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第13話 旦那様、表情に出てます
しおりを挟む翌日。
焼き上げたベリーパウンドケーキがあまりに上手くいったので、私は少しだけ村にもお裾分けすることにした。
「リオラ様、今日も良い香りですね!」
市場でよく顔を合わせる青年・ルークが、満面の笑みで出迎えてくれた。
彼は明るくて人当たりが良く、村の誰からも好かれている青年だ。
「昨日のお菓子なんですが……余ったので良ければどうぞ」
「えっ、いいんですか!? 嬉しいなぁ!
リオラ様の作るお菓子って、本当に美味しいんですよね!」
「そ、そんな……買った材料のおかげで……」
「いえ、腕ですよ。旦那様が羨ましいなあ……」
「えっ?」
「こんな奥様の手作りを食べられるなんて、贅沢ですよ!」
(お、お奥様!?)
突然の言葉に顔が真っ赤になる。
「ち、違います! 白い結婚ですし、そんな……」
「でも旦那様、いつもリオラ様のこと気にしてますよ?」
「えっ?」
「市場でもそうでしたし、村の人たちはみんな知ってますよ。
“旦那様は奥様のこと、大切にしてる”って」
胸がどくん、と跳ねた。
(ま、周りにも……そう見えるの……?)
その瞬間──
「……何の話をしている?」
背中に、低く落ちる声。
ゆっくり振り返ると、
そこにはラディス様が立っていた。
(えっ……!? い、いつから……!?)
青年の笑顔が一瞬で固まる。
「ら、ラディス様! これはその……!」
ルークが慌ててケーキを掲げた。
「リオラ様にいただいたケーキがあまりに美味しくて……つい!」
「そうか」
一見落ち着いた声。
だが──
顔が露骨に固まっている。
(え、ちょ……ラディス様!?)
「り、リオラ様のお菓子、本当に絶品でして……えへへ……」
青年が笑うほど、ラディス様の目つきが鋭さを増していく。
「そうか。……随分と、楽しそうだな」
「ひ、ひえっ……!? い、いえっ!!」
(や、やだこの空気……!)
青年は腰を引いて後ずさった。
「ほ、ほんじゃあ僕これで失礼します!!
リオラ様、またケーキお願いします!!」
「あ、あの……!」
青年は脱兎のごとく走り去っていった。
後に残されたのは、
私と──
嫉妬で顔が完全にこわばった旦那様。
「……楽しそうだったな」
「ら、ラディス様!? あれはただのお裾分けで!」
「“奥様の手作り菓子が羨ましい”と言っていた」
(聞こえてた……!?)
「市場でもそうだが……なぜ、ああも馴れ馴れしい?」
「い、いや、ルークさんは村のみんなと仲が良くて……」
「……そうか」
返事は短いのに、声の温度がいつもより低い。
(こ、これ……完全に嫉妬してるんじゃ……)
胸がざわざわする。
今まで見たことのないラディス様。
その表情は……ほとんど拗ねているようにすら見えた。
「す、すみません……嫌な思いをさせてしまって」
「嫌ではない」
「えっ?」
「ただ──」
ラディス様は視線を逸らし、低く呟いた。
「……君が他の男と笑っているのを見るのは、あまり好きではない」
「──っ!」
心臓が跳ねた音が、自分でもはっきり聞こえた。
(ちょ……そんな……それは……)
言葉が出てこない。
「私の……わがままだ」
そう呟いたラディス様の耳が、ほんのり赤く見えた。
(や、やだ……この人、可愛い……!)
胸の奥で、小さな火が灯るような感覚が広がっていく。
嫉妬なんて、困惑するはずなのに……
なぜか嬉しかった。
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