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第23話 —王都との決別、「私はもう辺境の人ですわ」—
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第23話 —王都との決別、「私はもう辺境の人ですわ」—
王都からの使者が去って数日。
エルデ領は変わらず白い雪に覆われていたが──
ミレイユの胸の中だけは、静かに変化しつつあった。
暖炉の前で、一人。
膝の上には開いたままの本。
けれど文字はまったく頭に入ってこない。
(……あの使者たち、本当にひどかったわね)
「国のために尽くせ」
「王太子殿下に恥をかかせた責任をとれ」
「辺境などにいるのは身分相応ではない」
侮蔑や命令を当然のように口にする彼らに、
ミレイユは丁寧な微笑みで断った。
だが胸の奥では──
冷たい氷が静かに砕けるような音がしていた。
(ああ……もう無理ね
あの場所には……私はもう、戻れない)
本を閉じ、ミレイユは窓の外を見つめた。
雪は絶え間なく降り続け、
その向こうには、“自分の新しい居場所”が広がっている。
エルデ領。
寒い、厳しい、けれど温かい。
ロヴェルも家臣も領民も、
自分を“見捨てられた元婚約者”ではなく、
“ミレイユ”として扱ってくれる。
(……どうしてこんなに、居心地がいいのかしら)
胸がじんわりと温かくなる。
あの冷たい王都で感じたことのない温かさ。
そこへ──
ノックの音。
「ミレイユ。入るぞ」
ロヴェルが姿を見せた。
雪の結晶を肩に落としながら入ってくる姿は、
相変わらず無表情で、けれどミレイユには
“少し安心したような顔”に見えた。
「……先日の使者の件だが、
君に嫌な思いをさせたな」
「いえ。
むしろ……はっきりしましたわ」
ミレイユは微笑んだ。
「私はもう、王都とは関わりません。
あちらに戻るつもりもございませんの」
その声は、驚くほど澄んでいた。
ロヴェルの銀灰色の瞳が、
かすかに揺れた。
「……それは……本心か?」
「はい。
私はもう、王都の人間ではありませんわ」
ミレイユは胸に手を置く。
「わたくしは……
辺境の人間です。
エルデ領の……者ですわ。」
ロヴェルは息を呑んだ。
静かな雪の音しか聞こえない。
やがて、彼はゆっくりと歩み寄り、
ミレイユの前に立つ。
その顔には、
今まで見たことのないほど深い──
安堵に似た影があった。
「……ミレイユ。
君がそう言ってくれて……私は……」
そこまで言って、ロヴェルは言葉を止めた。
普段寡黙な男が、さらに言葉を失う。
だが、ミレイユにはわかった。
(ロヴェル様……
そんな顔をなさらないで……
まるで……“失うのが怖かった”みたいじゃないですの……)
胸の奥が、そっと震えた。
ロヴェルは目を伏せて言う。
「……ありがとう。
君の覚悟を、誇りに思う」
ミレイユの頬が、自然と赤くなる。
(誇りに……?
わたしのことを……?)
暖炉の炎が、二人の影を寄り添わせるように揺らした。
ミレイユは胸に手を当てて小さく息を吸い、
静かに答えた。
「こちらこそ……ありがとうございますわ。
わたくしを、この領地の……
この家の一員として扱ってくださって」
ロヴェルは目を上げ、
まっすぐにミレイユを見つめた。
その瞳が、優しい。
雪国の夜に咲いた、
静かな灯りのように。
そしてミレイユは悟った。
(ああ……もう私は……
“王都にいた頃の私”ではいられないのね)
この領地。
この人たち。
そして──ロヴェル。
それらが、自分の“帰る場所”になっていた。
ミレイユはひとつ、穏やかに微笑んだ。
「ロヴェル様。
これからも……よろしくお願いしますわ」
ロヴェルは一瞬だけ目を見開き、
そして深く頷いた。
「……ああ。
こちらこそ」
雪の夜に、
ふたりの心はそっと触れ合った──。
---
王都からの使者が去って数日。
エルデ領は変わらず白い雪に覆われていたが──
ミレイユの胸の中だけは、静かに変化しつつあった。
暖炉の前で、一人。
膝の上には開いたままの本。
けれど文字はまったく頭に入ってこない。
(……あの使者たち、本当にひどかったわね)
「国のために尽くせ」
「王太子殿下に恥をかかせた責任をとれ」
「辺境などにいるのは身分相応ではない」
侮蔑や命令を当然のように口にする彼らに、
ミレイユは丁寧な微笑みで断った。
だが胸の奥では──
冷たい氷が静かに砕けるような音がしていた。
(ああ……もう無理ね
あの場所には……私はもう、戻れない)
本を閉じ、ミレイユは窓の外を見つめた。
雪は絶え間なく降り続け、
その向こうには、“自分の新しい居場所”が広がっている。
エルデ領。
寒い、厳しい、けれど温かい。
ロヴェルも家臣も領民も、
自分を“見捨てられた元婚約者”ではなく、
“ミレイユ”として扱ってくれる。
(……どうしてこんなに、居心地がいいのかしら)
胸がじんわりと温かくなる。
あの冷たい王都で感じたことのない温かさ。
そこへ──
ノックの音。
「ミレイユ。入るぞ」
ロヴェルが姿を見せた。
雪の結晶を肩に落としながら入ってくる姿は、
相変わらず無表情で、けれどミレイユには
“少し安心したような顔”に見えた。
「……先日の使者の件だが、
君に嫌な思いをさせたな」
「いえ。
むしろ……はっきりしましたわ」
ミレイユは微笑んだ。
「私はもう、王都とは関わりません。
あちらに戻るつもりもございませんの」
その声は、驚くほど澄んでいた。
ロヴェルの銀灰色の瞳が、
かすかに揺れた。
「……それは……本心か?」
「はい。
私はもう、王都の人間ではありませんわ」
ミレイユは胸に手を置く。
「わたくしは……
辺境の人間です。
エルデ領の……者ですわ。」
ロヴェルは息を呑んだ。
静かな雪の音しか聞こえない。
やがて、彼はゆっくりと歩み寄り、
ミレイユの前に立つ。
その顔には、
今まで見たことのないほど深い──
安堵に似た影があった。
「……ミレイユ。
君がそう言ってくれて……私は……」
そこまで言って、ロヴェルは言葉を止めた。
普段寡黙な男が、さらに言葉を失う。
だが、ミレイユにはわかった。
(ロヴェル様……
そんな顔をなさらないで……
まるで……“失うのが怖かった”みたいじゃないですの……)
胸の奥が、そっと震えた。
ロヴェルは目を伏せて言う。
「……ありがとう。
君の覚悟を、誇りに思う」
ミレイユの頬が、自然と赤くなる。
(誇りに……?
わたしのことを……?)
暖炉の炎が、二人の影を寄り添わせるように揺らした。
ミレイユは胸に手を当てて小さく息を吸い、
静かに答えた。
「こちらこそ……ありがとうございますわ。
わたくしを、この領地の……
この家の一員として扱ってくださって」
ロヴェルは目を上げ、
まっすぐにミレイユを見つめた。
その瞳が、優しい。
雪国の夜に咲いた、
静かな灯りのように。
そしてミレイユは悟った。
(ああ……もう私は……
“王都にいた頃の私”ではいられないのね)
この領地。
この人たち。
そして──ロヴェル。
それらが、自分の“帰る場所”になっていた。
ミレイユはひとつ、穏やかに微笑んだ。
「ロヴェル様。
これからも……よろしくお願いしますわ」
ロヴェルは一瞬だけ目を見開き、
そして深く頷いた。
「……ああ。
こちらこそ」
雪の夜に、
ふたりの心はそっと触れ合った──。
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