白い結婚のはずが、気づけば溺愛されていましたわ! 地味令嬢、辺境でスローライフを望んだのに国まで救ってしまう件

しおしお

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第14話 —“数字と法の刃”と、ロヴェルの誇り—

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第14話 —“数字と法の刃”と、ロヴェルの誇り—

辺境公爵城の執務室。
雪の夜、窓の外は真っ白に煙っていた。

ロヴェルの机には、
王都から届いた嫌味たっぷりの文書が広げられている。

『辺境が独断で改善策を導入するのは不適切である』
『貴族としての礼を欠き、王家への不敬である』
『無能な領地が勝手に成果を出すのは困惑する』

──など、読むだけで頭痛がしそうな文章。

しかも、差し出しは“王宮文官局”。
裏で動いているのは王太子と、
あの新婚約者だという噂はほぼ確実。

ロヴェルは静かにため息をついた。

「……馬鹿げている」

だが怒りだけでは済まない。
このまま放置すれば、領地に圧力がかかりかねない。

そこへ──
コン、コン。

「ロヴェル様、失礼いたしますわ」

ミレイユが入ってきた。

ロヴェルは眉を寄せ、文書を伏せる。

しかしミレイユは、
まるで“何を隠しているか知ってます”と言わんばかりに笑った。

「王都から……ご連絡が届いたのでしょう?」

「……見せた覚えはないが」

「家臣の方々が、顔に『怒』と書いてありましたもの」

(見抜いてる……!
なんだその観察眼……!)

ロヴェルは観念したように文書を差し出した。

ミレイユは静かに読み始め──
わずか数秒でため息をついた。

「……これはひどいですわね」

そして、椅子を引き寄せ、
手元に紙とペンを置いた。

「反論文書、作成してもよろしいですか?」

「……君が?」

「数字と法令は、わたくしの趣味の延長ですわ」

趣味……?

(この状況を“趣味”で片づける令嬢がどこにいる……?)

だが止める間もなく、
ミレイユの手が動き出した。

◆ミレイユの反撃、開始

ペン先が紙を滑り、
彼女の筆跡が一気に広がる。

・辺境の物資管理は王国法第19条に基づき適正
・改善は災害対策条項に沿った妥当な措置
・王都の怠慢による遅配をデータで明確化
・毎年の王都の不備を「史実」として淡々と列挙
・さらに王都からの支援金の使途不透明を指摘

(趣味の延長……?
これは……“論破”ではなく“滅殺”だ……)

ロヴェルは息を呑んだ。

ミレイユは最後にこう締めくくった。

『以上の点より、
辺境公爵領の施策は合法かつ必要性の高いものであり、
王都の指摘は誤解に基づくものであると判断されます』

ペンを置いた彼女は、にっこり笑う。

「はい、完成ですわ」

ロヴェル「……は、速い……」

ミレイユは少し首を傾げた。

「もっと攻めてもよかったんですけれど……
あまりやりすぎると、王都の方々が傷ついてしまいますし」

(やりすぎる……?
つまり“手加減した”という意味……?)

ロヴェルは文書を手に取り──
読み進めるほどに驚きが深まった。

・数字の正確さ
・法の解釈の巧みさ
・相手を追い詰めつつ礼を失わない文体

どれも完璧だった。

読み終えたロヴェルは、
静かに、だがはっきりと言った。

「……素晴らしい。
これほどの文書、王都でも書ける者は少ない」

ミレイユは目をぱちぱち瞬かせた。

「わたくし……ただの暇つぶしで……」

「暇つぶしで王都を黙らせるのか?」

少し呆れたような、
けれどどこか誇らしげな声。

ロヴェルの銀の瞳が、
ふわりと柔らかく細められる。

「君は……驚くほど優秀だ。
領地は、君に救われている」

ミレイユの胸が微熱を帯びる。

(褒められた……
しかも、あのロヴェル様に……
こんなに真っ直ぐに……)

言葉が出ない。

ロヴェルは続けた。

「この文書はすぐに王都へ送る。
……王太子も文官局も、何も言えまい」

ミレイユは小さく頷いた。

「お役に立てたなら……嬉しいですわ」

その声は震えていたが、
ロヴェルには届かないほど静かだった。

◆王都の反応

翌日。

王都から届いたのは──
短い文書。

『ご指摘の通りでした。
今後は不当な問い合わせは控えます』

家臣たち
「完全敗北じゃねえか!!」
「奥様、王都を論破した……!」
「いや論破どころか粉砕……!」

ロヴェルは静かに笑った。

「……ミレイユのおかげだ」

その声は、
雪夜の暖炉のように柔らかく温かかった。

ミレイユは、
胸のあたりがくすぐったいように熱くなるのを感じた。

(これ……本当に“干渉しない契約結婚”ですわよね……?
私たち……ちょっと仲良すぎません……?)

──こうして、
白い結婚のはずの二人は、
ますます距離を縮めていったのだった。
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