白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお

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第16話 朝が来ても、胸の鼓動は止まらない

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 翌朝。
 窓辺の光は穏やかで、昨夜の暗闇が嘘のように静かだった。

 けれど──

(顔を合わせるのが……こわい……)

 私は鏡の前で、何度も自分の頬を触った。

(だって……昨日、あんなに近くで……抱きしめられて……)

 思い出すだけで胸がぎゅっと縮む。
 いや、それよりも──

(“大切なんだ”なんて……言われたら……)

 心臓が飛び出しそう。

「リオラ様、朝食のお時間ですよ~」

 エミの明るい声が近づいてくる。

(あああ……ラディス様、いるよね絶対……)

 私が戸惑っていると、エミが部屋に入り、にやりと笑った。

「なんですかその顔は。“昨日の旦那様を思い出してます”顔ですよ?」

「ち、違います!」

「じゃあ朝食堂で旦那様のお顔、ちゃんと見られますね?」

「えっ……それは……その……」

「はい図星!」

 エミに軽々と心を読まれてしまい、私はタオルで顔を隠した。


---

◆朝食の席で、ぎこちなさ全開

 食堂へ行くと、ラディス様はすでに席についていた。

「……おはようございます、ラディス様」

「……おはよう、リオラ」

 いつもより、声が低い。

 いつもより、目が合うまでの時間が長い。

 そして目が合った瞬間、二人してビクッと視線を逸らした。

(無理……近すぎる……昨日の記憶が全部よみがえる……!)

「……眠れたか?」

「は、はい……なんとか……」

「そうか」

 静かに言いながら、ラディス様の耳がわずかに赤い。

(な……なんで耳まで赤いの……!?
 あのラディス様が昨日のこと意識してるの……?)

 その事実が胸をくすぐって、息がしづらい。

 気まずさで距離を取ろうと席を立とうとした瞬間。

「リオラ」

「ひゃっ!」

 珍しく、強めの声で呼ばれてしまった。

「……昨日のことだが」

(こ、来た……話されちゃう……!)

 ラディス様は少し考えるように目を伏せて──

「すまなかった。無理に抱き寄せて……驚かせた」

(え……謝る方向なの……?)

「い、いえっ! あれはその……!
 怖かっただけで……ラディス様は悪くありません!」

「そうか」

 その一言のあと──
 ラディス様の肩が、ふっと少しだけ力を抜いた。

 ああ、この人も……緊張していたんだ。

(そんなの……ずるい)

 胸がじんわり、温かくなる。


---

◆エミ、ついに“仲良し作戦”を決行する

 朝食を終えると、エミが両手を叩いて宣言した。

「はいっ! お二人とも、ちょっと来てくださーい!」

「エミ?」
「何をするつもりだ?」

 警戒するラディス様をよそに、エミはずいずいと二人の間に割って入ってきた。

「お二人、距離が縮まりすぎて逆にぎこちない!
 というわけで──“意図的に自然な共同作業をして、仲良くなる作戦”を実行します!」

「な、なんですかその作戦……」

「リオラ様、昨日のお菓子で旦那様も感動してましたよね?」

「えっ……そう、なんですか?」

 思わずラディス様へ視線を向ける。

「……ああ。非常に美味しかった」

 その一言に、心臓が跳ねる。

 ラディス様は視線を逸らしつつも、わずかに微笑んでいた。

「というわけで! 今日は“二人で”お茶の時間を作るんです!」

「えっ!?」「……二人で?」

「はい、二人で!」

 エミは勝手にテーブルセットを始めた。

「旦那様にはポットを温めてもらって、リオラ様はケーキを切って──
 はいはい近づいて近づいて!」

「エミ……!」

「おい、エミ。無理をさせるな」

「無理じゃありませんよ。むしろ控えめなくらいです」

 ぐいぐい距離を縮められ、
 気づけばラディス様がすぐ隣に立っていた。

 手が、触れそう。

(あ……また……)

 胸が熱くなる。

 私がケーキを切っていると、横からラディス様の低い声。

「昨日の……暗い中で……君を抱いた時」

「ひゃっ……!」

「……怖がらせたくなかった。
 でも、離れたくなかったのも……事実だ」

(ラ……ラディス様……!?)

 顔が真っ赤になる。

「昨日より……近くにいるのが、いい」

 見上げた先の瞳は、
 いつもの冷静さよりもずっと柔らかくて──

 甘い。

(こんなの……だめ……落ちてしまう……)

 でも、目をそらせなかった。

 笑顔を向けると──

 ラディス様の表情がとろけるように柔らかくなった。

「……っ」

(な、なんで……そんな甘い顔するの……!?)

 胸が跳ねすぎて苦しいくらい。

「その笑顔……好きだ」

「っっ!!!!!」

 膝が崩れそうになった。

 暗闇よりもまぶしい距離。
 触れなくても伝わる体温。

 エミが遠くで、にやにやしながら呟いた。

「はい、もう両想い確定~~~」

(やめてエミィィ……!!)

 でも──
 否定できなかった。

 胸の奥の温かさが、
 もう止められないくらい膨らんでいたから。


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