白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお

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第3話 新居で見つけた小さな自由

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 ラディス様の案内で、男爵家の屋敷を歩く。
 重厚すぎず、無駄を排した落ち着いた内装で、どこか“息がしやすい”空気があった。

「館内は自由に見て回って構わない。気に入った場所を、君の休息の場にするといい」

「ありがとうございます……」

 自由――
 その言葉ひとつが、まだ胸の奥でほわりと温かくなる。

 使用人たちも皆、親しみやすい雰囲気だった。
 特に侍女のエミが、思った以上に元気で近い。

「リオラ様! 私は今日から専属の侍女、エミです!
 どうぞ何でも言ってくださいね、遠慮はなしです!」

 遠慮は……すると怒られそうな勢いだ。

「え、ええと……では、お手柔らかに」

「任せてください! リオラ様の生活は、私が快適にしてみせます!」

 頼もしい……のだけれど、少しだけ圧が強い。

 そんな様子を見ながら、ラディス様は目元をわずかにゆるめていた。

 *

 案内された私室は、想像していたよりずっと居心地がよかった。
 大きな窓から光が入り、淡い色調の調度品が優しく馴染む。

「こちらがリオラ様のお部屋です。気に入られましたか?」

「……はい。とても」

 本当の意味で“私の部屋”と呼べる場所がある。
 それだけで胸がじんわりする。

「もし家具を動かしたいとか、色を変えたいとかありましたら言ってくださいね!」

「そ、そこまで……?」

「はい! リオラ様が暮らしやすいのが一番です!」

 こんなふうに誰かに配慮されるのは、いつ以来だろう。

「それと――」

 エミが意味ありげに微笑む。

「旦那様のお部屋は、このすぐ近くですよ♡」

「えっ」

「距離が近いほうが安心かなと思われたのでは?
 旦那様、いつもは無口なのに、リオラ様の話題になると急に饒舌でして」

「ま、まさか……!」

 そんなはずはない。
 干渉しない夫婦なのだから。

 なのに胸がなぜかざわつくのは、きっと気のせいだ。

 *

 部屋に落ち着いたあと、私は屋敷内を自由に歩いてみることにした。
 重苦しさがなく、使用人たちも気軽に挨拶してくれる。

「リオラ様、お散歩ですか?」

「ええ。少し見て回りたくて」

「どうぞどうぞ! 庭園が特に人気ですよ。皆の憩いの場です!」

 言われるまま庭へ出てみると、春の花々が柔らかく咲き誇っていた。
 侯爵家では“立ち入り禁止エリア”のほうが多く、庭でのびのび歩くなど許されなかった私は、ふと足が止まってしまう。

 自由、ってこういうものだったの?

 胸がほんの少し、きゅっと熱くなる。
 気づけば、息が深く吸えるような気さえした。

 そのとき――

「リオラ」

 振り向くと、ラディス様が立っていた。
 庭の緑を背景にすると、落ち着いた姿がさらに柔らかく見える。

「お部屋は気に入ったか」

「はい、本当に……。こんなに自由に過ごしていいのだと思うと、不思議な感覚で」

「その感覚は大切にしていい。
 君には、今まで縛られすぎていた時間があるのだろう?」

 言葉が喉に詰まった。

 ――なぜ、この人はそんなに自然に“理解者”のような口調をするの?

「庭が好きなら、いつでも散歩してくれ。君がここで笑えるなら、それに越したことはない」

 ラディス様はそう言って、ふと視線をそらす。
 耳が、ほんの少し赤い気がした。

「……笑っていただけると、悪くないものだ」

 ぼそりとしたその言葉が風に溶けて、私は小さく目を見開いた。

 私の笑顔が……悪くない?

 白い結婚のはずなのに、胸の鼓動はなぜか落ち着かなくて――
 風が、少しだけ甘い香りに変わった気がした。


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