16 / 32
第16話 朝が来ても、胸の鼓動は止まらない
しおりを挟む翌朝。
窓辺の光は穏やかで、昨夜の暗闇が嘘のように静かだった。
けれど──
(顔を合わせるのが……こわい……)
私は鏡の前で、何度も自分の頬を触った。
(だって……昨日、あんなに近くで……抱きしめられて……)
思い出すだけで胸がぎゅっと縮む。
いや、それよりも──
(“大切なんだ”なんて……言われたら……)
心臓が飛び出しそう。
「リオラ様、朝食のお時間ですよ~」
エミの明るい声が近づいてくる。
(あああ……ラディス様、いるよね絶対……)
私が戸惑っていると、エミが部屋に入り、にやりと笑った。
「なんですかその顔は。“昨日の旦那様を思い出してます”顔ですよ?」
「ち、違います!」
「じゃあ朝食堂で旦那様のお顔、ちゃんと見られますね?」
「えっ……それは……その……」
「はい図星!」
エミに軽々と心を読まれてしまい、私はタオルで顔を隠した。
---
◆朝食の席で、ぎこちなさ全開
食堂へ行くと、ラディス様はすでに席についていた。
「……おはようございます、ラディス様」
「……おはよう、リオラ」
いつもより、声が低い。
いつもより、目が合うまでの時間が長い。
そして目が合った瞬間、二人してビクッと視線を逸らした。
(無理……近すぎる……昨日の記憶が全部よみがえる……!)
「……眠れたか?」
「は、はい……なんとか……」
「そうか」
静かに言いながら、ラディス様の耳がわずかに赤い。
(な……なんで耳まで赤いの……!?
あのラディス様が昨日のこと意識してるの……?)
その事実が胸をくすぐって、息がしづらい。
気まずさで距離を取ろうと席を立とうとした瞬間。
「リオラ」
「ひゃっ!」
珍しく、強めの声で呼ばれてしまった。
「……昨日のことだが」
(こ、来た……話されちゃう……!)
ラディス様は少し考えるように目を伏せて──
「すまなかった。無理に抱き寄せて……驚かせた」
(え……謝る方向なの……?)
「い、いえっ! あれはその……!
怖かっただけで……ラディス様は悪くありません!」
「そうか」
その一言のあと──
ラディス様の肩が、ふっと少しだけ力を抜いた。
ああ、この人も……緊張していたんだ。
(そんなの……ずるい)
胸がじんわり、温かくなる。
---
◆エミ、ついに“仲良し作戦”を決行する
朝食を終えると、エミが両手を叩いて宣言した。
「はいっ! お二人とも、ちょっと来てくださーい!」
「エミ?」
「何をするつもりだ?」
警戒するラディス様をよそに、エミはずいずいと二人の間に割って入ってきた。
「お二人、距離が縮まりすぎて逆にぎこちない!
というわけで──“意図的に自然な共同作業をして、仲良くなる作戦”を実行します!」
「な、なんですかその作戦……」
「リオラ様、昨日のお菓子で旦那様も感動してましたよね?」
「えっ……そう、なんですか?」
思わずラディス様へ視線を向ける。
「……ああ。非常に美味しかった」
その一言に、心臓が跳ねる。
ラディス様は視線を逸らしつつも、わずかに微笑んでいた。
「というわけで! 今日は“二人で”お茶の時間を作るんです!」
「えっ!?」「……二人で?」
「はい、二人で!」
エミは勝手にテーブルセットを始めた。
「旦那様にはポットを温めてもらって、リオラ様はケーキを切って──
はいはい近づいて近づいて!」
「エミ……!」
「おい、エミ。無理をさせるな」
「無理じゃありませんよ。むしろ控えめなくらいです」
ぐいぐい距離を縮められ、
気づけばラディス様がすぐ隣に立っていた。
手が、触れそう。
(あ……また……)
胸が熱くなる。
私がケーキを切っていると、横からラディス様の低い声。
「昨日の……暗い中で……君を抱いた時」
「ひゃっ……!」
「……怖がらせたくなかった。
でも、離れたくなかったのも……事実だ」
(ラ……ラディス様……!?)
顔が真っ赤になる。
「昨日より……近くにいるのが、いい」
見上げた先の瞳は、
いつもの冷静さよりもずっと柔らかくて──
甘い。
(こんなの……だめ……落ちてしまう……)
でも、目をそらせなかった。
笑顔を向けると──
ラディス様の表情がとろけるように柔らかくなった。
「……っ」
(な、なんで……そんな甘い顔するの……!?)
胸が跳ねすぎて苦しいくらい。
「その笑顔……好きだ」
「っっ!!!!!」
膝が崩れそうになった。
暗闇よりもまぶしい距離。
触れなくても伝わる体温。
エミが遠くで、にやにやしながら呟いた。
「はい、もう両想い確定~~~」
(やめてエミィィ……!!)
でも──
否定できなかった。
胸の奥の温かさが、
もう止められないくらい膨らんでいたから。
14
あなたにおすすめの小説
【完結】「お前を愛することはない」と言われましたが借金返済の為にクズな旦那様に嫁ぎました
華抹茶
恋愛
度重なる不運により領地が大打撃を受け、復興するも被害が大きすぎて家は多額の借金を作ってしまい没落寸前まで追い込まれた。そんな時その借金を肩代わりするために申し込まれた縁談を受けることに。
「私はお前を愛することはない。これは契約結婚だ」
「…かしこまりました」
初めての顔合わせの日、開口一番そう言われて私はニコラーク伯爵家へと嫁ぐことになった。
そしてわずか1週間後、結婚式なんて挙げることもなく籍だけを入れて、私―アメリア・リンジーは身一つで伯爵家へと移った。
※なろうさんでも公開しています。
冷酷王太子に婚約破棄された令嬢は、辺境で出会った隣国の将軍に一途に愛される
usako
恋愛
王太子アルノルトの婚約者として完璧に振る舞い続けた公爵令嬢エリシア。しかし、ある日突然、「心から愛する女性ができた」と婚約を一方的に破棄される。王都で笑われ、侮られ、追い出されるように実家を出たエリシアが辿り着いたのは、魔獣が出没する辺境の砦。
そこで出会ったのは、無骨だが誠実な隣国の将軍ライアンだった。彼の不器用な優しさに触れ、少しずつ心を取り戻すエリシア。
一方、王都では彼女を失った王太子が後悔とともに破滅への道を歩み始める——。
冷遇令嬢が愛を取り戻す「ざまぁ」と「溺愛」の王道ストーリー。
【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────
捨てられ令嬢は微笑む ——婚約破棄ののち、氷の王太子に独占されるまで——
usako
恋愛
名門侯爵家の令嬢リディアは、婚約者である王太子レオンから突然の婚約破棄を告げられる。理由は「平凡で退屈だから」。
傷心のリディアは領地に引きこもり、静かに暮らすつもりだった。しかし、冷徹と評判の第二王子エリアスが突然現れ、「俺がおまえをもらう」と告げる。
心を閉ざした令嬢と、他人に興味を示さなかった王子――二人の絆が深まるほど、氷の王国に亀裂が走る。
そして、あの婚約破棄の裏に潜む陰謀が暴かれるとき、かつての恋人たちの立場は逆転する。
「退屈? 本当にそう思うなら、見ていればいい」
──捨てられた令嬢が、王国一の寵愛を手にするまでの物語。
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~
藤 ゆみ子
恋愛
グラーツ公爵家に嫁いたティアは、夫のシオンとは白い結婚を貫いてきた。
それは、シオンには幼馴染で騎士団長であるクラウドという愛する人がいるから。
二人の尊い関係を眺めることが生きがいになっていたティアは、この結婚生活に満足していた。
けれど、シオンの父が亡くなり、公爵家を継いだことをきっかけに離縁することを決意する。
親に決められた好きでもない相手ではなく、愛する人と一緒になったほうがいいと。
だが、それはティアの大きな勘違いだった。
シオンは、ティアを溺愛していた。
溺愛するあまり、手を出すこともできず、距離があった。
そしてシオンもまた、勘違いをしていた。
ティアは、自分ではなくクラウドが好きなのだと。
絶対に振り向かせると決意しながらも、好きになってもらうまでは手を出さないと決めている。
紳士的に振舞おうとするあまり、ティアの勘違いを助長させていた。
そして、ティアの離縁大作戦によって、二人の関係は少しずつ変化していく。
王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
鈴宮(すずみや)
恋愛
王族の秘書(=内侍)として城へ出仕することになった、公爵令嬢クララ。ところが内侍は、未来の妃に箔を付けるために設けられた役職だった。
おまけに、この国の王太子は未だ定まっておらず、宰相の娘であるクララは第3王子フリードの内侍兼仮の婚約者として王位継承戦へと巻き込まれていくことに。
けれど、運命の出会いを求めるクララは、政略結婚を受け入れるわけにはいかない。憧れだった宮仕えを諦めて、城から立ち去ろうと思っていたのだが。
「おまえはおまえの目的のために働けばいい」
フリードの側近、コーエンはそう言ってクララに手を差し伸べる。これはフリードが王太子の座を獲得するまでの期間限定の婚約。その間にクララは城で思う存分運命の出会いを探せば良いと言うのだ。
クララは今日も、運命の出会いと婚約破棄を目指して邁進する。
【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。
王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。
教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。
惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。
簡単に裏切る人になんてもう未練はない。
むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる