白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお

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◆第1話 政略結婚の駒

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 窓の向こうで揺れる春の陽光は、誰にでも平等に降りそそぐはずなのに――私の部屋だけは、やけに冷たく感じられた。

 侯爵家の令嬢、リオラ・エヴァレット。
 そう呼ばれるたびに、胸の奥がきゅっと縮む。

 令嬢といっても、家族の扱いは“便利な駒”だった。
 社交界の付き添い、父の都合で書類整理、母の代わりに慈善活動の顔出し。
 次々押しつけられる雑務に、眠る時間さえ削られる。

 ――今日も、朝から嫌な予感がしていた。

「リオラ。話がある」

 扉が勢いよく開き、父が部屋に入ってきた。
 声の調子でわかる。これは、また“決定事項の通達”だ。

「お前、結婚しろ」

 予想の斜め上から落とされた言葉に、一瞬呼吸が止まる。

「……は、結婚……ですか?」

「そうだ。男爵家から申し出があった。家の体面を保つためにも、お前が嫁ぐのが一番だ」

 ため息を隠そうともしない父は、まるで家具でも選ぶような口ぶりだった。

「ですが、お相手のことを私は何も――」

「関係ない。どうせお前は家の役に立つしか能がない。だったら結婚相手くらい役に立て」

 胸の奥に、冷たいものが広がった。

 私の人生は、誰かの都合で決められる。
 幼い頃から何度も味わってきた無力感が、また肩に重く積もる。

「……わたしに、選ぶ権利は……?」

「ない」

 きっぱりと切り捨てた父は、書類を机に置いて去っていった。
 そこには、単語のように淡々と綴られた“婚姻承諾書”だけが残されていた。

 気づけば、指先が震えていた。

 ――自由がほしい。

 ただ、それだけなのに。
 誰かの思惑のために生きるのは、もう限界なのに。

 私のか細い呟きは、誰にも届かないまま溶けていった。

 *

 一週間後。
 私は、婚約相手の男爵家へ向かう馬車に揺られていた。

 屋敷に到着すると、静かな空気の中で、一人の男性が玄関前に立っていた。
 若いが威圧感はなく、むしろ落ち着いた雰囲気の人。
 淡い灰色の瞳が、私をまっすぐに見つめる。

「初めまして。ラディス・ヴェルノート男爵だ」

 低く穏やかな声。
 緊張で言葉を失った私に、彼は続けた。

「先に伝えておく。私は――干渉しない結婚を望んでいる」

「……干渉、しない……?」

「互いの生活に踏み込まず、自由を尊重する夫婦関係だ。
 君が望むなら、領内で好きに過ごしていい。休んでも、趣味に時間を使っても構わない」

 胸の奥で、何かが小さく音を立てた。

 自由――本当に、言った?

 父から押し付けられた結婚だったのに、目の前の男性は、私の“願い”を最初に尊重してくれる。

「……どうして、そのようなお考えなのですか?」

「私にも事情がある。だが、君を縛る気はない。
 干渉される結婚を望まないなら、互いに自由でいよう」

 まるで、溜め込んでいた息がゆっくり抜けていくようだった。

 こんな結婚もあるのだろうか。
 “令嬢としてではなく、ただの私として”生きられるのだろうか。

 想像しただけで胸が軽くなる。

「……はい。よろしくお願いいたします、ラディス様」

 そう答えた瞬間、ラディスは静かに微笑んだ。
 そのわずかな笑みが、春の光よりやさしく見えたのは錯覚ではないと思う。

 これが――白い結婚の始まり。

 干渉されない結婚生活。
 はずなのに、この人の声は妙に心地よくて。

 胸の奥で小さく跳ねた鼓動の意味は、まだ気づかないふりをした。


---

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