白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお

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第15話 暗闇で触れたぬくもり

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 その夜は不思議なほど静かだった。

 屋敷の灯りも暖炉の火も、穏やかに揺れていて──
 まるで嵐の前のような、妙な緊張感を空気が抱えていた。

「今日は少し……空気が重い気がするわね」

 そんなつぶやきが口をついた、その瞬間。

 ——バンッ!!

 小さな破裂音とともに、
 屋敷中の灯りが一斉に消えた。

「きゃっ……!」

 暗闇が急に押し寄せ、世界がまっ黒に沈む。

(魔力障害……!?)

 この地域ではまれに、魔力の乱れで灯りが落ちることがある。
 けれど、こんなに突然全てが消えるのは初めてだった。

「リオラ……どこだ?」

 暗闇の奥から、低くて少し焦った声が響いた。

「ラディス様……!」

 声を返した瞬間。

 腕の中に、引き寄せられた。

「っ……!」

 硬くて大きな胸板に抱きしめられて、息が止まる。

「すまない。驚かせたか……?」

「い、いいえ……でも……あの……」

(ち、近い……!)

 暗闇だからこそ余計に感じる、体温。
 胸に押し当てられる頬が火照っていく。

「暗い場所は危ない。……離れないでくれ」

 耳元に落とされる声は、いつもの冷静さを保ちながらも、
 どこか焦りを含んでいた。

「ラディス、様……こんな……」

 言葉にならない。

 息遣いが近い。
 胸の鼓動が、直に伝わってくる。

(だめ……こんなの……意識してしまう……)

 ラディス様も、私の腰に回した手に力を込めた。

「……怖くないか?」

「こ、怖くは……ないです」

「そうか。よかった……」

 安堵が混ざった声が、胸に響いた。

 しばらく暗闇に身を預けていると、
 彼の鼓動が少し早いことに気づく。

(え……これ……)

 私のせい……?

 考えた途端、自分の心臓も跳ねて、
 体がさらに熱くなる。

「リオラ……」

「は、はい……」

 暗闇のせいで、声と気配ばかりが近く感じる。

「こんな状況で言うべきではないが……
 君に何かあればと思うと……胸の奥がざわつく」

「っ……!」

 視覚が遮られた分、言葉がまっすぐ刺さる。

「……大切なんだ」

 暗闇で聞くその一言は、
 光よりも強い。

 息が止まった。

 何も見えないはずなのに、
 ラディス様の表情が浮かんでしまう。

(こんなの……だめ……心が追いつかない……)

 けれど、離れようとすると、
 細い腰を掴む手がさらに強くなった。

「……もう少し、このままいてくれないか」

 その声音には、普段見せない弱さがあった。

 胸に触れる鼓動。
 耳に落ちる息。

 もう、逃げられないほど近い距離。

 私は、小さく頷いてしまった。

「……わかりました」

 暗闇の中で、彼の呼吸がほんの少しだけ震えたように感じた。

 それから数分後、屋敷の灯りがすっと戻ってきた。

 けれど──

 抱きしめる腕だけは、しばらく離れなかった。

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