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2 嫌ですわ、そんな遠い国
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2 嫌ですわ、そんな遠い国
フィオレッタが朝の紅茶を口にした時には、もう屋敷の空気は昨日までのものではなくなっていた。
使用人たちの足音はいつもより控えめで、廊下ですれ違う侍女たちも、顔を伏せる角度が少し深い。目を合わせまいとしているのがわかる。余計なことを言って咎められたくないのだろう。あるいは、すでにこの屋敷の中で、フィオレッタの立場が揺らぎ始めていると察しているのかもしれない。
侯爵家というのは、案外そういうものだ。
正式に何かが決まる前から、空気だけが先に答えを知る。
「お嬢様」
ティーポットを置いたエマが、ためらいがちに言った。
「昨夜、お父上様の書斎にロシュフォール公爵家からの使者が遅くまで残っていたそうです」
「そう」
フィオレッタは紅茶の表面に揺れる淡い琥珀色を見つめたまま答えた。
「それから、奥様付きの侍女の話では……本日、カトリーヌ様がご体調を崩されたと」
今度は、フィオレッタもわずかに笑いそうになった。
「便利なご病気ね」
言ってから、自分の口調が少しだけ刺々しかったことに気づく。
けれど、エマは咎めるような顔をしなかった。
「お嬢様……」
「いいの。あなたに気を遣わせるつもりはないわ。ただ、あの子が具合を悪くするのは、だいたい誰かに庇ってほしい時だもの」
フィオレッタはカップを置いた。
昨夜はよく眠れなかった。けれど鏡に映る自分の顔は、思ったよりも普段通りだった。青白くもなく、目元も腫れていない。長年、感情を飲み込むことに慣れすぎたせいか、こういう時ほど表面だけは平静を保ってしまう。
そこがまた、この家では不利に働くのだろう。
泣けば傷ついているとわかってもらえる。震えれば怯えていると庇われる。けれど何も見せなければ、「大丈夫なのだ」と都合よく解釈される。
耐えられる者は、耐えさせられる。
昨日の会話のあと、ずっと頭の隅に貼りついている言葉だった。
「お嬢様、本日の予定はどうなさいますか」
「予定通りでいいわ。午前は会計帳簿の確認、昼前に針子を通して、午後は家庭教師の時間。そのあと書簡の整理」
エマは少しためらってから言った。
「本当に、いつも通りでよろしいのですか」
「いつも通りにしていないと、余計なことを考えてしまうもの」
それに、とフィオレッタは胸の内で続ける。
今の自分にできることは多くない。婚約そのものの扱いは、父と相手方の家が決める。侯爵家の娘にすぎないフィオレッタが、その場で覆せるほどの力はない。
だからこそ、いま崩れるわけにはいかないのだ。
やがて朝食を終え、会計帳簿の確認をしていると、案の定、義母付きの侍女がやって来た。
「フィオレッタお嬢様。奥様がお呼びです」
やはり来たわね、とフィオレッタは思った。
「どちらに?」
「カトリーヌお嬢様のお部屋へ」
ますますわかりやすい。
病弱な妹を見舞いに来た冷たい姉、という絵でも作るつもりかしら。
フィオレッタは帳簿を閉じた。
「わかったわ。すぐに参ります」
エマが不安そうに目を向ける。フィオレッタは小さくうなずいて見せた。
何を言われるかは、おおよそ想像がついている。
けれど避ければ、また「姉は薄情だ」と言われるだけだ。
カトリーヌの部屋は、南向きの明るい一角にある。かつては客用だった上等な部屋を、そのまま彼女に与えたのは義母だった。陽当たりがよく、花の柄の壁紙も、軽やかなレースのカーテンも、娘の可憐さによく似合うからと。
扉を開けると、甘い花の香りがした。
ベッドの上にはカトリーヌが横たわり、義母がその傍らに座っていた。侍女たちも二人ほど控えている。まるで小さな舞台のようだった。
「フィオレッタさん、来てくださったのね」
義母が、ほっとしたような顔を作る。
カトリーヌは枕に頬を埋めるようにして、弱々しく顔を向けた。
「お姉様……」
ひどくかすれた声だ。昨夜はあれほどしっかり泣けていたのだから、なかなか器用なものである。
「具合が悪いと聞いたわ」
フィオレッタはベッドから少し離れた位置で立ち止まった。
「熱でも?」
「少し、心労が……」
義母が代わりに答える。
「昨夜からろくに眠れていないのですって。かわいそうに、あれほど思い詰めていたのに、あなたがあんなふうに問い詰めるから」
「問い詰めたつもりはありませんわ」
「でも、この子は怯えてしまったのよ」
フィオレッタは返事をしなかった。
義母は昔からこうだ。事実より先に印象を定める。強い声を出したのは姉。涙を流したのは妹。ならば悪いのは姉。話の筋や背景など、どうでもいいのだ。
カトリーヌが、ためらうように口を開く。
「お姉様……怒っていらっしゃいますわよね」
「ええ」
即答すると、義母も侍女たちも息を呑んだ。
だがフィオレッタは続ける。
「当然でしょう。私の婚約に関わることですもの」
カトリーヌの目が揺れる。
やはりこういう反応は想定していなかったのだろう。フィオレッタはいつも、相手を立てるように遠回しにしか物を言わない。だからこそ、今回ははっきり口にした。
「あなたは昨夜、私の婚約者を望んでいるような発言をした。それが事実なら、私は怒るに決まっています」
「お姉様、私は、そんな……」
「では違うの?」
カトリーヌは黙る。
唇が震え、目に涙がたまる。
けれど今さら、その顔にほだされる気にはなれなかった。
「違うなら、はっきり言いなさい。ギルベルト様との婚約を望んでいないと」
義母がきっと声を尖らせた。
「フィオレッタさん、病人に何をおっしゃっているの」
「病人であっても、昨夜自分が口にしたことの責任は消えません」
「責任ですって?」
「婚約とは家同士の約束です。それを替えたいと言い出すことが、どれほど重大か、カトリーヌは理解しているのでしょうか」
そこまで言うと、カトリーヌが堪えきれないように顔を覆った。
「だって……だって、嫌なのですもの!」
ようやく、本音が出た。
甲高い声だった。か細く可憐な妹ではなく、ただ我を通したい娘の声だ。
「嫌なのです、あんな遠い国! 誰も知っている人がいなくて、言葉も違って、何もかも違う場所へ行って、一生帰って来られないかもしれないなんて……!」
フィオレッタはじっと義妹を見た。
カトリーヌは涙を流しながらも、もう止まれなくなっていた。
「どうして私が、そんな思いをしなければならないのですか! お姉様は平気なお顔をしていらっしゃるけれど、私は無理ですわ! こわいのです! 知らない国で、知らない人たちの中で、もし嫌われたらどうしよう、もし失敗したらどうしようって、毎日考えてしまって……!」
「だから、私に行けと?」
「お姉様ならできるでしょう!」
それは悲鳴のようだった。
「お姉様は何でもできますもの! 勉強も、礼儀も、社交も、いつだってきちんとしていて、誰にも笑われない。私とは違うのです!」
フィオレッタは少しだけ目を細めた。
羨望と甘えと、責任転嫁がまぜこぜになった言葉だった。
義妹は昔からそうだ。自分にできないことを、できる人間へ押しつける。そして、その相手が苦労して手に入れたものまで、「どうせあなたなら他にもあるでしょう」と奪おうとする。
「できるかどうかと、奪ってよいかどうかは別の話よ」
静かに言うと、カトリーヌははっとしたように息を呑んだ。
「私は、あなたの代わりに生きるためにここにいるのではないわ」
「奪うだなんて……!」
「そうでしょう?」
フィオレッタは一歩だけベッドに近づいた。
「あなたは、他国へ嫁ぐのが嫌だから、私の婚約者が欲しいのではなくて?」
「それは……」
「ギルベルト様なら国内にいらっしゃる。見知った社交界の中で暮らせる。実家との行き来も、今よりは容易。だから欲しくなった」
カトリーヌは泣きながら首を振る。
「そんな言い方……ひどいですわ」
「ひどいのはどちらかしら」
義母が立ち上がった。
「もうやめなさい! どうしてあなたはそんなに冷たいの。妹は怖がっているだけでしょう!」
「怖がっていれば、人の婚約をほしがってよいのですか」
「あなたはわからないのよ!」
義母の声音が初めて鋭くなる。
「あなたは昔から強かったもの。泣きもせず、弱音も吐かず、何でもこなしてきた。だからカトリーヌのような子の恐ろしさがわからないの」
フィオレッタはその言葉を、ほとんど他人事のように聞いた。
強い。
本当にそう見えていたのだろうか。
母を亡くしても泣くなと言われた。侯爵家の長女なのだからと。勉強がきつくても弱音を吐くなと言われた。婚約者にどれほど冷たく扱われても、それが貴族の務めだと飲み込んだ。
それを強さと呼ぶのなら、ずいぶん都合のいい強さだ。
「お義母様」
フィオレッタはゆっくりと言った。
「私は、強いから押しつけられても平気なわけではありません」
義母の眉が動く。
「我慢してきただけです」
部屋の空気が、一瞬静まった。
カトリーヌさえ、涙に濡れた目を見開いている。
フィオレッタは、自分でも少し驚いていた。こういうことを口にしたのは初めてだったからだ。いつもなら言わない。言っても無駄だと思っていた。けれど今日は、黙っていることのほうが惨めに思えた。
「お姉様……」
カトリーヌがかすれた声で言う。
「でも、私は本当に怖いのです……。フェリクス様は立派なお方だと聞きますわ。でも、それだけに恐ろしくて……。もし期待に応えられなかったら、見捨てられてしまうのではないかと……」
その言葉には、わずかに本音も混じっていたのかもしれない。
フィオレッタはそこだけは否定しなかった。確かに、異国へ嫁ぐ恐怖はあるだろう。人格者だろうと名君だろうと、未知の相手は未知の相手だ。
だが、だからといって。
「怖いことと、間違ったことは別よ」
フィオレッタは言った。
「あなたが不安なのはわかる。でもその不安を理由に、私の婚約を欲しがり、私を悪者にしてよいわけではない」
カトリーヌの肩がびくりと震える。
「やっぱり……ギルベルト様に何かお話ししたのね」
義妹は答えない。
答えないことが答えだ。
義母が庇うように言う。
「少し弱音をこぼしただけかもしれないでしょう」
「弱音で人の婚約者の心を動かしたのなら、それは立派な働きかけです」
その瞬間、部屋の外から控えめなノックが聞こえた。
侍女が扉を開けると、父に仕える老執事が一礼した。
「失礼いたします。旦那様より、フィオレッタお嬢様を至急書斎へとのことです」
来た、とフィオレッタは思った。
義母も気づいたらしく、表情を引き締める。
「わかったわ。すぐに参ります」
部屋を出る直前、カトリーヌが弱々しく呼び止めた。
「お姉様……」
フィオレッタは振り向いた。
義妹は潤んだ目でこちらを見ていた。いつものように、誰かの庇護を求める顔。
「……私、悪い子ではないのです」
フィオレッタは少しだけ沈黙してから、静かに答えた。
「ええ。あなたは、自分を悪い子だと思わずに人のものを欲しがれるだけよ」
そのまま踵を返し、部屋を出た。
後ろで小さなすすり泣きが聞こえたが、もう足は止めなかった。
書斎へ向かう廊下はやけに長く感じられた。窓の外では、庭師が春花の手入れをしている。穏やかな昼前の光景なのに、自分のいる世界だけが別の季節に入ってしまったようだった。
父の書斎の扉を叩く。
「フィオレッタです」
「入れ」
中に入ると、父は机の向こうに座っていた。その前には見覚えのない紋章入りの封書がいくつか置かれている。ロシュフォール家のものと、もう一つは異国風の意匠。アルディシア公国からのものだろう。
父はいつもより疲れて見えた。
「座りなさい」
フィオレッタは勧められた椅子に腰を下ろす。
「話は早いほうがいい」
父は前置きもなく言った。
「ロシュフォール公爵家から正式な申し入れが来た。ギルベルト公子は、カトリーヌとの婚約を望んでいる」
やはり、と思った。思ったのに、胸はやはり痛んだ。
「……そうですか」
「そしてアルディシア公国側には、まだ事情をすべて伝えてはいない。だが先方も、こちらの家の動きをある程度察しているようだ」
父は一通の書簡を指先で押さえた。
「フェリクス・アルディシア公爵は、婚約相手の変更そのものについて、必ずしも拒絶の意を示してはいない」
フィオレッタは顔を上げた。
「変更を?」
「先方の言葉をそのまま言えば、ランベール侯爵家が正式に推す令嬢が誰であるかを見極めたい、ということだ」
あまりに冷静な物言いに、フィオレッタは一瞬だけ息を詰めた。
つまり、向こうはまだ怒っていないのではない。怒るかどうかを決める前に、こちらがどこまで恥をさらすか見ているのだ。
そして同時に、こうも言っている。
お前たちがどちらの娘を寄越すか、決めるのはお前たちだ、と。
「お父様は、どうなさるおつもりですか」
父は苦い顔をした。
「家の体面だけを考えるなら、このまま押し通すべきではない。婚約を入れ替えるなど前代未聞だ。だがロシュフォール家との関係も無視はできぬ」
「つまり」
「フィオレッタ、お前に確認しておきたい」
父は真っ直ぐ娘を見た。
「アルディシア公国へ嫁ぐことを、お前は受け入れられるか」
その問いは、娘の意思を尊重するように見えて、実際にはそうではなかった。
ここでフィオレッタが拒めば、父は困るのだろう。ロシュフォール家を怒らせず、カトリーヌを泣かせず、この家の体面もなんとか保ちたい。そのための最も都合のいい駒が自分だ。
わかっている。
わかっていて、なお。
フィオレッタは数秒、答えを飲み込んだ。
「受け入れられるかどうかではなく」
やがて彼女は、静かに言った。
「それが必要なのかどうかを、お尋ねしてもよろしいですか」
父は口を閉ざした。
その沈黙だけで、ほとんど答えは出ていた。
「必要なのだな」と思う一方で、「必要にされているのは自分の幸せではない」とも思う。
ひどく皮肉だった。
カトリーヌは怖がっているから守られる。
自分は耐えられそうだから送り出される。
どちらも娘であるはずなのに。
父は、低い声で言った。
「フィオレッタ。お前ならやれると思っている」
その一言に、胸の奥が少しだけ冷えた。
やれると思っている。
それは信頼ではない。便利な確信だ。
「……そうですか」
「お前は聡い。礼儀も知っている。異国の家に入っても務めを果たせる。フェリクス公も、そうした資質を重んじる人物らしい」
「カトリーヌでは無理だと?」
父は眉をひそめた。
「そうは言っておらぬ」
「言っているのと同じです」
フィオレッタは自分でも驚くほど落ち着いていた。
「怖がる妹には国内の婚約者を。耐えられる姉には異国を。そういうことでしょう」
「……家のためだ」
「ええ」
フィオレッタは微笑んだ。笑おうとしたのではない。あまりにわかりやすくて、口元が勝手にそうなっただけだった。
「家のため、ですものね」
父が何か言いかける。
けれどその前に、フィオレッタは立ち上がった。
「お父様。ひとつだけ、お聞かせください」
「何だ」
「私が異国へ嫁げば、この件は丸く収まるのですか」
父は答えなかった。
いや、答えられなかったのだろう。
収まるはずがない。ロシュフォール家の愚かさも、ランベール侯爵家の軽率さも、婚約をすげ替えるという異常さも、すべて残る。けれど、表面だけは整えられる。傷を見えない布で覆うように。
「……丸く収めたいのですね」
フィオレッタはそれだけ言った。
父の顔には、怒りでも否定でもなく、苦渋があった。
それがかえって残酷だった。
「少し考える時間をいただけますか」
「今日中に返事がほしい」
「かしこまりました」
礼をして書斎を出る。
扉が閉まった瞬間、胸の内で何かが軋んだ。
怒っている。傷ついている。惨めだと思っている。けれど、泣きたいのに涙が出ない。
ただ、あまりにも冷静にわかってしまったのだ。
この家は、もう答えを決めている。
あとはフィオレッタが、どれだけ綺麗にそれを受け入れるかだけなのだと。
廊下の窓辺で、彼女はふと立ち止まった。
庭では風が吹き、花の蕾が揺れている。
カトリーヌは今ごろ、病弱な妹としてベッドに横たわり、義母に髪を撫でられているのだろう。そして父は書斎で、長女なら務めを果たすと信じている。ギルベルトはおそらく、自分が望むものを得られると思っている。
皆が、勝手だ。
けれどその中で一番腹立たしいのは、そんな者たちに対してさえ、まだ頭のどこかで「家のためなら」と考えかけてしまう自分だった。
「お嬢様!」
駆け寄ってきたエマが息を切らしている。
「大丈夫でございますか」
フィオレッタはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「大丈夫ではないわね」
その言葉に、エマの目が潤む。
「でも、まだ倒れるわけにはいかないの」
「お嬢様……」
「資料を集めてちょうだい。アルディシア公国の言語、宮廷作法、気候、特産、派閥……全部。昨日よりもっと詳しく」
エマは泣きそうな顔をしたまま、深く頭を下げた。
「かしこまりました」
フィオレッタは窓の外を見た。
嫌ですわ、そんな遠い国。
カトリーヌの声が、耳の奥によみがえる。
その一言のために、自分の人生は入れ替えられようとしている。
ならばせめて、その遠い国がどんな場所なのか、この目で見てやろうと思った。
逃げた妹が知らない場所を。
自分を捨てた婚約者が軽く扱った未来を。
その先で、自分がどうなるのかはまだわからない。
けれど、ただ泣いて明け渡すだけは、もう嫌だった。
フィオレッタが朝の紅茶を口にした時には、もう屋敷の空気は昨日までのものではなくなっていた。
使用人たちの足音はいつもより控えめで、廊下ですれ違う侍女たちも、顔を伏せる角度が少し深い。目を合わせまいとしているのがわかる。余計なことを言って咎められたくないのだろう。あるいは、すでにこの屋敷の中で、フィオレッタの立場が揺らぎ始めていると察しているのかもしれない。
侯爵家というのは、案外そういうものだ。
正式に何かが決まる前から、空気だけが先に答えを知る。
「お嬢様」
ティーポットを置いたエマが、ためらいがちに言った。
「昨夜、お父上様の書斎にロシュフォール公爵家からの使者が遅くまで残っていたそうです」
「そう」
フィオレッタは紅茶の表面に揺れる淡い琥珀色を見つめたまま答えた。
「それから、奥様付きの侍女の話では……本日、カトリーヌ様がご体調を崩されたと」
今度は、フィオレッタもわずかに笑いそうになった。
「便利なご病気ね」
言ってから、自分の口調が少しだけ刺々しかったことに気づく。
けれど、エマは咎めるような顔をしなかった。
「お嬢様……」
「いいの。あなたに気を遣わせるつもりはないわ。ただ、あの子が具合を悪くするのは、だいたい誰かに庇ってほしい時だもの」
フィオレッタはカップを置いた。
昨夜はよく眠れなかった。けれど鏡に映る自分の顔は、思ったよりも普段通りだった。青白くもなく、目元も腫れていない。長年、感情を飲み込むことに慣れすぎたせいか、こういう時ほど表面だけは平静を保ってしまう。
そこがまた、この家では不利に働くのだろう。
泣けば傷ついているとわかってもらえる。震えれば怯えていると庇われる。けれど何も見せなければ、「大丈夫なのだ」と都合よく解釈される。
耐えられる者は、耐えさせられる。
昨日の会話のあと、ずっと頭の隅に貼りついている言葉だった。
「お嬢様、本日の予定はどうなさいますか」
「予定通りでいいわ。午前は会計帳簿の確認、昼前に針子を通して、午後は家庭教師の時間。そのあと書簡の整理」
エマは少しためらってから言った。
「本当に、いつも通りでよろしいのですか」
「いつも通りにしていないと、余計なことを考えてしまうもの」
それに、とフィオレッタは胸の内で続ける。
今の自分にできることは多くない。婚約そのものの扱いは、父と相手方の家が決める。侯爵家の娘にすぎないフィオレッタが、その場で覆せるほどの力はない。
だからこそ、いま崩れるわけにはいかないのだ。
やがて朝食を終え、会計帳簿の確認をしていると、案の定、義母付きの侍女がやって来た。
「フィオレッタお嬢様。奥様がお呼びです」
やはり来たわね、とフィオレッタは思った。
「どちらに?」
「カトリーヌお嬢様のお部屋へ」
ますますわかりやすい。
病弱な妹を見舞いに来た冷たい姉、という絵でも作るつもりかしら。
フィオレッタは帳簿を閉じた。
「わかったわ。すぐに参ります」
エマが不安そうに目を向ける。フィオレッタは小さくうなずいて見せた。
何を言われるかは、おおよそ想像がついている。
けれど避ければ、また「姉は薄情だ」と言われるだけだ。
カトリーヌの部屋は、南向きの明るい一角にある。かつては客用だった上等な部屋を、そのまま彼女に与えたのは義母だった。陽当たりがよく、花の柄の壁紙も、軽やかなレースのカーテンも、娘の可憐さによく似合うからと。
扉を開けると、甘い花の香りがした。
ベッドの上にはカトリーヌが横たわり、義母がその傍らに座っていた。侍女たちも二人ほど控えている。まるで小さな舞台のようだった。
「フィオレッタさん、来てくださったのね」
義母が、ほっとしたような顔を作る。
カトリーヌは枕に頬を埋めるようにして、弱々しく顔を向けた。
「お姉様……」
ひどくかすれた声だ。昨夜はあれほどしっかり泣けていたのだから、なかなか器用なものである。
「具合が悪いと聞いたわ」
フィオレッタはベッドから少し離れた位置で立ち止まった。
「熱でも?」
「少し、心労が……」
義母が代わりに答える。
「昨夜からろくに眠れていないのですって。かわいそうに、あれほど思い詰めていたのに、あなたがあんなふうに問い詰めるから」
「問い詰めたつもりはありませんわ」
「でも、この子は怯えてしまったのよ」
フィオレッタは返事をしなかった。
義母は昔からこうだ。事実より先に印象を定める。強い声を出したのは姉。涙を流したのは妹。ならば悪いのは姉。話の筋や背景など、どうでもいいのだ。
カトリーヌが、ためらうように口を開く。
「お姉様……怒っていらっしゃいますわよね」
「ええ」
即答すると、義母も侍女たちも息を呑んだ。
だがフィオレッタは続ける。
「当然でしょう。私の婚約に関わることですもの」
カトリーヌの目が揺れる。
やはりこういう反応は想定していなかったのだろう。フィオレッタはいつも、相手を立てるように遠回しにしか物を言わない。だからこそ、今回ははっきり口にした。
「あなたは昨夜、私の婚約者を望んでいるような発言をした。それが事実なら、私は怒るに決まっています」
「お姉様、私は、そんな……」
「では違うの?」
カトリーヌは黙る。
唇が震え、目に涙がたまる。
けれど今さら、その顔にほだされる気にはなれなかった。
「違うなら、はっきり言いなさい。ギルベルト様との婚約を望んでいないと」
義母がきっと声を尖らせた。
「フィオレッタさん、病人に何をおっしゃっているの」
「病人であっても、昨夜自分が口にしたことの責任は消えません」
「責任ですって?」
「婚約とは家同士の約束です。それを替えたいと言い出すことが、どれほど重大か、カトリーヌは理解しているのでしょうか」
そこまで言うと、カトリーヌが堪えきれないように顔を覆った。
「だって……だって、嫌なのですもの!」
ようやく、本音が出た。
甲高い声だった。か細く可憐な妹ではなく、ただ我を通したい娘の声だ。
「嫌なのです、あんな遠い国! 誰も知っている人がいなくて、言葉も違って、何もかも違う場所へ行って、一生帰って来られないかもしれないなんて……!」
フィオレッタはじっと義妹を見た。
カトリーヌは涙を流しながらも、もう止まれなくなっていた。
「どうして私が、そんな思いをしなければならないのですか! お姉様は平気なお顔をしていらっしゃるけれど、私は無理ですわ! こわいのです! 知らない国で、知らない人たちの中で、もし嫌われたらどうしよう、もし失敗したらどうしようって、毎日考えてしまって……!」
「だから、私に行けと?」
「お姉様ならできるでしょう!」
それは悲鳴のようだった。
「お姉様は何でもできますもの! 勉強も、礼儀も、社交も、いつだってきちんとしていて、誰にも笑われない。私とは違うのです!」
フィオレッタは少しだけ目を細めた。
羨望と甘えと、責任転嫁がまぜこぜになった言葉だった。
義妹は昔からそうだ。自分にできないことを、できる人間へ押しつける。そして、その相手が苦労して手に入れたものまで、「どうせあなたなら他にもあるでしょう」と奪おうとする。
「できるかどうかと、奪ってよいかどうかは別の話よ」
静かに言うと、カトリーヌははっとしたように息を呑んだ。
「私は、あなたの代わりに生きるためにここにいるのではないわ」
「奪うだなんて……!」
「そうでしょう?」
フィオレッタは一歩だけベッドに近づいた。
「あなたは、他国へ嫁ぐのが嫌だから、私の婚約者が欲しいのではなくて?」
「それは……」
「ギルベルト様なら国内にいらっしゃる。見知った社交界の中で暮らせる。実家との行き来も、今よりは容易。だから欲しくなった」
カトリーヌは泣きながら首を振る。
「そんな言い方……ひどいですわ」
「ひどいのはどちらかしら」
義母が立ち上がった。
「もうやめなさい! どうしてあなたはそんなに冷たいの。妹は怖がっているだけでしょう!」
「怖がっていれば、人の婚約をほしがってよいのですか」
「あなたはわからないのよ!」
義母の声音が初めて鋭くなる。
「あなたは昔から強かったもの。泣きもせず、弱音も吐かず、何でもこなしてきた。だからカトリーヌのような子の恐ろしさがわからないの」
フィオレッタはその言葉を、ほとんど他人事のように聞いた。
強い。
本当にそう見えていたのだろうか。
母を亡くしても泣くなと言われた。侯爵家の長女なのだからと。勉強がきつくても弱音を吐くなと言われた。婚約者にどれほど冷たく扱われても、それが貴族の務めだと飲み込んだ。
それを強さと呼ぶのなら、ずいぶん都合のいい強さだ。
「お義母様」
フィオレッタはゆっくりと言った。
「私は、強いから押しつけられても平気なわけではありません」
義母の眉が動く。
「我慢してきただけです」
部屋の空気が、一瞬静まった。
カトリーヌさえ、涙に濡れた目を見開いている。
フィオレッタは、自分でも少し驚いていた。こういうことを口にしたのは初めてだったからだ。いつもなら言わない。言っても無駄だと思っていた。けれど今日は、黙っていることのほうが惨めに思えた。
「お姉様……」
カトリーヌがかすれた声で言う。
「でも、私は本当に怖いのです……。フェリクス様は立派なお方だと聞きますわ。でも、それだけに恐ろしくて……。もし期待に応えられなかったら、見捨てられてしまうのではないかと……」
その言葉には、わずかに本音も混じっていたのかもしれない。
フィオレッタはそこだけは否定しなかった。確かに、異国へ嫁ぐ恐怖はあるだろう。人格者だろうと名君だろうと、未知の相手は未知の相手だ。
だが、だからといって。
「怖いことと、間違ったことは別よ」
フィオレッタは言った。
「あなたが不安なのはわかる。でもその不安を理由に、私の婚約を欲しがり、私を悪者にしてよいわけではない」
カトリーヌの肩がびくりと震える。
「やっぱり……ギルベルト様に何かお話ししたのね」
義妹は答えない。
答えないことが答えだ。
義母が庇うように言う。
「少し弱音をこぼしただけかもしれないでしょう」
「弱音で人の婚約者の心を動かしたのなら、それは立派な働きかけです」
その瞬間、部屋の外から控えめなノックが聞こえた。
侍女が扉を開けると、父に仕える老執事が一礼した。
「失礼いたします。旦那様より、フィオレッタお嬢様を至急書斎へとのことです」
来た、とフィオレッタは思った。
義母も気づいたらしく、表情を引き締める。
「わかったわ。すぐに参ります」
部屋を出る直前、カトリーヌが弱々しく呼び止めた。
「お姉様……」
フィオレッタは振り向いた。
義妹は潤んだ目でこちらを見ていた。いつものように、誰かの庇護を求める顔。
「……私、悪い子ではないのです」
フィオレッタは少しだけ沈黙してから、静かに答えた。
「ええ。あなたは、自分を悪い子だと思わずに人のものを欲しがれるだけよ」
そのまま踵を返し、部屋を出た。
後ろで小さなすすり泣きが聞こえたが、もう足は止めなかった。
書斎へ向かう廊下はやけに長く感じられた。窓の外では、庭師が春花の手入れをしている。穏やかな昼前の光景なのに、自分のいる世界だけが別の季節に入ってしまったようだった。
父の書斎の扉を叩く。
「フィオレッタです」
「入れ」
中に入ると、父は机の向こうに座っていた。その前には見覚えのない紋章入りの封書がいくつか置かれている。ロシュフォール家のものと、もう一つは異国風の意匠。アルディシア公国からのものだろう。
父はいつもより疲れて見えた。
「座りなさい」
フィオレッタは勧められた椅子に腰を下ろす。
「話は早いほうがいい」
父は前置きもなく言った。
「ロシュフォール公爵家から正式な申し入れが来た。ギルベルト公子は、カトリーヌとの婚約を望んでいる」
やはり、と思った。思ったのに、胸はやはり痛んだ。
「……そうですか」
「そしてアルディシア公国側には、まだ事情をすべて伝えてはいない。だが先方も、こちらの家の動きをある程度察しているようだ」
父は一通の書簡を指先で押さえた。
「フェリクス・アルディシア公爵は、婚約相手の変更そのものについて、必ずしも拒絶の意を示してはいない」
フィオレッタは顔を上げた。
「変更を?」
「先方の言葉をそのまま言えば、ランベール侯爵家が正式に推す令嬢が誰であるかを見極めたい、ということだ」
あまりに冷静な物言いに、フィオレッタは一瞬だけ息を詰めた。
つまり、向こうはまだ怒っていないのではない。怒るかどうかを決める前に、こちらがどこまで恥をさらすか見ているのだ。
そして同時に、こうも言っている。
お前たちがどちらの娘を寄越すか、決めるのはお前たちだ、と。
「お父様は、どうなさるおつもりですか」
父は苦い顔をした。
「家の体面だけを考えるなら、このまま押し通すべきではない。婚約を入れ替えるなど前代未聞だ。だがロシュフォール家との関係も無視はできぬ」
「つまり」
「フィオレッタ、お前に確認しておきたい」
父は真っ直ぐ娘を見た。
「アルディシア公国へ嫁ぐことを、お前は受け入れられるか」
その問いは、娘の意思を尊重するように見えて、実際にはそうではなかった。
ここでフィオレッタが拒めば、父は困るのだろう。ロシュフォール家を怒らせず、カトリーヌを泣かせず、この家の体面もなんとか保ちたい。そのための最も都合のいい駒が自分だ。
わかっている。
わかっていて、なお。
フィオレッタは数秒、答えを飲み込んだ。
「受け入れられるかどうかではなく」
やがて彼女は、静かに言った。
「それが必要なのかどうかを、お尋ねしてもよろしいですか」
父は口を閉ざした。
その沈黙だけで、ほとんど答えは出ていた。
「必要なのだな」と思う一方で、「必要にされているのは自分の幸せではない」とも思う。
ひどく皮肉だった。
カトリーヌは怖がっているから守られる。
自分は耐えられそうだから送り出される。
どちらも娘であるはずなのに。
父は、低い声で言った。
「フィオレッタ。お前ならやれると思っている」
その一言に、胸の奥が少しだけ冷えた。
やれると思っている。
それは信頼ではない。便利な確信だ。
「……そうですか」
「お前は聡い。礼儀も知っている。異国の家に入っても務めを果たせる。フェリクス公も、そうした資質を重んじる人物らしい」
「カトリーヌでは無理だと?」
父は眉をひそめた。
「そうは言っておらぬ」
「言っているのと同じです」
フィオレッタは自分でも驚くほど落ち着いていた。
「怖がる妹には国内の婚約者を。耐えられる姉には異国を。そういうことでしょう」
「……家のためだ」
「ええ」
フィオレッタは微笑んだ。笑おうとしたのではない。あまりにわかりやすくて、口元が勝手にそうなっただけだった。
「家のため、ですものね」
父が何か言いかける。
けれどその前に、フィオレッタは立ち上がった。
「お父様。ひとつだけ、お聞かせください」
「何だ」
「私が異国へ嫁げば、この件は丸く収まるのですか」
父は答えなかった。
いや、答えられなかったのだろう。
収まるはずがない。ロシュフォール家の愚かさも、ランベール侯爵家の軽率さも、婚約をすげ替えるという異常さも、すべて残る。けれど、表面だけは整えられる。傷を見えない布で覆うように。
「……丸く収めたいのですね」
フィオレッタはそれだけ言った。
父の顔には、怒りでも否定でもなく、苦渋があった。
それがかえって残酷だった。
「少し考える時間をいただけますか」
「今日中に返事がほしい」
「かしこまりました」
礼をして書斎を出る。
扉が閉まった瞬間、胸の内で何かが軋んだ。
怒っている。傷ついている。惨めだと思っている。けれど、泣きたいのに涙が出ない。
ただ、あまりにも冷静にわかってしまったのだ。
この家は、もう答えを決めている。
あとはフィオレッタが、どれだけ綺麗にそれを受け入れるかだけなのだと。
廊下の窓辺で、彼女はふと立ち止まった。
庭では風が吹き、花の蕾が揺れている。
カトリーヌは今ごろ、病弱な妹としてベッドに横たわり、義母に髪を撫でられているのだろう。そして父は書斎で、長女なら務めを果たすと信じている。ギルベルトはおそらく、自分が望むものを得られると思っている。
皆が、勝手だ。
けれどその中で一番腹立たしいのは、そんな者たちに対してさえ、まだ頭のどこかで「家のためなら」と考えかけてしまう自分だった。
「お嬢様!」
駆け寄ってきたエマが息を切らしている。
「大丈夫でございますか」
フィオレッタはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「大丈夫ではないわね」
その言葉に、エマの目が潤む。
「でも、まだ倒れるわけにはいかないの」
「お嬢様……」
「資料を集めてちょうだい。アルディシア公国の言語、宮廷作法、気候、特産、派閥……全部。昨日よりもっと詳しく」
エマは泣きそうな顔をしたまま、深く頭を下げた。
「かしこまりました」
フィオレッタは窓の外を見た。
嫌ですわ、そんな遠い国。
カトリーヌの声が、耳の奥によみがえる。
その一言のために、自分の人生は入れ替えられようとしている。
ならばせめて、その遠い国がどんな場所なのか、この目で見てやろうと思った。
逃げた妹が知らない場所を。
自分を捨てた婚約者が軽く扱った未来を。
その先で、自分がどうなるのかはまだわからない。
けれど、ただ泣いて明け渡すだけは、もう嫌だった。
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