返る。
フィオレッタは窓辺へ歩み、庭を見下ろした。
手入れの行き届いた春の庭。まだ蕾の多い薔薇。噴水のきらめき。その向こうを、カトリーヌが義母に支えられながら歩いていくのが見えた。泣き顔を隠すように俯いている姿は、きっと誰の目にもか弱く映るだろう。
あれで勝ったつもりなのかしら。
そんな考えが浮かび、すぐに打ち消す。
まだ何も決まっていない。
そう、自分に言い聞かせる。
けれど父の口ぶりは、すでにかなり傾いていた。ギルベルトが望んでいる。カトリーヌが怯えている。ロシュフォール家との関係は大切。アルディシア公国にはどうにか説明を――。
そこに、フィオレッタ本人の意思が入る余地はどれほどあるのだろう。
拳を握る。
痛いほど強く握って、ようやく自分が震えていることに気づいた。
「……ひどい」
初めて漏れたのは、か細い声だった。
「ひどいわ……」
怒りでも悲しみでもない、もっと単純な傷だった。
自分の婚約が、自分の人生が、妹のわがままと父の都合で入れ替えられようとしている。しかもその理由が、「あなたなら耐えられるから」だなんて。
耐えられる者から、順に奪われていく。
それがこの家のやり方だった。
しばらくして、扉が控えめに叩かれた。
「お嬢様。ロシュフォール公爵家から使いの者がお見えです」
エマの声だった。
フィオレッタは顔を上げる。
「……何の用件かしら」
「ギルベルト様から、お手紙を」
胸の奥が、嫌な音を立てた。
まさか。
いや、まさかなのではない。むしろ当然だ。今日の話がここまで進んでいるのなら、当の本人が沈黙しているはずがない。
「持ってきて」
ほどなくして差し出された封筒は、見慣れたロシュフォール家の紋章入りだった。
受け取った瞬間、妙に指先が冷えた。
封を切る。
短い文面だった。
――君も、家のために最善を選ぶべきだ。
――いずれ理解するだろう。
――カトリーヌは私が守る。
それだけだった。
謝罪もない。説明もない。
ただ、自分が決めたことを当然のように押しつけてくる文面。
フィオレッタはしばらく紙を見つめていたが、やがて静かに畳み、机の上へ置いた。
「お嬢様……」
エマが息を詰める。
「もういいわ」
フィオレッタは、驚くほど穏やかな声で言った。
「よくわかったもの」
ギルベルト・ド・ロシュフォールは、最初からこういう男だったのだ。
自分が欲しいものを選び、不要になったものには理解を求めるだけ。こちらの気持ちなど考えもしない。かつてはそれを、貴族らしい冷静さだと自分に言い聞かせてきた。
でも違う。
あれはただの傲慢だったのだ。
そしてカトリーヌは、その傲慢さをうまくくすぐったのだろう。
守ってやりたい少女。
怯える可憐な娘。
冷たい姉に虐げられた、かわいそうな妹。
ああ、なんて都合のいい物語。
「お嬢様、お返事は……」
「出さなくていいわ」
フィオレッタは窓の外を見た。
庭では風が吹き、まだ固い薔薇の蕾がわずかに揺れている。
「今さら何を書いても、あの方はご自分に都合のよいようにしか受け取らないもの」
たぶん、これから奪われるのだろう。
婚約も。
立場も。
侯爵家の長女として積み上げてきたものも。
だが、それでも。
フィオレッタはまっすぐに立った。
泣くのはあとでいい。崩れるのもあとでいい。少なくとも今は、まだ。
「エマ」
「はい」
「明日から、アルディシア公国についての資料をもう一度集めてちょうだい」
侍女が目を見開く。
「お嬢様?」
「どう転んでも、備えておくべきでしょう。あの方たちは、もう私の都合など考えないのだから」
その声音に、エマは胸を詰まらせたようだった。
「……かしこまりました」
フィオレッタはそっと目を伏せる。
婚約者を奪われるかもしれない。
異国へ押しやられるかもしれない。
それでも、ただ泣いて奪われるままでいるつもりはなかった。
たとえこの家が、自分に「耐えられるほう」を押しつけるのだとしても。
その先でどう生きるかまでは、誰にも勝手に決めさせない。
春の光は柔らかいのに、胸の内にはまだ冷たいものが残っていた。
それでもフィオレッタは、ゆっくりと背筋を伸ばした。
彼女の人生が大きく狂わされるのは、もう目の前だった。
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