社長室の蜜月

しおしお

文字の大きさ
8 / 25
第2章:社長の孤独と秘書の想い

2-3:食事の誘いと社長の孤独

しおりを挟む


出張や日々の業務を通じて少しずつ西園寺蓮との距離を縮めていた相沢結衣だったが、依然として蓮の冷徹で完璧な姿に気圧される日々を送っていた。そんな中、ある日の終業間際、蓮から突然の呼び出しが入る。

「相沢、少し付き合え。」

蓮にそう言われた結衣は一瞬戸惑った。いつもなら「付き合う」という言葉は業務上のことで使われるが、その日の彼のトーンは少し違った。

「えっと……どちらにですか?」
緊張しながら聞き返すと、蓮は短く答えた。
「食事だ。たまには外で落ち着いて話がしたい。」

上司からの誘いを断るわけにはいかない。結衣は急いで仕事を片付け、蓮と共に会社を出た。


---

向かったのは、都会の喧騒から少し離れた静かなイタリアンレストランだった。大人の雰囲気漂う店内で、蓮はさっとメニューを確認し、注文を済ませる。その流れるような動作に、結衣は相変わらずの完璧さを感じた。

「相沢、お前も好きなものを頼め。」
蓮の言葉に、結衣は緊張しながらもメニューを開く。こんな高級な店に来たのは初めてで、何を頼むべきか迷ってしまう。

「遠慮するな。ここではリラックスしろ。」
その一言に、結衣は少し肩の力を抜くことができた。蓮がリラックスしている様子を見て、彼もまた忙しい日常の中で息抜きが必要なのだと気づく。


---

料理が運ばれ、ワインが注がれると、蓮は静かに口を開いた。
「どうだ、秘書課の仕事には慣れたか?」

その質問に、結衣は素直に答えた。
「まだ完璧には程遠いですが、毎日少しずつ成長していると感じています。」

蓮は頷きながらフォークを置き、少しだけ視線を外した。
「お前はよくやっている。だが、無理をしすぎるな。」

その言葉に、結衣は胸がじんと熱くなるのを感じた。蓮の口から褒め言葉を聞けるとは思っていなかったからだ。

「ありがとうございます。社長にそう言っていただけると、自信が湧きます。」
結衣がそう答えると、蓮はふっと笑みを浮かべた。それはこれまで彼が見せたことのない柔らかい表情だった。


---

ワインを少しだけ口に含んだ蓮は、再び静かに話し始めた。
「お前はどう思う、秘書課という職場を?」

「え……?」
突然の質問に結衣は驚いたが、少し考えてから答えた。
「とても厳しい環境だと思います。でも、その分やりがいもありますし、学ぶことが多いです。」

「そうか。」
蓮は短く答えると、一瞬間を置いて、低い声で続けた。
「俺にとって、この会社は全てだ。だが、それと引き換えに失ったものも多い。」

その言葉に、結衣はハッとした。蓮の目が、いつも以上に遠くを見ているように感じたからだ。

「失ったもの、ですか……?」
思わず聞き返すと、蓮は少し視線を下げ、苦笑を浮かべた。
「家族だ。父からこの会社を引き継いだとき、家族との時間は全て消えた。俺が選んだ道だが、時々虚しくなることもある。」

その告白に、結衣は胸が締め付けられる思いだった。冷徹で完璧な蓮にも、孤独と後悔があることを初めて知ったからだ。


---

結衣は自分に何ができるのかを考えた。だが、まだ新米秘書である自分が蓮にできることは少ないように思えた。けれど、勇気を出して言葉を紡いだ。

「社長……私はまだ何もできませんが、これからもっと努力して、少しでも社長の負担を減らせるように頑張ります。」

その言葉に、蓮は目を細めて結衣を見つめた。そして、静かに言った。
「ありがとう。そう言ってくれるだけで十分だ。」

蓮の口元には、微かな笑みが浮かんでいた。それは、結衣にとって今まで見たどの表情よりも優しいものだった。


---

食事を終えて店を出る頃には、夜の街が静かに輝いていた。蓮は歩きながらふと立ち止まり、結衣に言った。

「お前には期待している。これからも、俺のそばで仕事を続けてくれ。」

その言葉に、結衣の心が大きく揺れた。これまでの厳しい日々が報われた気がすると同時に、蓮という存在が自分にとって特別なものになりつつあることを感じたからだ。

「はい、精一杯頑張ります。」
結衣はそう答えながら、蓮と共に歩き出した。

冷たい上司だと思っていた彼の孤独を知ったことで、結衣の中に芽生えたのは「もっと支えたい」という新たな決意だった。そして、それが彼女自身の気持ちにも変化をもたらしていくことになる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。 見ると幸せになれるという 珍しい月 ブルームーン。 月の光に照らされた、たったひと晩の それは奇跡みたいな恋だった。 ‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆ 藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト 来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター 想のファンにケガをさせられた小夜は、 責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。 それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。 ひと晩だけの思い出のはずだったが……

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

君までの距離

高遠 加奈
恋愛
普通のOLが出会った、特別な恋。 マンホールにはまったパンプスのヒールを外して、はかせてくれた彼は特別な人でした。

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

悪い魔法使い、その愛妻

井中かわず
恋愛
ヨモリギ王国 国民の半数以上が魔法使いという特徴をもった、平和な島国での物語。 孤児の小間使いリコはひょんなことから、恐ろしい異端の魔法使いヨルア・ルウの元に嫁ぐことになった。 執拗なほど愛情を注いでくるヨルアに戸惑いながらも、少しずつリコは心を開いていく。

『さよなら、彼に依存していた私―30日間の失恋回復ストーリー』

月下花音
恋愛
別れた日から30日。毎日、少しずつ「本当の私」に出会っていく 「嫌いになりたくないから、別れよう」 2年間付き合った彼氏・優也にそう告げられた日、私の世界は色を失った。 コーヒーは苦く、鏡に映る自分は知らない女で、スマホの通知音に心臓が跳ねる。 彼の好きだったチョコミントを避け、彼の痕跡が残る部屋で、ただ泣いていた。 でも、私は決めた。30日間で、私を取り戻す。 Day 1、苦いコーヒーを飲み干した。 Day 5、スマホを遠ざけた。 Day 7、彼のSNSを削除した。 Day 9、部屋の模様替えをした。 Day 13、彼のための香りを捨て、私の香りを選んだ。 Day 17、自分のために、花を買った。 Day 22、長い髪を切り、新しいスマホに変えた。 Day 29、新しい出会いを、恐れずに楽しめた。 Day 30、ストロベリーアイスを食べながら、心から笑っていた。 小さな「さよなら」を積み重ねるたび、私は変わっていく。 「彼に依存していた私」から、「私自身でいられる私」へ。 これは、失恋から立ち直る物語ではありません。 誰かのために生きていた女性が、自分のために生きることを選ぶ物語です。 【全31話完結】こころの30日間を追体験してください。

お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚

ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。 五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。 ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。 年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。 慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。 二人の恋の行方は……

不遇の花詠み仙女は後宮の華となる

松藤かるり
恋愛
髙の山奥にある華仙一族の隠れ里に住むは、華仙術に秀でた者の証として花痣を持ち生まれた娘、華仙紅妍。 花痣を理由に虐げられる生活を送っていた紅妍だが、そこにやってきたのは髙の第四皇子、秀礼だった。 姉の代わりになった紅妍は秀礼と共に山を下りるが、連れて行かれたのは死してなお生に縋る鬼霊が巣くう宮城だった。 宮城に連れてこられた理由、それは帝を苦しめる禍を解き放つこと。 秀礼の依頼を受けた紅妍だが簡単には終わらず、後宮には様々な事件が起きる。 花が詠みあげる記憶を拾う『花詠み』と、鬼霊の魂を花に渡して祓う『花渡し』。 二つの華仙術を武器に、妃となった紅妍が謎を解き明かす。 ・全6章+閑話2 13万字見込み ・一日3回更新(9時、15時、21時) 2月15日9時更新分で完結予定 *** ・華仙紅妍(かせんこうけん)  主人公。花痣を持つ華仙術師。  ある事情から華仙の名を捨て華紅妍と名乗り、冬花宮に住む華妃となる。 ・英秀礼(えいしゅうれい)  髙の第四皇子。璋貴妃の子。震礼宮を与えられている。 ・蘇清益(そ しんえき)  震礼宮付きの宦官。藍玉の伯父。 ・蘇藍玉(そ らんぎょく)  冬花宮 宮女長。清益の姪。 ・英融勒(えい ゆうろく)  髙の第二皇子。永貴妃の子。最禮宮を与えられている。 ・辛琳琳(しん りんりん)  辛皇后の姪。秀礼を慕っている。

処理中です...