15 / 32
第15話 暗闇で触れたぬくもり
しおりを挟むその夜は不思議なほど静かだった。
屋敷の灯りも暖炉の火も、穏やかに揺れていて──
まるで嵐の前のような、妙な緊張感を空気が抱えていた。
「今日は少し……空気が重い気がするわね」
そんなつぶやきが口をついた、その瞬間。
——バンッ!!
小さな破裂音とともに、
屋敷中の灯りが一斉に消えた。
「きゃっ……!」
暗闇が急に押し寄せ、世界がまっ黒に沈む。
(魔力障害……!?)
この地域ではまれに、魔力の乱れで灯りが落ちることがある。
けれど、こんなに突然全てが消えるのは初めてだった。
「リオラ……どこだ?」
暗闇の奥から、低くて少し焦った声が響いた。
「ラディス様……!」
声を返した瞬間。
腕の中に、引き寄せられた。
「っ……!」
硬くて大きな胸板に抱きしめられて、息が止まる。
「すまない。驚かせたか……?」
「い、いいえ……でも……あの……」
(ち、近い……!)
暗闇だからこそ余計に感じる、体温。
胸に押し当てられる頬が火照っていく。
「暗い場所は危ない。……離れないでくれ」
耳元に落とされる声は、いつもの冷静さを保ちながらも、
どこか焦りを含んでいた。
「ラディス、様……こんな……」
言葉にならない。
息遣いが近い。
胸の鼓動が、直に伝わってくる。
(だめ……こんなの……意識してしまう……)
ラディス様も、私の腰に回した手に力を込めた。
「……怖くないか?」
「こ、怖くは……ないです」
「そうか。よかった……」
安堵が混ざった声が、胸に響いた。
しばらく暗闇に身を預けていると、
彼の鼓動が少し早いことに気づく。
(え……これ……)
私のせい……?
考えた途端、自分の心臓も跳ねて、
体がさらに熱くなる。
「リオラ……」
「は、はい……」
暗闇のせいで、声と気配ばかりが近く感じる。
「こんな状況で言うべきではないが……
君に何かあればと思うと……胸の奥がざわつく」
「っ……!」
視覚が遮られた分、言葉がまっすぐ刺さる。
「……大切なんだ」
暗闇で聞くその一言は、
光よりも強い。
息が止まった。
何も見えないはずなのに、
ラディス様の表情が浮かんでしまう。
(こんなの……だめ……心が追いつかない……)
けれど、離れようとすると、
細い腰を掴む手がさらに強くなった。
「……もう少し、このままいてくれないか」
その声音には、普段見せない弱さがあった。
胸に触れる鼓動。
耳に落ちる息。
もう、逃げられないほど近い距離。
私は、小さく頷いてしまった。
「……わかりました」
暗闇の中で、彼の呼吸がほんの少しだけ震えたように感じた。
それから数分後、屋敷の灯りがすっと戻ってきた。
けれど──
抱きしめる腕だけは、しばらく離れなかった。
14
あなたにおすすめの小説
【完結】「お前を愛することはない」と言われましたが借金返済の為にクズな旦那様に嫁ぎました
華抹茶
恋愛
度重なる不運により領地が大打撃を受け、復興するも被害が大きすぎて家は多額の借金を作ってしまい没落寸前まで追い込まれた。そんな時その借金を肩代わりするために申し込まれた縁談を受けることに。
「私はお前を愛することはない。これは契約結婚だ」
「…かしこまりました」
初めての顔合わせの日、開口一番そう言われて私はニコラーク伯爵家へと嫁ぐことになった。
そしてわずか1週間後、結婚式なんて挙げることもなく籍だけを入れて、私―アメリア・リンジーは身一つで伯爵家へと移った。
※なろうさんでも公開しています。
冷酷王太子に婚約破棄された令嬢は、辺境で出会った隣国の将軍に一途に愛される
usako
恋愛
王太子アルノルトの婚約者として完璧に振る舞い続けた公爵令嬢エリシア。しかし、ある日突然、「心から愛する女性ができた」と婚約を一方的に破棄される。王都で笑われ、侮られ、追い出されるように実家を出たエリシアが辿り着いたのは、魔獣が出没する辺境の砦。
そこで出会ったのは、無骨だが誠実な隣国の将軍ライアンだった。彼の不器用な優しさに触れ、少しずつ心を取り戻すエリシア。
一方、王都では彼女を失った王太子が後悔とともに破滅への道を歩み始める——。
冷遇令嬢が愛を取り戻す「ざまぁ」と「溺愛」の王道ストーリー。
勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~
藤 ゆみ子
恋愛
グラーツ公爵家に嫁いたティアは、夫のシオンとは白い結婚を貫いてきた。
それは、シオンには幼馴染で騎士団長であるクラウドという愛する人がいるから。
二人の尊い関係を眺めることが生きがいになっていたティアは、この結婚生活に満足していた。
けれど、シオンの父が亡くなり、公爵家を継いだことをきっかけに離縁することを決意する。
親に決められた好きでもない相手ではなく、愛する人と一緒になったほうがいいと。
だが、それはティアの大きな勘違いだった。
シオンは、ティアを溺愛していた。
溺愛するあまり、手を出すこともできず、距離があった。
そしてシオンもまた、勘違いをしていた。
ティアは、自分ではなくクラウドが好きなのだと。
絶対に振り向かせると決意しながらも、好きになってもらうまでは手を出さないと決めている。
紳士的に振舞おうとするあまり、ティアの勘違いを助長させていた。
そして、ティアの離縁大作戦によって、二人の関係は少しずつ変化していく。
【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。
王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。
教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。
惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。
簡単に裏切る人になんてもう未練はない。
むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。
捨てられ令嬢は微笑む ——婚約破棄ののち、氷の王太子に独占されるまで——
usako
恋愛
名門侯爵家の令嬢リディアは、婚約者である王太子レオンから突然の婚約破棄を告げられる。理由は「平凡で退屈だから」。
傷心のリディアは領地に引きこもり、静かに暮らすつもりだった。しかし、冷徹と評判の第二王子エリアスが突然現れ、「俺がおまえをもらう」と告げる。
心を閉ざした令嬢と、他人に興味を示さなかった王子――二人の絆が深まるほど、氷の王国に亀裂が走る。
そして、あの婚約破棄の裏に潜む陰謀が暴かれるとき、かつての恋人たちの立場は逆転する。
「退屈? 本当にそう思うなら、見ていればいい」
──捨てられた令嬢が、王国一の寵愛を手にするまでの物語。
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる